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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第二章 才能の壁
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師匠

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

《拳打 Lv5》。


何度見ても、数字は変わらなかった。


限界だったLv4を越えた。


嬉しくないわけじゃない。


でも、もっと大きな変化が起こると思っていた。


拳を握る。


開く。


もう一度握る。


「……同じだな」


試しに木へ拳を打ち込んだ。


痛い。


普通に痛い。


「何やってる」


後ろから声がした。


ゼノだ。


「試してた」


「木を殴って何が分かる」


「強くなったかと思って」


ゼノが呆れた顔をする。


「拳打が一つ上がった程度で木を粉々にできるなら、世の中は化け物だらけだ」


それもそうか。


「構えろ」


ゼノが言った。


俺は拳を構えた。


ゼノは木剣すら持っていない。


「来い」


踏み込む。


右拳。


避けられる。


左。


手首を払われる。


蹴り。


脚を取られた。


地面に倒される。


三秒。


「……」


「少しは良くなった」


「少し?」


「少しだ」


立ち上がる。


もう一度。


今度は正面から行かない。


右へ動く。


ゼノの視線が動く。


踏み込む。


拳。


避けられる。


予想していた。


拳を途中で止め、身体を沈める。


足を狙う。


その瞬間、額を指で弾かれた。


「痛っ」


尻餅をつく。


ゼノが俺を見る。


「今のは悪くない」


「当たってない」


「当てることだけが成長じゃない」


そう言って、ゼノは小屋へ戻っていった。


俺は額を押さえながら立ち上がる。


まだ遠い。


でも。


前よりは近い。


それでいい。



その日の午後。


ゼノが珍しいものを持ってきた。


小さな透明の石だった。


「触れろ」


「何これ」


「魔力測定石だ」


言われた通り触れる。


石が淡く光った。


弱い。


かなり弱い。


ゼノは予想していたような顔をした。


「やっぱりか」


「弱い?」


「弱い」


即答だった。


ステータスを見る。


魔力5。


四歳の頃は4だった。


数年で一しか増えていない。


「魔法、使えない?」


「使える」


少し安心する。


「ただし、お前は魔法使いには向いてない」


またか。


「どれくらい?」


「かなり」


そこまで言わなくてもいいと思う。


ゼノが地面に座った。


「魔力には大きく分けて三つの要素がある。量、出力、操作だ」


指を一本立てる。


「量。身体にどれだけ魔力を持てるか」


二本目。


「出力。一度にどれだけ放出できるか」


三本目。


「操作。どれだけ正確に扱えるか」


「俺は?」


「今分かるのは量だけだ。少ない」


「操作は?」


「これから調べる」


ゼノが手を出した。


人差し指の先に、小さな火が灯る。


「やってみろ」


「どうやって?」


「身体の中に何かあるのは分かるか?」


目を閉じる。


分からない。


「……何も」


「だろうな」


ゼノは火を消した。


「まず魔力を感じるところからだ」


「どれくらいかかる?」


「早い奴なら数時間」


「遅いと?」


「数か月」


なるほど。


俺は目を閉じた。



三時間。


何も分からなかった。


次の日。


分からない。


一週間。


分からない。


二週間。


分からない。


ゼノは何も言わなかった。


俺も聞かなかった。


朝の走り込みを終える。


剣を振る。


体術。


食事。


その後、一時間座る。


目を閉じる。


何も感じない。


夜は拳。


そして寝る。


毎日繰り返した。


一か月。


変化なし。


「……本当にある?」


思わず聞いた。


「ステータスに5って書いてあるだろ」


「壊れてない?」


「知らん」


ひどい師匠だ。


……師匠?


そう思ってから、少し引っかかった。


ゼノは俺に戦い方を教えている。


飯も食わせている。


寝る場所もある。


でも、俺は一度も弟子になった覚えがない。


「ゼノ」


「なんだ」


「なんでここまでしてくれるの?」


ゼノの手が止まった。


少し考えてから答える。


「最初は興味だと言っただろ」


「今も?」


「……半分はな」


残り半分は何だ。


ゼノはしばらく黙っていた。


「鉱山のことだ」


俺は顔を上げた。


「最初にお前を捕まえたとき、俺が受けていた依頼は『盗賊に使役されている犯罪奴隷の逃亡防止』だった」


犯罪奴隷。


意味は分かる。


でも。


「俺たちは違う」


「ああ」


ゼノの声が低くなる。


「後で調べた」


ゼノは鉱山主から、正式な依頼として仕事を受けていた。


奴隷の所有自体が、この国ですべて違法というわけではない。


犯罪者や借金によって奴隷となる者もいる。


だからゼノも、最初は疑わなかった。


「だが、あそこにいた奴らの大半は違った」


俺は黙って聞く。


「戦災孤児。攫われた子供。借金とは無関係な人間。書類も偽造されていた」


ミア。


カイル。


顔が浮かんだ。


「……知ったのは?」


「お前を戻した後だ」


拳に力が入る。


ゼノは俺から目を逸らさなかった。


「言い訳はしない。俺が少しでも調べてから仕事を受けていれば、お前をあそこへ戻すことはなかった」


何も言えなかった。


怒っているのか。


分からない。


あの日、ゼノに捕まらなければ逃げられたかもしれない。


でも。


森で死んでいたかもしれない。


分からない。


「鉱山は?」


聞いた。


「ギルドには報告した。領主にも証拠を送った」


「じゃあ、みんなは?」


ゼノが少し黙った。


嫌な予感がした。


「まだだ」


「なんで」


「鉱山主には繋がりがある。下手に動けば証拠を消される。奴隷たちも別の場所へ移される可能性がある」


立ち上がりかけた。


「行く」


「座れ」


「でも」


「今のお前が行って何をする」


言葉が止まる。


「バルガ一人に勝った。それで鉱山全体を相手にできると思ってるのか?」


「……」


「お前が行けば、捕まる。それで終わりだ」


分かっている。


分かっているけど。


「俺がやる」


ゼノが言った。


見る。


「証拠が揃い次第、ギルドが動く。俺も同行する」


「俺も」


「駄目だ」


「なんで」


「弱いからだ」


胸に刺さった。


でも、事実だった。


「悔しいか?」


頷く。


「なら強くなれ」


ゼノが立ち上がる。


「助けたいと思うだけじゃ人は助けられない」


知っている。


嫌というほど。


「力が必要だ。だが力だけでも足りない。判断を間違えれば、強くても人を殺す」


ゼノは自分のことを言っているのかもしれない。


「俺は一度、お前を間違った場所へ戻した」


ゼノが俺を見る。


「同じ失敗はしない」


しばらく沈黙した。


俺は一つだけ聞いた。


「じゃあ、なんで鍛えてくれるの?」


ゼノは頭を掻いた。


「お前が弱いからだ」


「……」


「才能も大したことない」


「……」


「魔力も少ない」


「もういい」


「だが」


ゼノが少し笑った。


「何度倒しても立つ」


黒い外套の男に、初めて会った夜を思い出した。


「才能のある奴は何人も見た。十年に一人と言われる天才も見たことがある」


ゼノは続ける。


「だが、才能がないと分かって、それでも同じことを何万回も続ける馬鹿は初めて見た」


褒められている気がしない。


「それに――」


ゼノが俺のステータスを見る。


《超越》


「今は、その馬鹿にしか使えない力まで生まれた」


少しだけ笑った。


「だから見てみたくなった。お前がどこまで行くのか」


ゼノは右手を差し出した。


「正式に俺の弟子になるか、レオン」


手を見る。


大きな手だった。


父さんの手を少し思い出した。


でも、違う。


父さんじゃない。


この人はゼノだ。


一度、俺を鉱山へ戻した。


そして、その間違いから逃げなかった人だ。


俺はその手を握った。


「……お願いします」


「声が小さい」


「お願いします」


「よし」


ゼノが手を離す。


「じゃあ修行を始めるぞ」


「今までは?」


「準備運動だ」


嫌な予感がした。


「まず山を十周」


「……何キロ?」


「一周八キロくらいだ」


「八十キロ?」


「そうだ」


無理だ。


「できない」


「知ってる」


「?」


ゼノは笑った。


「今日はな」


その言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。


俺も笑った。


「……分かった」


走り出す。


当然、一周目すらまともに走り切れなかった。


それでも翌日。


また走った。


その翌日も。


《超越》があるからじゃない。


師匠がいるからでもない。


昨日できなかったことを、今日少しだけできるようにする。


それを繰り返す。


俺が強くなる方法は、最初から一つしかなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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