第一章第二部⑦ space love
[space love]
2014.5.20 10:45:36 星見里町南部
side:神空鴉那
いつからだろう。
自分の中で月夏という人が、ただのお人よしから変わったのは。
初めての出会いは最悪だったと思う。なんたって爪を突きつけての詰問だし。
それでも彼はしょうがないな、と面倒をみてくれて、そして、ついてきてくれた。
私にだってわかる、あんな嘘までついて。
月夏だって夜にやった内潤卦で体はとっくに限界だと思うのに、それでも走って、戦って、そして喪った。
ずっとずっと巻き込んでばかりで、月夏が折れた時、逆に安心した自分が嫌だった。
ああ、月夏も同じなんだって。
そんな考えが湧いて出る時点で、多分月夏をちゃんとみてなかったなって。
そんなことばかり頭を巡って。
それでも、それに気がつけたから、二人で抱えて行こうって、思えたんだ。
「ね、月夏」
二人とも落ち着いてから、改めて話す。
「私は師匠を取り戻したい。それと同じくらい、月夏と一緒にいたいなって、思った……ん……」
言おうとしたことを改めて考えて顔が赤くなる。
でもそんなことで止めたりはしない、一度深呼吸を挟んでみる。
「ふぅ……えっとね、だから、その、月夏と3人で帰りたいなって」
「……おう」
月夏も耳が赤くなっているけれど、やっぱり変だったかな……
「えっと、大丈夫?」
「お、おう!問題なんかあるか!諸手を振って賠償金共々帰ってやろうぜ!」
まだ言ってる、思わず笑みが溢れた。
「……やっぱ、アナは笑った方がいいと思うぜ」
その一言で、またお互い目を合わせられなくなった。
「話が逸れちゃったね。さっきのは折れた腕を内潤卦をこう、だーっとやって治してたんだけど、すごく痛くて声が出ただけだから、大丈夫だよ」
月夏も少し恥ずかしかったのか、お互い少し離れて向き合ってから、さっき起こしちゃった原因を話す。
「……本当に大丈夫なのか?」
「治さないと片手で戦わないとだし、今のうちにやらなきゃやられちゃうから」
実際、さっきのはたまたま気がついた不意打ちだから成功したようなもの。いつもあんなに上手くいくなんてことなんかない。
「……なら、俺にもそれを教えてくれ。俺の腕もこんな状態だからな」
「えっと……ちょっと待ってね、まずうちの腕を治させて、それから確認してもいい?」
「確認?……まぁ、わかったよ」
多分だけど、月夏のは折れてない気がする。でもまずは自分の腕が使い物にならないと。
「しばらくうるさいかもだけど、ごめんね……」
「気にするな、アナがいなきゃ勝てるものも勝てないさ」
「……ありがとう」
改めて右腕の関節側に内潤卦を巡らせる。
ただ、いつもの流し方とは少しだけ違うのは、筋肉よりもう一つ下、骨に、神経に、走らせることだけ。
その瞬間、痛みが、熱が、腕を駆け巡った。
「っあ"あ"ぁ!」
何度やっても慣れない痛みと熱さに声が我慢できない。
やめたい、治らなくていい。そう思いながら、それでもいつも耐えたんだ。
それに月夏だって痛いのにずっと耐えてるのに、自分だけが降りるの?
「ぐう"う"ぅ!!」
獣のような声が出る。でも、あとすこし……
「っあぁ!!」
応急だけど、なんとか動けるようになった。
「はぁ……はぁ……おまたせ……」
「だ、大丈夫か?」
「うん……そんなに複雑じゃなかったから……」
まだ痛みは残ってるけど、月夏も右腕が動いてなさそう。
でもこれは……
「月夏……これは教えられない」
「なんでだ?また一人で……」
「ううん、違うの。月夏のは脱臼。内潤卦じゃ治らないの……嵌め治すしかないけど……その、同じくらい痛くて……」
瞬間とは言え、やっぱり痛いのは痛いもの。
「……やろう」
「大丈夫?」
「さっきあれだけ痛みに耐えてた奴がよくいうぜ。脱臼ってことは瞬間だろ?なんとかなるさ」
「……もし大声が出そうでも、ここには私しかいないから、大丈夫だからね?」
何故かその一言で顔を真っ赤にしてる月夏。
……なんか変なこと言ったかな。
「じゃ、さん、にー、いちでいくよ」
「お、おう」
「じゃ、深呼吸して……いくよ、さん、にー、いち、はっ!」
「ぐぅっ!!!」
やっぱり痛かったよね……
「大丈夫?」
「そのままお返しするよ……」
そのまま右腕を回す。
「ん、大丈夫そうだ」
よかった、あんな荒技、使わないで済むなら使わない方がいいもの。
それと、もう一つ気になったことが。
「そういえば月夏、ずっとそれ握ってたね。大事なもの?」
首から下げられたペンダント。
誰かに贈ってもらったのかな……
「ああ、これか……いや、俺が養親に引き取られる前から持ってたっぽいんだけどな、親の顔はわからねぇし、弟か妹がいたとしてそれだけで分かるもんでもないしな」
そう言って、中の写真を見せてくれた。
写真の半分は焼けていて、一人の男の子と、幼児が親かな?大人に抱えられていた。
「これ、どっちが月夏なのかな?」
「施設で見つかった時の特徴だとこっちのガキらしいけどな」
そう言って男の子の方を指す。
「へぇ、あんまり今と似てないね!」
「うるせぇ!」
二人とも腕が使えるようになってから、また少し森を進み、一度休憩……して二人とも意識がしばらく飛んでたけど。
その間に霧が森を覆っていた。
「飛ぶ?」
「いや、消耗は減らそう……いつ奇襲があるかわからないしな」
確かに、まだ万全とは言えない中でまた最初や2番目の敵くらいの強さがあると正直厳しいかも……あれ?
「ね、月夏。どうしてあいつらって一度にみんなで来ないんだろ?」
「やっぱそこ気になるよな……わざわざ逐次投入なんて……いや、まさかな……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないさ」
何か考え始めた月夏に、問いかけるも躱された。
少し気になる中だったが、ふと前を見ると木々の合間から、ぼうっとした明かりが見えた。
「着いた、のかな」
「恐らくな」
星見里の外れだけど、ついに森が終わる。
そろそろ夕方のはずだけど、雲と霧で薄暗さに満ちたその雰囲気は、ちょっと気味が悪いかも……
だけど、奇襲どころか追手の気配すら、あれから全くなかった。




