第一章第二節③ Deja vu
[Deja vu]
2014.5.20 06:22:15 県道087号線 惣明峠
side:神空 鴉那
えーっと……ちょっと現状確認。
月夏に起こされてご飯食べてバスに乗って……うとうとしてたらすごい衝撃が来てバスが真横になってた。
何を言ってるかわからないと思うし、私もよくわかってない。
ただ、外から凄まじい殺気がする。おそらく、追手の連中。
この中にいるのはマズい。狙い撃ちにされる。
体は重力で引っ張られるけど、いまの体勢の方が下手に降りるよりも窓は近い。
ちょっとガタついたけど、なんとか開けることに成功。
小指を| 仮想は時に現実を喰らう《ショクバミ》でナイフ状に一瞬だけ変質させ、シートベルトを切って脱出する。
「月夏!こっち!」
上から見る限り月夏は口から血が出てるけど、大きな傷はなさそう。
そのまま手を取って引っ張る。
月夏が乗り上げた時、さっきから上を飛んでいた奴が急に降下してきた。
「っ!」
風が体に吹きつけたけど、なんとか耐えられた。
ただ、踏ん張れない場所じゃ分が悪いかも。
「奴が……!」
月夏が睨みつけたと同時に再び襲いかかってくる。
さっきいっぱい休ませてもらったし、私が頑張らなきゃ。それに、なんだか嫌な感じがする。
「月夏、離れてて!」
ショクバミによる翼と鉤爪の創造、そしてそれを補うため内潤卦を巡らせる。
「はあっ!」
バスの側面を蹴り出して向こうのフィールドに飛び込む。
この手の相手は鳥と同じだ。地上戦になると、とことん弱い。でも、空を飛ばれてちゃ圧倒的にこちらが不利。
だから、その羽根を削ぎ落とすしかない。
でも、向こうもそれはわかっているだろう。
交差する一瞬を、あえてワンテンポずらして上の羽を狙った、鉤爪の一閃。
……まずい、読まれていた。大振りになった右腕は回避され、勢いを失ったところをそのまま4本の腕で掴まれる。
「くっ!」
左腕の鉤爪を腰の回転を使って振り抜く。
だがその一瞬前に、右腕の関節を膝に叩きつけられた。
「があっ!!」
痛みに負けるのは後でいい!このままじゃ、月夏も危ない!
意地だけで左腕を振り抜く。手ごたえがある!
「ギャアアッ!!」
向こうも腕の一本と、羽根の一部を持っていかれて悶絶する。
ざまあみろ。
とはいえ、向こうはまだ3本の腕。こちらは片翼でもはや堕ちるだけ。等価交換とは程遠い戦果。
それに、このままじゃ———
「アナっ!!」
バスに叩きつけられる直前に月夏が受け止めてくれ、そのままお互いに後ろへ転がり受け身を取る。
「大丈夫か!?」
「右腕がやられちゃった!空中戦はもうキツいかも!」
若干おかしい方向を向いてぶらりとした右腕を見て月夏の表情が険しくなる。
「大丈夫!まだやれるから!」
左腕を構え直す。こうなったらカウンターしかない……ない?本当に?
その間も絶え間なく上空から足技を繰り出してくる相手に防戦一方になりながら頭だけは回し続ける。
迎撃はするものの、足なんか掴ませてはくれない。
そんな間抜けならさっきの一閃で勝負は決まってた。
それなりの高さから旋回と急降下による一撃離脱。消耗戦になったらこっちが不利だ。
……ただ、空中の速度やバランス感はやはりさっきの一撃が大きそうで、弱体化自体は間違いなくしている。
その時、あの研究所でやらされた、ひとつの技を思い出す。
あの技には専用の道具が要ると言われてた。
でも、もしかしたら———
「月夏!」
ハッとした顔でこちらを向く。
「もうひとつ、やれるかも……ちょっとの間、守って、くれる?」
ひとつだけ、ワンチャンスがあるかもしれない。




