6 来客
屋敷の外からの声に僕は叩き起こされた。まだ腹は減っていないのだから、物置部屋の外に出る理由もなく、僕は無視を決め込んだ。
屋敷に誰かが入ってくる音が聞こえた。「ルカ! いないの!?」と耳が痛くなるような甲高い声を張り上げて屋敷の中をウロウロしているのは、イルゼだろうか。仮に違うとしても、僕には関係のない話だ。もし泥棒なら金目のものが一切ない空っぽの屋敷をうろちょろされたところで痛くも痒くもない。とにかく、無視して良い。
程なくして物置部屋が蹴破られた。一瞬にして部屋に光が差し、その光を背に引きつった顔でイルゼが僕を見下ろしていた。
「な、なんでこんなところにいるの。ここ物置でしょ」
「ここが一番落ち着くので。あ、おはようございます」
「もう昼よ。はぁ、ほんとう変な人ね。魔王を倒せる人間てのはやっぱり頭から何個か大事なものが抜けてるような人なのかしら」
僕はイルゼの言葉を、寝転んだまま聞き流していた。
「ってそうじゃなくて。あなたに言いたいことが二つあるの。それを伝えるためにわざわざこの私が出向いてきたのよ。全く、お父様ったらなんで私ばっかりにこんな役をやらせるのかしら。大体」
イルゼは散々伯爵への愚痴を吐き散らかす。イルゼは顔にも言動にも自分の感情が出やすい人間なのだろう。わかりやすくてコミュニケーションとしては良いのだろうが、貴族のご令嬢とは到底思えない程幼稚に見えた。僕にはそういった感情があるのだろうか。そしてそれが会話の中で表に出ているのだろうか。
「で、本題だけど。一つ目は屋敷の前の雑草を家畜のようにムシャムシャ食べるのは止めなさい。不気味だって苦情が来たわよ。てかなんで草なんか食べてるの? あなた、牛か何か?」
「僕は牛ではないです」
「それは知ってるわよ。冗談を本気にしないで」
「はあ」
「それで、なんで草食べてたの? 草が好きなの?」
「別に好きとか嫌いとかは無いです。ただ、空腹を満たせれば何でも良かったので」
「何でも良くても、普通雑草は食べないわよ」
僕の説明にも、イルゼは納得ができていないようだった。しかしこれ以上話を深堀りする気もなくただ「まあ、止めて頂戴ね。ここから少し行けば街があって、そこならパンでも魚でも売ってるから」と厄介事を払うように言うだけだった。
「じゃあ二つ目ね。畑の収穫の手伝いをしてほしいと街の人が頼んでたから、ルカに行ってほしいってお父様が言ってたわ」
「そうなんですね。わかりました」
「でもお父様ったら」またイルゼの愚痴が始まった。「また私に畑まで案内しろって言うのよ? 冗談じゃないわ。今日は家で本を読みたかったのに、なんで今から畑なんかに行かなきゃいけないのよ」
どうやら強制且つ今すぐの話らしい。僕はイルゼとは反対方向に寝返りをうった。




