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4 常闇

「ついたわ。ここがあなたのお屋敷よ」


 イルゼが指を刺す先には、古いが立派な屋敷が建っていた。借家の何倍も大きく、一人で住むには広すぎる。しかし僕は一人しかいないから、きっとこの屋敷は閑散とした寂しいものになるだろう。僕と同じだ。


「一応中は掃除させてあるから、すぐに生活できると思うわ」


「ありがとうございます」


「掃除したのは私じゃないわよ。でもそうね、掃除を命令したのは私だから、その感謝、受け取っておくわ。ところで、あなた、ここ一人で住むのよね」


「そうですね」


 イルゼはふふふと揶揄うように笑う。「それはちょっと、寂しいわね」


「だと思います」


 イルゼは一瞬唖然としてから、「あなたねえ」と呆れを含んだ声を吐いた。


「まあ、今日からここはあなたのお屋敷なのだから、好きに使うといいわ。そうだ、もし仕事が欲しくなったら遠慮なく言いなさい。お父様は人で不足だって言ってたから」


 実は、王様にもらった分と、王都を出る時に発覚したギルドに預けていた貯金のおかげで、今はそこまで金に困っていなかった。父さんが報酬のほとんどを貯金に回すようにしてくれていたらしい。おかげで僕はろくな物を食べてこなかったが、今となってはもう食に興味もこだわりもないので、別になにも思わない。


「考えておきます」


「そう。まあ、こっちからなにか頼むこともあるだろうから、そのときはしっかり働きなさいね。私はもう帰るから。って、帰りも歩かなきゃいけないじゃないの。はぁ、本当サイアク」


 イルゼの口は止まらないがどうやら話は終わったようで、僕はイルゼが帰るのを見届けてから屋敷に入った。


 中はやはり広すぎる。イルゼの言う通り、中はしっかりと掃除されていて綺麗だ。二階建てで、一階に大きい部屋が3つと小さい部屋五つ、二階は部屋が四つに物置部屋が一つという作りになっていた。僕は借家ですら綺麗な部屋を保てなかったから、この屋敷も一月しないうちに埃まみれになるだろう。


 僕は屋敷の中で、物置部屋が一番気に入った。狭さや薄暗さが借家のときにそっくりで落ち着く。せっかく王都から出てきたのに、結局僕にとってはこういう薄汚い場所が住みやすいのだ。僕はここを自室にすることに決めた。


 屋敷は照明を魔法で明るくしているらしい。僕ら冒険者がダンジョンで回収してきた魔石が、こういった屋敷の照明等に使われていることを始めて知った。借家にはこんな便利なものはなく、ロウソクの明かりを頼っていた。しかし、僕にこの照明は明るすぎた。照明をすべて消すと、この屋敷にはあまり陽の光が入ってこず常闇である。だがこの闇は、僕の影も覆い隠してくれた。


 物置部屋の扉を閉め、自分の手足も見えない暗闇の中で僕は寝そべり、光も音も匂いも無い世界に溶けていった。

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