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3 空っぽ

 よく考えれば、王都から伯爵の領地までの道も、今歩いている屋敷までの道も、モンスター退治やダンジョン攻略のために何度も通ってきたはずなのに、僕は何も覚えていなかった。広がる田畑やちょろちょろと流れる用水路の水、頬を撫でるそよ風すら僕にとっては新鮮だった。そう考えると、今までこんな綺麗な世界を見てこなかったのは勿体無いことだ。どうせ飽きるだろうが、しばらくは自然を満喫してみようか。


「何もないところでしょ」


 僕の隣を歩くイルゼが、誰に言うでもなく、ただぼそっと呟いた。


「そうですかね」


「そうよ。ここは畑以外何もないわ。確かにここはお水が綺麗でごはんも美味しいけれど、でもそれだけ。ごはんが美味しくなくて空気が悪くても、王都の方が絶対いいわよ。それなのにお父様は私をあまり王都に連れて行ってはくれないの」


 不満を撒き散らすような話し方をするイルゼを見て、僕は王都での生活を思い出した。父さんがダンジョンで死んでからギルド近くの借家で暮らすようになり、それからは朝にパンと干し肉を食べ、仕事に行き、夜にパンと干し肉を食べるだけの生活だったが、イルゼはこれをやりたいのだろうか。いや、今は冒険者も仕事がないから食ってはいけない。もしくは、王都には僕の知らない楽しいことがあるのかもしれない。しかし田舎の屋敷に引っ越すことになった僕は、おそらくもう王都に出向くことはないから、今から知ることもできない。


「お父様は私に後継者になってほしいみたいだけど、絶対嫌。私は王都の貴族になって夢見たいな生活をするんだから」


 そんな叶うはずのない夢を語るイルゼが、少し眩しく見えた。その光が僕を照らし、影を作って僕の空っぽの中身を強調する。


「叶うといいですね」

 心にもない言葉を放り投げた僕に、イルゼは気持ちのいい笑顔を向けた。


「あなたも何かやりたいことないわけ?」


 イルゼの唐突な問いかけに、僕はすぐ返せない。しかしイルゼは僕の返答を待たずに続ける。


「魔王を倒すっていう目標を達成したからだろうけど、あなた今空っぽに見えるわ。だめよ、それじゃ。何かやることがないと、ここみたいに人生暇よ」


 僕は返答をしなかった。


 それをいうと、魔王がまだ生きていた頃から僕は空っぽだったように思う。剣を振り魔物を倒し、疲れて帰ってパンと干し肉を齧って寝るだけの日々。そこに僕の意思はなかった。ただやらなきゃいけないからやるだけ。やることを消化するだけの日々でしかなかった。


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