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10 人殺し

 剣を仕舞って馬車に乗り込み寝ようとしたところで、僕はイルゼに悲鳴ともとれる叫び声で呼ばれた。


「なんで、殺したの」


「仕事ですから」


 イルゼが腰を抜かして尻もちをつき、口を押えて嗚咽を抑え込んで、せっかくの高価で綺麗なドレスが台無しになってしまっている。彼らはもう人ではないのだから、一々可哀そうに思ったり罪の意識を感じたりしなくてもいいのに。


「この、人殺し」


 イルゼが絞り出した言葉は、恐怖と憎悪がぐちゃぐちゃに混ざった気持ちの悪い感情と一緒に僕に届いた。芋掘りの時とは違う、より酷い目が僕に向けられる。僕の仕事は、貴族のお嬢様には受け入れられないらしい。


「お嬢様……ルカ様、ありがとうございます」

 

 そう僕に頭を下げてきた御者を見て、イルゼは僕に向けていた目を彼に向けた。


「なんでよ。私がおかしいの? ルカは人を殺したのよ?」


「あれは人ではありません」


「ルカ様。私としては、そこまでは言いませんが……お嬢様、彼らと戦わなければ私達が殺されていました。だからこれは、仕方の無い事なのです」


「なんで、違う」などとぶつぶつ一人で喋っているイルゼを放って、僕は馬車に戻り、剣を抱えて目を瞑った。


 

 しばらくして、イルゼが戻ってきてすぐ「馬車から降りて」と言い放った。


「何故ですか」


「人殺しと一緒の馬車に乗りたくないの」


「ですが、一緒に行かなくては馬車の護衛が出来ないので」


「歩いてついてくればいいでしょ。いいから馬車から出て行って。あなたと同じ空間にいると怖くて仕方が無いの」


 せっかく寝て過ごそうと思っていたのに、イルゼはもう聞く耳を持たないだろうから僕は馬車から降りた。


 ゆっくり進む馬車の隣を、僕はゆっくり歩く。


 きっと貴族のお嬢様だから屋敷や領地の外に出たことが無いのだろう。こういった何もない道を歩いていれば盗賊や冒険者、魔物の死体なんかいくらでも見つかる。クライスラー伯爵がイルゼを王都に行かせたくなかったのも、こういうのを見せたくなかったからなのかもしれない。


  



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