遭逢
続投3話目です。
「……俺は、自由を選ぶよ」
庭の静けさの中で、悠真の声は確かに響いた。
その瞳には怯えも迷いもない――ただ、真っ直ぐな意志だけがあった。
遼真は目を細め、口元をわずかに緩める。
い
「なら、それを貫けるだけの力を。
君自身の手で、君自身の道を守る術を、これから教えよう。」
隣に立つ結芽が、涼しげな目元をわずかに動かす。
白い指先が、数枚の護符を風に揺らしながら悠真へと差し出した。
「まずは、“神核と繋がる”感覚を、体で覚えて。
君の中にあるその力が、どこにあるのかを知るのが先。」
「力が、どこにあるか……?」
「そう。
君の“意識”と“神核”は、まだ遠い。
繋がるには、“沈んで”、触れて、“輪郭”を感じること。
……水の底に落ちていくみたいに。」
結芽の声はまるで風のようだった。
どこか冷たく、だが拒絶は感じない。
その響きに導かれるように、悠真は膝を折り、庭の中央に座る。
遼真が木陰から見守るなか、結芽は悠真の背に回り、指先で静かに印を切る。
「この護符は、外界の感覚を遮る。
君の中の“最深部”に集中して。
そこに……君だけの神核が、眠ってる。」
悠真の視界が薄く、そして暗くなっていく。
風が止まり、音が引き、世界が沈黙する。
深く。さらに深く――沈んでいく。
気がつけば、悠真は“時間のない場所”にいた。
そこは黒でも白でもない、色も温度も持たない空間だった。
自分の体があるのかどうかも、確信が持てない。
だが、その中心に――何かが“ある”。
それは“存在”というより、“可能性の集合”だった。
光も闇も、時さえも超えて佇む、“起点”。
「……これが、俺の中にある“神核”……?」
その瞬間、何かが応えた。
静かな、だが恐ろしく深い“視線”が、悠真に注がれた。
――《何者か》
声ではなかった。
脳に響く“概念の流れ”。
悠真の存在を“問う”圧倒的な何か。
だが、悠真は逸らさなかった。
「俺は……一条悠真だ。俺の意志で、ここにいる」
《やっと逢えたな、まずは我を知れ》
次の瞬間、空間が“書き換わる”。
時が逆行するような感覚。
見たこともない過去が、幻のように脳裏に流れ込んでくる。
――星々が生まれ、空が形を成し、地が浮かびあがる。
その中心に立つ、誰でもない存在――原初の神、“アメノミナカヌシ”。
それは“創造そのもの”だった。
◇ ◇ ◇
「……ッ!」
悠真が息を荒げて目を開けると、空は夕暮れに染まっていた。
体は汗で濡れ、心臓が激しく鼓動していた。
結芽が静かに問いかける。
「見えた?」
「……ああ。すごいものを……見た気がする。」
遼真が少しだけ頷いた。
「感応の第一段階は完了だ。
まだ先は長いけど、焦ることはない。
……アメノミナカヌシ。
君の神核が持つ“原初の力”は、未知数だ。
同時に、君を呑み込む危険も孕む。」
悠真は拳を握りしめた。
「……だから、制御する。
俺自身の意志で、力を握ってみせる。」
夕陽のなか、悠真の眼差しは確かに強く光っていた。