神核の格付け
初日なので、まだ投稿します。
基本的には1日1話更新で考えてます。
縁側に座る悠真の前に、静かに茶の湯が置かれた。
「君は、まだ状況がよく飲み込めていないように見える。
……それも当然だ。選ばれた側には、いつだって考える暇などないからね。」
静かな声であるものの、重みのある声で天城遼真が語る。
「……君があの場にいたのは偶然ではない。
いや、正確には“巻き込まれた”んだ。
――天統院の意思に、だ。」
悠真が顔を上げる。遼真の言葉は続く。
「君が“原初の神核”を宿したこと、我々が君を確保しようとしていたこと……
それらを踏まえた上で、天統院はあの局面で“意図的に情報を漏洩”させた。
つまり、根の会が君に接触する可能性すら“計算に入れていた”わけだ」
悠真の表情が、戸惑いから怒りに変わる。
「それって……俺を囮にしたってことか?」
遼真はわずかに目を伏せると、静かに言った。
「君は“器”として、あまりにも規格外すぎる。
君が何者かを試すには、敵との接触すら必要だと、あの人たちは判断したのだろう。
……私には、彼らの判断が必ずしも正しいとは思えないがね。」
悠真の中に、怒りと無力感が混じった。
「じゃあ俺は……最初から、天統院の“道具”だったのか……?」
結芽が言葉もなく、静かに目を伏せる。
遼真は苦い微笑を浮かべ、しかしそれでも言葉を選んだ。
「……だが、君が生き延びたという事実は、君自身の意思と力によるものだよ。
そしてそれは、これからの選択を、君自身のものにする資格を与えてくれる。」
「まずは、いくつか基礎的な理解をしてもらう必要がある。
――“神核”とは何か。
そしてそれが、君にどう関わっていくのか。」
遼真は地面に指を伸ばし、無造作に線を引いた。
「“神核”とは、神話の時代の神格が人の器に宿ったものだ。
天津神・国津神のどちらであれ、その神格が断片となり、選ばれた個体に刻印され、神能という一種の超常現象のような力が使えるようになる。
君もその一人だ。……“原初神核”の器としてね。」
悠真は小さく息を飲む。
それに構わず、遼真は淡々と続ける。
「神核には、等級が存在する。
……危険度、影響範囲、そして発現確率によって、僕たちはそれを次のように分類している。」
【三級:末端神格】
「山、川、火など、局所的で民俗性の強い神格。制御しやすい分、神能も限定的だ。
日常生活に“併用”できる神核の多くはこのランクに留まる。」
【二級:中柱神格】
「農業、医術、舞、技術など、人と深く関わる神格。
例えば久須美君の神核《木花之佐久夜毘売》もこの部類に属する。
制御は比較的安定しているが、“神核共鳴”のリスクがある。つまり暴走だね。」
横で結芽が静かに目を伏せる。
【一級:大柱神格】
「空間、死、災厄、国土。
神の神威で都市ひとつを変える力を持つ。それでも人を生き返らせたりは出来ない。
僕の《大国主》もこのランクだよ。」
悠真の背筋がわずかに震える。
【特異点:分類不可】
「そして、君が宿した“アメノミナカヌシ”はの特異点だ。
天・地・海、いずれにも属さない“原初の神”。
……これは既存の体系にすら収まりきらない。
例えるなら、存在そのものを再定義する力、だ。
君の神核は“秩序に作用する因子”を持っていると見ている。」
「……神能の代償は?」
「当然ある。神核を使用すれば、肉体・精神・記憶など、何かを失う可能性がある。
それが何であるかは、神格によって異なるし、君の場合はまだ未知数だ。
だけど、確実に“変質”は起こる。
……君は、人であり続けられるかどうか、その選択を常に迫られるだろうね。」
それは宣告のようだった。
悠真は俯き、拳を握る。
だが、それでも――彼の声は、揺れなかった。
「俺は……理由はまだ分からないけど、この力があるのなら……誰かを守れるのかもしれない。」
遼真は一度目を伏せてから、静かに微笑んだ。
「うん。君は、意外と“素質”があるかもしれないね。」