2つの陣営
4話目です。
間違いなきよう。
闇の中から目を覚ました悠真は、まだ現実感のない頭で、見慣れない天井を見つめていた。静かな畳の香りと障子越しの柔らかな光。そこは病室ではなかった。
「目が覚めたのね。」
声をかけてきたのは、あのとき助けてくれた少女――結芽だった。彼女は小さな木机の前に座り、何か文書のようなものを広げていた。
「……ここは?」
「ここは《常世ノ社》。根の会の保護拠点。君は一晩、眠っていた」
悠真はふと、昨晩の出来事を思い出した。綾部と名乗る青年に襲われ、胸を貫かれたはずの感触……しかし、自分はこうして生きている。
「俺……死んだんじゃ……」
「攻撃は成立していた。でも、因果は改変された」
結芽の声には、わずかに畏怖が滲んでいた。
「結果を、書き換えた……?」
「君の神核が反応した。攻撃の未来を拒絶し、別の現実が上書きされた。信じ難いが、事実」
悠真は、ただ呆然とした。そんな荒唐無稽なことが、現実に?
「……それが、神核の力なのか?」
結芽は頷き、手元の文書を畳んでから口を開いた。
「神核。それは古代神の本質。継承者に宿ることで、力が発現する。炎、時間、空間、概念。君の力は未知数。天津にも、国津にも記録はない。それは、原初の神”アメノミナカヌシ”と呼ばれている。」
「神様の力が、俺の中に……?」
「あの場から脱出できたのは、根の会の会長の力。大国主の神核を宿し、空間を操る能力者。彼の神核の力でここまで転送された。」
悠真は思わず息を呑んだ。
「超長距離の空間跳躍。でも代償は検出されていない。彼の能力は、特異。」
しばし沈黙が流れる。
「……結芽、だっけ。そもそも、なんでそんな戦いが起きてるんだ。国津神とか天津神とか……」
結芽は一つ息を吐き、立ち上がって障子を開けた。外には広がる神社の庭、静謐な空気の中に小鳥のさえずりが響いている。
「説明する。現代の神格構造について。」
彼女は語り始める。
――かつて、神々の時代に“天”を支配した天津神と、“地”を司った国津神。その争いは表向きには終結し、天津神がこの国の祭祀と統治を担うことになった。だが、国津神たちは滅びてなどいなかった。彼らの神格は、時を越え、神核となり、人の内へと受け継がれた。
現代。神核を持つ者たちが覚醒し、争いが芽吹き始めた。
天津神陣営《天統院》は、神核の力を国家管理下に置こうとし、従わぬ者は“危険因子”として封印もしくは排除する。一方、国津神陣営《根の会》は、神核継承者の自主性を尊重し、神々の力をどう使うかは個人の意志に委ねるという立場を取っている。ーー
「正否は私にも判別できない。ただ、君は既に“ただの人間”ではない。両陣営にとって。」
悠真は拳を握りしめる。戦いに巻き込まれたのは偶然だった。しかし、もう元の生活には戻れないのかもしれない。
彼の中の何かが、ゆっくりと覚醒していく気配があった。
結芽が静かに続けた。
「一条悠真。君は“選ばれた器”」