目覚めの断章
三話目です。
間違いなきよう。
異様な静寂が廃ビルを包んでいた。
悠真の掌に浮かぶ円環の神文。その中心で微かに光が脈動している。
「これ……俺が……?」
自身の体から放たれる神核の輝きに、悠真は怯えを隠せなかった。
「下がって! 発動しかけてる!」
結芽が叫ぶ。だが、もう遅かった。
空間が反転する。床が天となり、壁が歪む。悠真の意識が宙に浮かび、世界の“言語”が書き換えられていく――
目に映る現実のすべてが、粒子の羅列へと変貌していた。
――存在の輪郭。事象の連鎖。時間の構造。
悠真の“神核”の本質、それは「世界の因果律を書き換える」創造の力。
悠真の中の“何か”が囁く。
≪我は初めの核――アメノミナカヌシ≫
≪この世界に秩序を。混沌を。理を、編み直せ≫
「うあああああああッ!!」
悠真の叫びとともに、神文が膨れ上がり、周囲の構造が一斉に崩壊する――が。
その光は、寸前のところで凍結した。
「《鎮律・結界》!」
結芽の札が悠真の身体を包み込み、神核の暴走を一時的に封じる。
崩壊しかけた空間が、静かに再構成されていった。
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地下への脱出
「……はぁ……なんとか、抑えた……」
結芽は汗を拭いながら、気絶した悠真を背負う。
その顔には安堵と、焦りが混ざっていた。
「こんなにも早く……神核が覚醒するなんて……」
結芽は地下通路を進みながら、携帯式の符装端末に符文を入力する。
『至急、転移を。対象、神核覚醒兆候あり。極めて危険。天津の追手もすぐそこまで来てる。』
送信と同時に、背後の空間が微かに揺れた。
綾部の気配だ。まだ追ってきている。
「間に合って……っ」
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一方、廃ビルの外。
綾部晃司は、無言で地面に手を触れていた。
焼け焦げた跡。空間の歪み。時間断層の痕跡。
「やはり……“因果律操作”だな。」
その背後に、黒いフードの人物が立っていた。
「報告しろ。お前の任務は観測と接触のみのはずだった」
「だが、奴の神核は“それ”だ。天津でも、国津でもない、創造の原核――アメノミナカヌシ」
フードの人物はわずかに目を細めた。
「――バランスの崩壊が始まったということか」
風が吹く。夜の闇が、不吉に鳴いた。