選ばれし器
二話目です。
間違いなきよう。
「死んで……ないッ!?」
目の前の男――神核を宿す天津神の戦闘斥候。人間では到底敵わない異能を操る存在。
光の短剣は悠真の胸元へ――いや、確かに、その刃は悠真の胸を貫いたはずだった。
だが、先程の瞬間、確かに綾部は見ていた。
光が巻き戻るように霧散し、悠真には傷ひとつ付いていなかった。
「時間じゃない。空間でもない……これは、結果が……書き換わった……?くそっ!死ねよ!」
綾部の光刃が再び、今度こそ悠真の生命を刈り取ろうと胸元へ向かう。
「《守律・結界》!」
結芽が札を破く。
空間が歪み、綾部の腕が跳ね返された。
「今のうち! 走って!」
悠真は戸惑いながらも、結芽の手を取り、夜の校舎裏を駆け出した。
市街地外れ:廃ビル内部
二人は廃墟と化したビルの一室に身を潜めていた。
「何が……どうなってるんだよ……」
息を荒げる悠真に、結芽は静かに言った。
「神核――それは、神の本質を人の魂に宿す力。魂と神核が融合すれば、人は人を超える」
「つまり、あいつは神様ってことか?」
「いいえ。あくまでも神の力の一部を使えるだけで彼は人よ。」
結芽は自身の腕をまくり、手首に浮かぶ光の文様を見せた。
「私もその一人。私は“国津神側”の継承者。あなたを護る義務がある」
悠真は困惑する。
「なんで俺なんだ……俺はただの高校生だ。勉強も運動も普通、取り柄なんて何も――」
「あなたの中に眠る神核は…… 《アメノミナカヌシ》。宇宙を創造した最初の存在。すべての神の根源」
世界が、静止する。
耳鳴りのように、脳内に響く声。
――我の力を使え
再び、悠真の中で“何か”が目を覚ましかけていた。
そのとき、廃ビルの床下から異音が響いた。
「また来た……早すぎる……!」
綾部か、それとも別の神核継承者か。
結芽は短く息を吐き、腰元の鞄から札を取り出した。
「次は……逃げきれないかもしれない」
だがそのとき。
悠真の中から、光が溢れた。
掌に、浮かび上がる円環の神文。
時空が軋み、空気が震える。
彼の中に確かに、“神”が宿っていた。