雷と風の邂逅
3話連続投稿2話目です。
建部 蓮による格闘訓練を続けてきた悠真の動きは、目に見えて洗練されていた。
受け身、間合いの取り方、気配の読み取り。
神核の力に頼らない“人間としての戦い方”が、身体に刻まれていた。
学校帰りに結芽と落ち合い、今日からの実戦訓練に心を弾ませながら、常世の社に向かおうとしていたそのときだった。
「……あれ?」
街道の角を曲がった瞬間、妙な違和感が全身を包む。
風の流れが止まり、音が消えた。
周囲の気配が、まるで“何か”に覆われている。
「……来た。」
悠真が即座に身構える。そして結芽の手には、いつものように札が握られていた。
次の瞬間、紫電と共に“それ”は現れた。
「発見。対象は一条悠真。捕縛優先、排除は必要に応じて可か。」
冷たい声が、まるで機械が読み上げるように響く。
――白い装束に身を包み、額に天統院の紋章を刻んだ仮面の男。
その背後には淡く浮かぶ神核のオーラ。
その重圧に、悠真は息を飲んだ。
訓練により強くなったつもりだったが、この男にはどうやっても勝てるイメージが湧かなかった。
「天統院……!」
「君を保護している“根の会”は悪だ。君を管理する権限は我々にある。」
結芽が前へ出る。
「悠真には触れさせない。ここで退いて。」
「抵抗と判断。排除する。」
瞬間、男が動いた。
風が裂ける。
悠真は直感で横に飛び、結芽が守律札を空中で引き裂いた。金の紋が炸裂し、光の結界が展開された。
その瞬間、男の神能と結界がぶつかり、凄まじい衝撃が辺りを揺るがせる。
「っく……!」
「悠真、逃げて!」
結芽が叫ぶ。遼真の札による結界は防御に徹しているが、時間は稼げても決定打にはならない。
「くそっ……!」
男は紫電をまとって接近していた。
悠真の背後を狙う奇襲。もう守律札も間に合わない。
そのとき――
「離れろ!!」
地を打つような衝撃音と共に、暴風が吹く。
次の瞬間、悠真と男の間に“何か”が降り立つ。
「……間に合ったか。」
風の気配を纏った長身の青年――建部 蓮だった。
「蓮さん……!」
「こいつは俺が抑える。お前たちは社へ向かえ!」
「でも――!」
「いいから行け!」
彼は暴風を纏い、構手からは神核の鼓動が波打っていた。
それは確かに、建御名方神の力。
「さあ、悠真。こっち。」
結芽が手を引く。
走る。
ただただ、結芽と共に。
「おいおい、いきなり鹿島武司が来るかよ。建御雷だろうが何だろうが、この先には行かせん!」
「建部蓮か。国譲りの二の舞になると何故分からない。」
「はっ、流石天津神様だ。何でも思い通りになるってか!?何時ぞやは譲っちまったらしいが、今回は譲れんな。」
悠真は交差点の角を曲がる前、振り返る。
蓮は笑っていた。
「悠真、道を違えない事を祈る。」
「祈りは終わったか?では、排除する。」
「掛かってこいやぁ!」
雷と風がぶつかり合い、周囲には爆音と閃光が瞬いた。
――
「はぁ、はぁ…逃げられた、のか…」
常世の社。
静寂の中、響くのは悠真と結芽の荒い息づかいだけ。
二人は無言のまま、蓮の無事を祈っていた。
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