基礎、身体に刻む
3話連続投稿します。
1話目です。
「もう少し腰を落とせ。そう――そこで踏ん張れ!」
蓮の声が常世の社の訓練場に響く。
悠真は額から汗を滴らせながら、低い構えを保ったまま、相手の動きを見据えていた。
一週間前から始まった蓮との格闘訓練は、過酷なものだった。
拳や蹴りの打ち方、受け方、体の軸の使い方、重心移動――
一つひとつを繰り返し叩き込まれ、悠真の肉体は確かに変化していた。
最初は蓮の動きがまったく見えなかったが、今では防御や回避の反応も、多少はついていけるようになっていた。
「よし、次は投げの応用。来い、悠真!」
「はいっ!」
悠真は力強く踏み込み、蓮の懐に入る。
瞬間、蓮が肘をかすめるように振るい、悠真の肩に引っかける。
「くっ……!」
体勢を崩しながらも、悠真は咄嗟に足を踏み出して回避。地面に転がりながらも、すぐに立ち上がる。
「反応は上々だ。踏み込みの角度も悪くない。体幹もずいぶん強くなった。」
「……ありがとうございます。でも、まだ全然当てられない。」
「当てるのは二の次だ。まずは“崩されない”身体を作ること。それが、神能を扱う前提になる。」
蓮は手近な木の枝を拾って、軽く空を指した。
「神能ってのはな、気合いや気分じゃコントロールできない。基礎の上に積み重ねてこそ、自分の“意思”として出せる。
お前は今、その最初の土台を作ってる段階だ。」
「……はい。」
蓮は小さく笑った。
「神核がどれだけ強くても、自分が壊れたら意味がない。だから、お前には壊れない体を作ってほしい。」
悠真は深く頷いた。
日々の鍛錬で、蓮が本気で自分に向き合ってくれていることは、痛いほど感じていた。
口は悪いが、誰よりも実直で、誰よりも仲間想いな男。
「……僕、もっと強くなります。ちゃんと、自分の意志で立てるように。」
「それでいい。」
訓練は日が沈むまで続いた。
投げ、受け身、体捌き、組技――
悠真は何度も地に倒れ、泥にまみれながら、それでも諦めず立ち上がった。
そしてその日、蓮から短く言われた。
「これで、基礎は一通り終わりだ。次からは実戦想定に入る。」
「……!」
悠真の中に、熱が灯る。
この一週間が無駄ではなかったと証明された瞬間だった。
「お前はまだ弱い。でも――“倒れず立ち上がる奴”は、そう簡単に負けねぇよ。」
「……はい!」
その夜、社から転移鏡を通って戻る途中、悠真は空を見上げた。
星々が滲むように光り、夜風が静かに吹き抜けていく。
胸の奥に、神核の鼓動が確かに響いていた。
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