陽の欠片
本日2話目です。
次話は21時投稿予定です。
翌朝。
一条悠真は、昨日とは打って変わって、穏やかな時間を味わっていた。
空は晴れ渡り、窓から差し込む陽光が教室を柔らかく照らす。
机に肘をついたまま、ぼんやりと外を眺めていると──
「おーい、悠真。ぼーっとしてるとまた先生に怒られるよ。」
聞き慣れた声に顔を向けると、そこには笑顔を浮かべた少女がいた。
セミロングの黒髪を軽く結び、制服をきちんと着こなした姿。
柔らかな眼差しの奥に、どこか凛とした気配を宿す少女──橘 日和。
悠真の幼なじみであり、物心つく頃からずっと一緒にいた存在だ。
「……なんか、変だよ今日の悠真。ちょっと遠くに行っちゃったみたいな感じ。」
その言葉に、一瞬だけ悠真は視線を逸らす。
(神核を宿して、根の会に保護されて……そんなこと、日和には話せない)
「ただの寝不足だよ。課題多すぎるしな。」
「ふーん……? まぁいいけど。ちゃんとご飯食べてる? 今朝もパンだけだったでしょ。」
まるで何も変わらないかのように、日和はいつもの距離感で接してくる。
だが、その“自然体”の中に、悠真はふと引っかかるものを感じた。
(日和……昔から、不思議な勘の良さがあった。まるで、見透かしてるみたいな)
昼休み。
屋上で日和と並んで座る悠真は、風にそよぐ髪の向こうに、ほんの一瞬だけ──
彼女の背後に、眩い金色の光を見たような気がした。
──瞬きとともに、それは消えていた。
「……悠真。なんか、変な気配が町に混じってきてる気がする。」
「……どういう意味だよ、それ。」
「分かんない。でも、気持ち悪いの。うまく言えないけど、何かが……動いてる気がする。」
悠真は、内心で警鐘が鳴るのを感じた。
(もしかして日和も──何かに、触れかけてる?)
「日和、もし何かがおきたら、すぐに逃げろよ。……俺のことは気にしなくていいから。」
「……そんなの、無理だよ。悠真が危ないのに、私だけ逃げるなんてできない。」
その言葉に、悠真は返す言葉を見つけられなかった。
──誰も知らない。
この少女こそが、まだ発現していない天照大御神の神核をその身に宿す者だということを。
しかし、その“気配”は、もう確かに世界へと溢れ始めていた。
日和のまとう光はまだ誰にも見えない。
だが、彼女の中で“目覚め”は、確実に近づいていた。
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