始まりの静寂
初投稿です。
よろしくお願いします。
プロローグ:天地開闢
――初めに、混沌あり。
色も形もない虚無の中で、ただ一つの意志が芽吹いた。意志は名を持たず、声も持たず、ただ"在る"という存在として、そこにあった。
やがて、その想念が揺らぎを生み、光と影、火と水、風と土が交差し、宇宙が形作られていく。
最初の神――天之御中主神。
その姿を見た者はいない。だが確かに、世界の原初に、彼は存在していた。彼が目を開いたとき、法と理が生まれ、命の螺旋が紡がれた。
――そして世界は、知らず知らずのうちに、“再構築され得る脆さ”を内包していた。
現代:東京都 某高等学校
春の風が校庭を撫で、教室の窓を揺らす。
一条悠真(いちじょう ゆうま)は、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながら、屋上のフェンスに背を預けていた。
何の変哲もない、いつも通りの日常。
だが、ここ最近、彼の周囲では小さな“異常”が頻発していた。
たとえば、腕時計の針が一瞬だけ逆戻りしたり。
たとえば、教室の空気が、ふとした瞬間だけ“音のない空間”に変わったり。
たとえば――
「……気のせいだよな」
誰にともなく、呟く。
いや、本当は気づいていた。何かが、自分の中で“目を覚まそうとしている”。
放課後:体育館裏
「一条。……こっちだ」
校舎の裏手、体育館の陰にある使われていない倉庫の前。
声をかけてきたのは、一人の少女だった。
黒髪に古風な着物、瞳は深い藍。どこか現実味のない、美しさ。
「君、“宿してる”んだろ?」
「……え?」
少女は名乗った。久須美 結芽(くすみ ゆめ)。
そして、淡々と告げる。
「君の中には、“理を超えるもの”が眠ってる。だから……狙われる。」
次の瞬間――空気が裂けた。
視界が歪み、夕暮れが白熱する。
空間が、捻れる。
「やっぱり……反応があったな」
現れたのは、光を纏う青年。
灰金の髪、鋭い瞳。手には稲光をまとった短剣。
名は綾部 晃司(あやべ こうじ)。
天津神の末端、戦闘斥候の役割を担う神核継承者。その神核は天津神の中では1番下のランクの格だが、神核を持たない者にとっては、生命を脅かす存在。
「お前が従わないなら、ここで消えてもらう。」
綾部の一撃が振るわれた瞬間、悠真の視界が“白”で満たされる。
そして――
すべての音が、消えた。
時間が止まり、空気が凍る。
悠真の中に、“何か”が囁いた。
――お前は選ばれた。
――この世界の"創造律"を書き換える資格を持つもの。
「誰だ……俺の中で、誰が喋って……!」
光が砕け、空間が“零”へと還る。
悠真の中で、何かが確かに、目を覚ました。