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颯の蒼空  作者: 心労心負
第2章
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死線

 蒼が大きな雷鳴で目が覚めたのだと気づいたのは10秒ほどしたときだった。しかし、何か様子がおかしい辺りを照らす光は非常灯と雷の光だけだ。先生が消して帰ったのかと思ったが補習が終わってないならそれは無いだろう。

 しかし、こうも暗くて誰もいないとなると少し不安になってくる。すると背後、つまり靴箱の方から物音がした。幽霊だろうか、いや誰かの足音がするので違うはずだ、幽霊には足がない。背筋に冷たいものが走り心臓の音が聞こえる。そして物音の主が姿を現した。

 「ふー疲れたぜ。」「!?」中山だった。「おー菅原、なんでそんな怖そうな顔してんだ?」「…なんでもない!」「そういえば稲生はまだか?」「遅いね、見に行こう。」


 颯汰と松田はドアをのぞき込んでみた。暗い室内に誰かが立っている。机と椅子は散乱し、その中央に何かがあり床が光を反射している。「おい、なんだ?あれ。」颯汰が小声で聞く。松田はどこか青ざめた顔をしているように見えた。目が大きく開き、冷や汗が垂れている。「どうした?松田。」その時稲妻が走り、教室を一瞬照らした。その刹那は颯汰が中を見るのに十分だった。立っているのは池上、その手には刃物の類を持っている。床に倒れているのはおそらく長尾先生、そして床には血の水たまり。颯汰は体の奥から底知れない悪寒と震えが沸き上がってくるのを感じた。

 すると教室の前側の扉が開いて池上が姿を現した。髪は乱れ、返り血がカッターシャツに模様を形成している。そして手には凶器となったであろう包丁を持っている。その双眼が颯汰と松田を捉えた。2人もまた彼の顔にある2つの深淵を覗く。

 その瞬間、2人は池上とは反対の方向に全速力で走った。颯汰は一瞬振り返ったが池上はどこか呆然としていて追ってくる気配はないようだ。「後ろなんか向くな、走れ!」そう松田に言われたので走ることに集中することにした。その時視線に1人の女子生徒が入った。松田はすり抜けざまに彼女の手を取り走り続けた「ちょっと康?なに!?」「いいから走れ!」その言葉に気圧されたのか彼女も走った。

 階段を上り、2階に着くと池上は追ってきていないようだった。「ちょっと、何が起きてるのよ...!」「ごめん、流奈。」「2人は知り合いなのか?」「まぁな。いいか落ち着いて聞いてくれ。」

 松田は流奈に補習を受けていたら隣で長尾先生が倒れていたことと池上が刃物を持っていたことを伝えた。「…なによ、それ。」三人はひとまず玄関の方向へ向かうことにした。しかし前方に人影が見えた先回りされたかに思えたが、それは思い違いだった。「おー稲生じゃん、遅かったな。」「松田君もいる。」颯汰は胸を撫でおろした。それは蒼と中山だったからだ。


 植本は学校から車で10分ほどの喫茶店にいた、もちろん昼食をとるためだ。ここの軽食は実際は軽食ではない。メニューで見ると可愛らしく見えるがいざ実物を見ると想像よりも巨大だ。注文したランチセットが届いた。彼の目の米に現れたのは通常の3倍ほどの大きさのカツサンドと卵サンド。これはなかなか食べ応えがありそうだ。押し寄せる食欲に身を任せ、最初の一口にかぶりついた。


 「つまりその池上ってやつが先生を刺した後を見ちまったってわけか!?」「大きな声ださないで中山君!」5人は職員室の近くの空き教室に身を隠していた。偶然にも鍵が開いていたのを流奈が発見したのだ。「これで一安心だな。」「でも、これからどうする?」「警察に通報したいけど、停電してるから電波は通じない。それに僕たちは携帯を持っていない。」この中学校では生徒が携帯を持ってくるのは校則違反だ、みんな優等生のようだ。「...そうだ。」松田が何かを思いついたようだった。

 「稲生、あの時に使った抜け道なら安全に外に脱出できるんじゃないか?」颯汰は冬休み前の事件のことを思い出した。「運動場の扉か。」「よし、みんな急ぐぞ。」5人は音を立てないように教室を出た。


 池上修也は焦っていた。長尾を刺した後二人の男子生徒に見られてしまったのだ。その時は呆然としていたが冷静になった今なら彼らを絶対に逃してはいけないことは明白だった。

 彼らは逃げようとするはずだ、校門やフェンスから逃げるのは難しい。なら運動場のフェンスに扉があって、そこのカギは開いていたと記憶している。そこに彼らより先にたどり着かなければならない。池上は校庭に急ぐことにした。


 生徒玄関にたどり着いた颯汰たちは松田と中山を先行させた。脱出地点の安全を確保するためだ。

「松田、いると思うか?」「わからん、いたとしたら刺されるなよ。」「あんな奴にやられるかよ。」

2人は校庭にたどり着いたが、そこには人影があった。「よし…逃げるか。」「急げ!」2人は玄関へ走った。校内に入った池上だったが、自分が追っているのは渡り廊下を走っている3人だけだと思っていた。しかしその思い込みが彼の足をすくった。渡り廊下の死角から蒼が飛び出してきて薙刀の切り上げで包丁を弾き飛ばした。そして走っていた松田が反転し、タックルを喰らわせた。倒れこんだ池上はよろめきながら近くの教室に逃げ込んだ。

 状況は逆転し、彼が追いつめられる形になってしまった。


 颯汰達と池上は対峙していた。「警察に通報した。もう終わりだ、おとなしくしろ。」しかし電気はまだ回復していない、颯汰のハッタリだ。「最後に、聞きたい。」「…なんだ?」「なんで長尾先生を殺した?」

 池上は口角を上げ言い放った「ずっと嫌いだったんだよ。うるさいくせに俺の成績は上がらない、無能な奴だったよ。」「嫌いだった?それだけの理由で?」「こいつ…頭がおかしいぜ。」「うるさい!見られた以上お前らも殺してやる!」彼はポケットに隠し持っていたナイフを取り出し、颯汰に突進した

 もう一本!?しまった!避けようとしても間に合わない!「颯汰っ!」蒼の叫び声が聞こえ目の前の出来事がスローモーションになって遅く見えた。

 颯汰の体に衝撃が走り、刃が突き刺さった。

 

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