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颯の蒼空  作者: 心労心負
第2章
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補習と再会

 2022年を迎えて3カ月と少しの明け方、少女が眠っていた。しかしその整った顔は安らかではない。額には汗が浮き、何かに怯えた顔をしている。うなされていた彼女は飛び起き、大きな目を見開いた。

 「まただ…」


 稲生颯汰はインフルエンザにかかった。そして無理をした結果、完治に本来の2倍かかってしまった。家族や親友の菅原蒼に叱られたのは言うまでもない。学校に長い間いけなかったので彼は春休みに補習を受けなければならなくなってしまった。

 春休みに学校か…。気分は落ちてくるが仕方がない。昼食を食べ、しぶしぶ着替えて外に出ると空を黒雲が覆い始めていた。「雨か…。」そうつぶやくと、颯汰は無造作に傘立てから1本引き抜くと家を出た。


 松田康介は学校へ向かっていた。彼もまた補習を受けに行く。冬休みに彼が引き起こした事件のことを知った両親は複雑な心持ちだったはずだ。なにせ悪を暴いたのはいいがその代償に多くの人に迷惑をかけてしまったからである。(俺は親不孝者だ。)彼は心の中でそう呟いていた。そんなことを考えていると校門が見えてきた。


 午後の部活は1時から始まる。その20分前菅原蒼と中山翔馬は準備を終え会話していた。

 「稲生は今日は補習らしいな。」「あのインフルエンザはどこからもらってきたんだろう。」蒼はなぎなた部、中山は柔道部に入っている。

 「今日は部活が2時半までしかないな、なんでだ?」「今日はPTAの会議があるからその準備だよ。」「じゃあ、稲生の補習が終わるまで待って一緒に帰ろうぜ!」「いいね、僕も今日は暇だし。」そして部活の時間が近づいてきたため2人は各々の場所に戻った。


 部活が始まって10分後、補習が始まる20分前、颯汰は教室に着いた。集まった人数はそう多くはなく、颯太は適当な席に座って担当の先生が来るまで待った。

 「では今から補習を始めます。プリント配りますね。」理科の教師、植本がやってきた。

 それからただ理科の問題を解くだけの時間が続いた。1人、また1人と全ての問題を解き終え帰って行くなか、残ったのは颯汰とおそらくもう1人だった。時計は2時半を指している。すると植本が

 「じゃあ僕お昼ごはん食べてきます、すぐもどるよ」と言って教室から出ていった。しかし教室に誰もいないとなると勝手に帰っても気づかれないのではないだろうか?そう思った彼は「これってかえってもばれないんじゃないか?」と振り向きざまに言った。

 すると彼の視線の先にいたのはあの松田康介だった


 「うわぁ!松田だぁ!」「うわとはなんだ!」「いやそれよりも久しぶりだな、あの時以来か。」

 あの時、とは去年のクリスマスイブの日に前校長が予算の横領をしていたのを見つけた松田と彼の賛同者がそれを暴くために学校を占拠した事件だ。颯汰達は交渉役として送り込まれたが、校長だった男は不正を暴かれ警察に捕まった。刑務所には行かなかったが別の学校に飛ばされたそうだ。

 「あの時はありがとうな。」「いいっていいって」

曇天からポツポツと雨が降り始めていた。

 「それにしても、なかなか戻ってこないな。」「昼飯、何食ってんだろ。」「昼飯といえばこの前食った海老の天ぷらが...」2人はしばらくおいしい海老の天ぷらの話をしていたが、隣の教室から聞こえる言い争う声がそれを中断させた。「隣は何やってんだ?」「英語の補習だ、多分あの声は池上だな。」「知ってるのか松田?」

「ああ、頭はいいけどどうにも融通が効かないやつだよ。多分英語担当の長尾先生と揉めてるんだろう、2人とも意地を張ってるからなかなか解決しないんだよ。」


 部活を終えた蒼は汗だくの衣服を着替えて部室を出た。柔道場を覗くと時間が過ぎたにも関わらず部活をしていた。やっぱり柔道部はブラックだ、自分もそんなこと言えた身ではないが。

外に出ると雨が降っていたので校舎に入り颯汰を待つことにした。薙刀袋を壁に立てかけ、廊下に置いてあるベンチに座ると強烈な眠気が彼女を襲った。それに促されるまま目を閉じ、蒼はうたた寝を始めた。


 福島流奈は学校に急いでいた。春休みになったはいいが学校の課題に必要な教科書を忘れてしまったのだ。今日の午前中に取りに行きたかったが忙しかったので午後になってしまった。しかしあいにくの雨だ。

 こんなことなら午前中に行けばよかった。後悔してももう遅い、学校に着いたら1階にある教室へ向かう。この学校の構造は少し変わっていて2階に相当する階層に生徒玄関がある。玄関から少し進むと学校だよりや地元のイベントの案内を貼るための掲示板がある。その近くのベンチで菅原蒼が寝ていた。

 隣のクラスの蒼くんだ、なんでこんな所で寝てるんだろう。そう思いつつも自分の用事を優先することにした。


 颯汰と松田はうんざりしていた。植本先生が全く帰ってこない。それに隣の教室からの声と音は大きくなる一方だ。雨はさらに強くなり、雷の音も聞こえ始めてきた。

 「そろそろ我慢の限界だぜ、俺。」「俺もだ。文句言いに行こう。」

 その時窓から眩い閃光が走り、数秒後にけたたましい雷鳴が聞こえた後、部屋の電気が消えた。

 「停電だ。」「マジかよ。」それと雷鳴と同時に隣の教室が静まりかえった。「なんか急に静かになったな。」「見に行って見ようぜ。」2人は音を立てないように教室を出て隣の教室に近づいた。

少し開いている教室後部のドアからは何か錆びついたような酸っぱい匂いが漏れ出していた。


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