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颯の蒼空  作者: 心労心負
第3章
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一番星を見たい

 選挙当日は生憎の雨だった。午前中は雨音が太鼓を打っていたが昼過ぎになると弱まり、太陽が雲の間から少し見えるようになっていた。昼休みが終わり5時間目、つまりは選挙の本番になろうとしていた。

 松田は落ち着かない様子だった。演説の内容が書かれた原稿用紙を何度も見返したり、指を鳴らしたり、なんだかそわそわしていた。それもそのはず、去年までは流行りの感染症のせいで選挙の演説はリモートでおこなわれていたのだが、今年は少し落ち着いてきたので生徒全員が体育館に集まってその前で演説する従来の方法に戻ったからだ。

 全員が体育館に移動した。生徒達は雨上がりで湿った床に腰かけ、立候補者達は待機するために舞台袖に向かった。

 流奈が不安そうに呟く。

 「松田くん、大丈夫かな……」

 「昨日の事が影響しないといいけど……」

 「大丈夫だ」想人はきっぱりと言い切った。「オレはアイツを信じてる」

 そしてチャイムが鳴り、5時間目が始まった。演説は会長から始まって会計で終わる。今回の会長候補者は松田を含めてもたったの2名だけだった。そして最初の演説を行うのは松田と同じ剣道部で成績優秀でクラスのムードメーカー的存在の梶本という生徒だった。

 彼の演説が終わって体育館内が拍手に包まれた。

彼のように上手く出来るだろうか、そう考えてくると胸が痛くなってきた。しかしここまで来てしまった以上はやるしかない。とうとう自分の番が回ってきた。演台を前にして立つと生徒や先生達が見えるが、彼らの顔はよく見えない。

 そうだ、なんとかなる筈だ。

 そう自分を鼓舞して松田は大きく息を吸って言葉を紡ぎ始めた。


 そして5時間目が終わり松田達は教室に戻った。ゆっくりと自分の席に座るとまだ緊張が残っているのを感じる。松田は6時間目の授業が頭に入らなかった。

 授業が終わり部活に行くと梶本が話しかけて来た。

 「良いスピーチだったな、松田くん!」「ああ、ありがとう」「どっちが当選するか分かんないな!」

 練習が終わり、いつものように片付けて松田は校門を出た。このまま帰ってしまってもいい、しかし彼の内には何かが引っかかっていた。「……」

 一瞬の逡巡を経て彼は綾部の家に向かった。

 この前のように2人は扉越しに会話する。

 「今日生徒会選挙があったんだよ」「そうなんだ」「それで……言ってなかったけど俺、会長に立候補したんだよ」「……へぇ、そうなんだ……!」

 松田は路美のことや扉の向こうで泣いていた彼女のことを思い出した。

 「俺いじめられてる人みてさ、なんとかしたいんだよ。でも……俺にできるかな……」

 「できるよ……!」「……ありがとう」

 少しの沈黙の後、綾部が口を開いた。「わたし、学校に行ってみようと思う」「大丈夫なのか?」「分かんない……でも」部屋の中の彼女は天井を見上げて言った。「私をいじめてきた人がいたとしても、あなたみたいな優しい人の方がきっと多くいると思う。それに、本物の一番星をまた見上げたいなって思ったの」

 松田は前に見た絵を思い出した。星空を見上げる少女の絵、そして宇宙を見上げたい彼女。それを思うと自分が進むべき道が見えてくる。

 生徒会長になって、みんなを照らす。それが今自分が目指すものだ。

 「ありがとう、また明日も来るよ」「うん。結果、教えてね」

 そして松田は綾部の家を後にした。


 その晩、宿題を終え、ベッドに寝転んでいた颯汰に想人から電話がかかって来た。

 「なぁ、稲生」彼の声はいつも通りに聞こえるが、少し神妙な感じだ。

 「どうした?」「この前路美を攫ったヤツらのこと、覚えてるか?」「ああ、あいつらか。忘れるわけないだろ」「オレの考えなんだがな、松田が会長になっていじめを止めるように働きかけてもあいつらは止まらないと思うんだ」「まぁそうだろうな……」「だからオレたちがバスケ部の綱紀粛正も兼ねてお灸を据えてやりたいんだが、どう思う?」「いいとは思うけど……やり方によるよ。下手にやるとあいつらと同じになっちゃう」

 「だろうな、一つ考えがあるんだが……」

 そして次の日、朝礼時に放送で昨日の選挙の結果が分かる。いつも通りの他の生徒たちと違って、松田は緊張していた。

 

 

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