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颯の蒼空  作者: 心労心負
第3章
16/18

黄金コンビ

 ゴールデンウィーク、到来!颯汰は前半を部活に注ぎ込み、後半はその疲れを癒していた。しかし休み明けには中間テストや生徒会選挙がある。ゴールデンウィークも後半、以外にも休んでいられる時間は少ない。勉強会とその息抜きを兼ねてその日の午後にみんなが蒼の家に集まった。

 「へー広いな」「蒼くん家族は?」「お爺ちゃんは2階で寝てる。兄さんは友達に会いに行ってる。...…父さんは今日も仕事。...…母さんは、遠くに行ってる……」蒼は広間の端にある仏壇に目をやった。「そうなんだ...…ごめんね.…..」「大丈夫だよ。おじいちゃんがご飯を作ってくれるし、それに僕には颯汰がいるから」「蒼……」

 7人は広間に机を設置して勉強会を始めた。「えー???この計算式どうなってんだ??」「あーそれはやな……」「理科の範囲ってどっからだっけ?」「12ページから32ページまで」「あーなんかめんどくさくなってきたな。休憩しねぇ?」「まだやり始めて20分しかたってないよ、もうちょっとがんばろうよ!」「まぁ……そうだな...…」

 勉強すること約1時間、時計の針は2時を指している。「そろそろちょっと休憩しようか」「そうだね、僕お茶淹れてくるよ」蒼は台所に向かった。

 「それにしてもこの家広いな。」「そういえばお前と菅原っていつからの付き合いなんだ?」

 「小学生のころからだよ」「だからあの事件のあと1番心配してたのね……」「あの事件って?」

 中山と流奈が事件のことを説明した。

 「なんかあったって聞いたけど、そんなことがあったんか……」「……」さっきまでの和気藹々とした雰囲気がいつの間にか重苦しくなってしまった。

 「お待たせー何の話してるの?」「いや?世間話を……」蒼が戻ってきたので話は打ち止めになった。

 饅頭が、最中が、カステラが、口の中に消えていく。賑やかな空気が戻り会話が華を開く。そんな中、玄関の扉が開く連続音と閉まる乾いた音がした。賑やかな空気に惹かれたのか足音が近づいてくる。

 「なーんか賑やかだなぁ、俺も混ぜてくれよ」現れたのは蒼の兄、菅原翼だった。


 「ほーん、生徒会長ねぇ……もしかしたら助けになれるかもしれないぜ」「なんか良いアイデアでもあるのか?」想人の問いに翼はニヤリと微笑む。

 「まぁ俺も一端の会長だからな」「そうなんですか!?」「その通りだよ、えっと……メガネ君」「松田康介です…」「そう、聞いてなかったな名前。で?会長になって何を望む。地位?内申点?それとも理由なんてない?」「学校を居場所にしたい。友達になりたい人、助けたい人がいるんです」「なるほどね、でも全員を助けることは難しい。どう考える……?」

 「あの……」そこに颯汰が口を挟む。「俺、考えてみたんだよ、自分の手が届かない人を直接助けることは難しい。でも身の周りの人を助けることはできる、ならみんなが周りの人と助け合って、その輪が広がれば手の届かない人だって助けることができるはずだと思うんだ」

 「正論だな、それができたら苦労はしない……だが気に入った……!」翼は関心した様子だった。「なるほど……!アイデアを思いついた、ありがとう稲生!」

 「なんか休憩なのに頭使っちゃったな……」「じゃあもう少し延長しようぜ!」「そうしよっか!」

 「そ・う・い・え・ば……あれから毎日お見舞いに行ってたよな、颯汰ぁ?」「だからなんだよ……」「蒼のこと、好きすぎじゃねー?」「あっっ蒼は友達…俺の1番大切な…」「そこんとこどうなんだー?蒼。」「えっと……颯汰は僕の……」 

 颯汰と蒼はフリーズしてしまった。「仲いいなぁこいつら」「いわゆる『黄金コンビ』ってやつか」

 その時、階段が軋む音が聞こえてきた、誰かが1階に降りてくる。引き戸の隙間から見えるその姿は…

 「侍?」

 頭の後ろで白髪を纏めた袴姿の老人だった。なぜか帯刀している。

 「おっ爺ちゃんただいまー」「お邪魔してます」「あの爺さん……どっかで……」松田は思い出した。春休みの事件、その後病院に自分たちを迎えに来た車。その運転手だった人だ。

 「お爺ちゃん……なんで刀持ってるの……?」

 「孫しかいないはずなのに大勢の声が聞こえてきたからな、それに男子はいつになっても刀が好きだろう?」

「まぁ、そうだけど.…..」

 「君達……今日の晩飯ここで食べていかないか?」「ええっ、いいのか!?」「珍しいな、いつも部屋に引き籠って通販で日本刀だのモデルガンだの買い漁ってるのにな」「ワシだって寂しいからな.…..翼、お前にも手伝ってもらうぞ」「え?俺?」「さぁ、まずは買い物だ」「ちょ、離せよ!」

 翼は祖父に引っ張られて行って姿を消した。

 「なんか……変わった人だな……」「あ、ちょっと電話かかってきた」中山は広間の外に出ていった。

 「ああ……え?なにっ!?」そしてすぐに戻ってきた。「恵から電話があった、あの金髪の子がどこにもいないって……!」「えぇっ!?」「俺たちも探しに行こう……!」7人は家を飛び出した。


 中山の家の前には恵と樹里が居た。

 「いないんです……路美が……!」「部活に行ったっきり連絡が途絶えたんだって……」

 「今日は部活は休みのはずだよな想人……?」「あぁ、本当の理由は分からないけど……探すぞ!」

 想人達は二手に分かれて捜索を開始した。

 想人、流奈、中山兄妹と樹里は川の方へ、残りは学校の辺りに向かった。

 探し続ける事約20分、河の上に架かる橋の上に夕陽を背にして彼は居た。

 「路美!」樹里が叫ぶ。

 「樹里……」「なんでいきなり居なくなったの!?」「ごめん……でももうぼくは疲れたんだ」「疲れた……?」「ぼく、嘘ついてたんだ……部活なんか行ってない……呼び出されたんだ」「誰に……?」「バスケ部の人たち……多分先輩もいたかな」「なにされたの」「言えない……言ったらこの人たちはぼくの為に何かしてくれようとする。でもダメなんだ……ぼく1人だけで良いんだ」「みんなと違うからって……自分なんて選べるわけないのに!」「でも、もう終わるんだ」

 乾いた笑顔を顔に貼り付けた後、彼はコンクリートの塀に足をかけた。「よせ!!」沈む金色のような太陽の中、倒れ込む彼の手を樹里が掴んで引き戻す。その衝撃で2人は歩道に倒れ込む。

「!?なん、で……?」「やめてよ!!自分勝手なこと言わないでよ!!」樹里は路美を押し倒して胸ぐらを掴む。「自分のことが嫌いな路美なんて嫌い!!」「樹里……」「私は好きだよ……!路美の全部が……!」彼の顔面に水滴が落ちる。それで頭が冷めたのか目覚めたような顔を路美はする。

 「……ごめん、ぼく多分変になってたんだと思う……」そういうと彼は泣き始めた。

 「ごめんなさい。自分勝手なこと言って……」

 「いや、それで良いんだ」想人はそれを否定しなかった。「内に溜まった本音は全部吐き出しちまうのが1番だ」「想人くん……」「よかったぁ……」恵はその場にへたり込む。そこに中山から連絡を受けた颯汰達が駆けつけてきた。「大丈夫か!?」「あぁ、危なかったがな……」想人はこめかみを伝う冷や汗を拭いながら返事を返す。「2人にも怪我はないみたいだね」颯汰と蒼は抱き合って泣く2人に近づく。

 「安心して、僕たちがついてる」「大丈夫、俺達がしっかり解決するから」2人の言葉を聞いて安心したのか、路美のお腹が唸る。「腹減ったか?」「うちらとご飯食べよう」7人、もとい10人は蒼の家に向かった。


 「うをっ」和風な扉を開き家に上がった颯汰達を待ち構えていたのは圧倒的な熱気だった。換気扇は全開のはずなのにそれを上回る熱が台所から伝播してくる。「焼けたかぁ?」「うっしゃぁ!」蒼の祖父と翼が熱血料理を繰り広げていた。

 大量の餃子が広間の机に並べられ、そしてとてつもない速度で消えていく。大量のおかずと白米を囲んで作戦会議が行われる。

 「なるほど、難儀だな」「味方は?」「他の人たちは自分が標的にされたくないから見てるだけ……」「まぁ分からんでもないけど……」「……戦うか。」「勝てるの?」流奈の疑問に想人が返す。「こういう時は勝敗なんて関係ない。負け戦でも戦うんだよ」「今は食え!どれだけ辛くても人間腹が減るものだ」蒼の祖父の一声でさらに箸が進む。「当たって砕けろってやつだ、その時に考えたら良い」「指を咥えて見てるわけにもいかないからね。ん、おかわり」

 「ぷっはー!やっぱり餃子とビールの組み合わせは最高だな……正に黄金コンビってやつだ」「飲み過ぎんなよ、じいちゃん」

 30分もしない内に大皿5枚に盛り付けられた餃子と唐揚げ、そして膨大な白米が育ち盛りの少年少女の胃袋に収まった。各々は礼を言い家に帰っていく。確実に近づいてくる対決に備えて。

 颯汰は烏の行水のごとく風呂に入り、どさりとベッドに倒れ込む。一息をついた後、彼は完全に眠りについていた。

 

 

 

 

 

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