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颯の蒼空  作者: 心労心負
第3章
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転入生の彼

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。

カーテンの隙間から差し込んでくる光が眩しい、それと対照的に自分の部屋は暗い。

 学校に行きたい。でもまた自分のせいで他の人に迷惑をかけたくない。

.....わたしが悪いのだろうか。

 眩しいカーテンの外を見ると1人の少年が走っていた。


 稲生颯汰は学校に急いでいた。今日は2年生の始業式なのに寝坊してしまった。

 俺には大切な日だけ寝坊する特殊能力でもあるのかなぁ。しかし学校まであと100メートルもない、あの交差点を渡ればもうすぐだ。しかも信号が緑に変わった、これはチャイムに間に合うな。颯汰は確信した。

 

 「いっけなーい、遅刻遅刻!転校初日から遅刻なんて結構やばい感じーっ!」1人の少年が全力疾走していた。「ここを曲がればすぐそこかっ!」と角を曲がった瞬間。 

 「うわっ!」「のふっ」颯汰と激突した。「いてて…あの、大丈夫ですか?」颯汰はぶつかった彼へ心配をしたが彼はすでに横断歩道の反対側にいた。「あーごめんなー!」そう言うとかれは校門の方に走っていった。

 まぁ、無事ならいいか。そう思った颯汰だったが学校のチャイムが彼の考えを変えた。

 「しまった、遅刻だ!アイツよくも~」

 

 急いで教室に駆け込んだが、先生はまだ来ていなかった、自分の席を確認して座った。あたりを見回してみると中山翔馬と松田康介の姿があった。他にも前からの友達も多くいた。すると1年生のとき隣のクラスの担任だった先生が来て、颯汰達は始業式のために体育館に移動した。


 颯汰達2年生と3年生が体育館に集まった。壇上には見知らぬ男が立っていた。ひげを生やしたナイスミドルの男だった。

 「私が今年度から校長に就任しました、比良と申します」比良校長の挨拶から始業式が始まった。新任の先生達が自己紹介をしていく。颯汰たちのクラスの担任は新任の若い教師だった。始業式も終わりに近づいてきた時比良校長は生徒たちに告げた。

 「そういえば言い忘れてましたが、2年生には今日から転入生が来ています」ざわ...ざわ...体育館が一気にざわつく。「2年B組の皆さん、仲良くしてあげてください」2年B組俺らのクラスじゃん。衝撃的な発表の後生徒たちは興奮しながら教室に戻った。


 教室に戻った颯汰のもとに中山翔馬がやって来た。

「転入生だってな」「どんなやつなんだろうな男かな?女かな?」「やっぱみんな盛り上がるもんだな。転入生が来ると」そう言いながら松田康介が姿を現した。「よっ」「おお!松田じゃん!クラス一緒だったんだな。」「これも何かの縁だな。そういえば、転入生の話聞いたか?」「いや、何も知らない」「噂によるとな、男らしいぜ」「お前そういうのに興味あったんだな」「まぁ全校集会で言われるとそりゃ気になるよ……」

 すると教室に先生が入ってきたのでみんな静かになった。「改めましてこの2年B組を担任する上川です、自分の人生で初めての担任なので1年間いい思い出を創りましょう」そして彼は続ける。

 「朝の集会でも言われたとおりこのクラスには転入生が来ています」彼は教室の扉を開いて小声で何かを囁いた。そして転入生が教室に足を踏み入れた。

 颯汰は自分の目を疑った。颯汰より少し低い身長の彼は朝彼にぶつかった遅刻の元凶だったのだ。

 彼の名前が黒板にチョークで書かれた。

 想人幸 おもびとこう それが彼の名前だ。「じゃあ、席は名前順で稲生の後ろだ!」「何ぃ!?」「そういうわけで、よろしくな!」想人は颯汰の後ろに座った。チャイムが鳴って休み時間になった。上川先生は教室を出て行った。

 「……朝はよくもやってくれたな」「まぁ間に合ったからいーじゃん、いーじゃん」「俺はそれで遅刻したんだよ」「なんだ?やんのかこの寝ぐせ頭?」「なんだと?この丸頭。」

 2人が言い争いをし始めていたが転入生を一目見ようとほかのクラスから生徒たちが押し寄せてきていた。ドアの付近に人が集まりすぎて出入りが難しくなっている。

 「やっぱ『最初』は人気だよな、転入生は」松田がつぶやいた。「どういう意味だ?」そう聞く中山に松田は答える。「最初は特別だけど何カ月か経ったら俺達と同じ人間だからな。」「うーん、よくわかんね」時計は11時前、午後から入学式なのでその日の学校は終わった。


 その家路、颯汰は中山と一緒に帰っていた。「今日から俺の妹が一年生なんだよ。」「へーおめでたいな、そりゃ」すると「おーい」想人が後ろから走って来た。「一緒に帰ろうぜー」「まぁ、別にいいけど…」「決まりだな。」こうして想人を加えた3人で帰ることとなった。「そういえば、なんで転入なんかしてきたんだ?」「なんか親が両方海外勤務になって連れて行くのもなんかなーってなって親戚のいるここに来たってわけだな」田んぼの横を歩きながら想人は質問した。「ここって大分田舎だけどなんか娯楽ある?」「……なんかあるっけ?」「筋トレとか?」「ゲーセンは?」「無い」「ショッピングモールは?」「無い」「服屋は?」「無い」「なーんにもねーじゃんここー!」「俺んち来るか?」「行く」「稲生もどうだ?」「それじゃあお言葉に甘えて。」

 こうして想人と颯汰は中山の家に遊びに行くこととなった。


 家に帰り鞄を投げ捨て服を着替え颯汰は中山に言われた場所に向かった。そこには少し古い日本家屋が建っていた。インターホンを押すと中山が現れた。

 「よっ」「想人君は?」「まだ来てないぜ」「迷ったんじゃない?土地勘ないから」

 すると想人がスクーターに乗ってシャーっとやってきた。「よっ、ここであってるっぽいな」「スクーター?」「どっから持ってきたんだよ」「居候する家の物置に転がってた。いい感じだったから試運転がてら乗ってきた」

 3人は家に入った。「2人とも、昼飯食ったか?」

「そういえばまだだったな」「腹減った」「飯、つくろうか?」「いいのか?ありがとう」「やったー」

 中山は炊いていた白米を取り出して手際よく卵と炒め始めた。「ちょっと待ってろ」

 颯汰と想人は畳の上に座って待っていた。「連絡先、交換しとくか?」「うん、そうしよう」「そういえば想人君ってどこに住んでるんだ?」「呼び捨てでいいぜ、オレは叔父の家、丘の麓だ」「ふーん」

 すると中山が山盛りの炒飯その皿を3つ持ってきた。「できたぞ」「おー」「うん~まそぉ~」

 中山は階段の上に向かって呼びかけた。

「おーい、お昼できたぞー」ドアを閉める音がしてその後に階段をドタバタと降りる音がした。

 「はいはーい、あれ?誰その人たち?」少し大きい制服は颯汰達の学校のものだった。

 「学校の友達」中山が答えた。「私、中山恵です。はじめまして」「さっき言ってたな、妹が今日から中学生って。」「はい、兄がお世話になってます」「いやいや、むしろこっちが世話になってるよ」

 食べた炒飯は素朴だがそれが美味さの根幹になっているようだった。

 「じゃあ私入学式あるんで行ってきます」「はーい、いってらっしゃい」


 その後、想人と颯太は中山の家を出た。「じゃあオレはここで」「うん、また明日」2人は交差点で別れた。2人にとって新鮮な新学期が始まろうとしていた。

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