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颯の蒼空  作者: 心労心負
第2章
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後日

 颯汰達が住んでいる市の警察署、その一室。

 蒼と彼女に同行した颯汰以外のメンバーは事情聴取を受けていた。そのうちの1人、松田康介は強面の刑事と対峙していた。

 「なるほど、そしてあの時起きた停電のせいで通報が遅れたわけか」「…はい」

「だが不自然な所がある、どうしてその場に教師が一人もいなかったんだ?」「わかりません.....」「分からない、か」「それにだ犯人が勝手に襲ってきたのは分かる、なら全員が死んでいてもおかしくなかった」「被害者のうち1人は死んでいたらしいがもう1人の学生は怪我で済んでいる、なぜだ?」

 そんなの運がよかっただけだろ。心の中で悪態をつきながら松田は深呼吸した。

 「あの教師を殺した後に疑われないように裏口合わせたってことも……」その時、先程から溜まりに溜まっていた松田の怒りが爆発した彼は鈍い銀色の机に拳を叩きつけ怒鳴った。

 「そんなこと、やられた菅原の前でも言ってみろよ!!!」「……何ィ?」

 するとドアが開き若年の刑事が入ってきた。「菅原さん。被害者の身元、分かりました」彼は端末を覗き込みしばらく固まった後、速足に部屋を出て行った。

 「なんだよ、あいつ……」

その後、解放された松田、中山、福島は親が迎えに来てそのまま帰宅した。


 時が流れて数日後、颯汰は病院に向かった。蒼の容態は凶器の刀身が短かったことと碌に研がれていなかったので命に別状は無かったそうだ。しかし、未だ意識はない。

 病院の入り口で松田が待っていた。2人は無言のままエレベーターに乗って3階の病室に向かった。エレベーターを降りると蒼の病室から男が出てきた。「あれは……」それは数日前松田を問い詰めた刑事その人だった。「どうした?松田」「あいつ、この前警察署で俺に事情聴取してきたやつだ」「それがなんでここに?」「警察の仕事じゃないかな」横開きの扉を開いて中に入った2人は蒼の寝顔と対面した。腕から伸びる輸血チューブはベッドの傍にあるスタンドから伸びている。

 病室には人間が3人いるが、会話はなく重苦しくどんよりとした空気を醸していた。すると扉が開いて一人の男が現れて彼は松田の横に座った。松田は眼球だけを動かして彼を見た。

 どこかの学校の制服を着ていて肩部には貴族の紋章のような校章があしらわれている、すらりとした長身でなかなかの色男だ。彼は松田をじっと見ると口を開いた。

 「誰だお前?」「お前こそ誰だよ……」「オレはこいつの兄だよん」「なんだ兄か…なんだって?」「あいつにお兄ちゃんがいたとはな」「そういうお前は何だ?」「なんというか……学校が同じの人」

彼は松田の隣に目をやった。「そこにいるのは颯汰か?」「もしかして、翼?」蒼の兄、彼女の兄は翼という名前のようだ。

 颯汰は彼に何があったのかを説明した。徐々に目が潤み、大粒の涙が零れ落ちた。颯汰は座ったままうなだれた。「俺が悪いんだ…!あの時、油断したから…」翼は強い言葉でそれを否定した。

 「それは違う。刺した方が悪いんだ、どう考えても」2人が慰めあっている中、松田は蒼の小さなうめき声を聞いた。


 久しぶりに幸せな夢を見た。みんなで桜を見に行く夢だ。母の感じ、忘れかけた声。

 うっすらと目を開くとそこは知らない天井だった。

 「.....ん」ゆっくりと体を起こして右を見ると鬱屈とした3人がいた。

 「あれ…?兄さん?」それから数秒後、颯汰が蒼に抱き着いた。「…よかった、蒼が、蒼が生きてる…!」颯汰は涙でぐしゃぐしゃになった顔を押し付けて全力で彼女の命のぬくもりを感じた。

 「颯汰…重いよ」


 「兄さん、余計な心配させてごめん」「まったくこちとら妹が殺人事件に巻き込まれて刺されたって聞いて気が気じゃなかったんだぞぉ」

 「そういえば警察のやつが俺らと入違ったけど、蒼の知り合いか?」松田が疑問を口にした。

 「それは.....不器用なヤツだな…」「知ってるのか?」「それはたぶん親父だ」「父さんがきてたの?」

 「なんか『プレデター』って感じの見た目だったな。」あの時菅原の名前を口にして一瞬動揺していたのはそれが理由か、部下っぽい人からも菅原って呼ばれてたなそういえば。松田は心の中で納得した。

 「もうこんな時間か」翼は腕時計に目をやった。

「迎えを呼ぶから2人とも乗ってけよ」「うん」「ありがとうございます。」

 「じゃあまた来るから」「またね、颯汰」

 颯汰と翼は一足先に外に出た。曇った空の下生暖かい空気が満ちていた。

 「なぁ颯汰、俺考えてみたんだけどさ、あいつって絶対お前のこと好きだよな」「な、なな何いってんだよ!?」「へっ、冗談だよ」でもあの時蒼が言ってたことは……

 そんなことを考えて居る間に車が到着した。どこからともなく現れた松田が言った。

 「人の命の価値はどれくらいなんだろうなぁ」「…」

 颯汰は答えを見つけることができなかった。


 

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