4人の少年
窓から冷たい風が吹き込んでくる季節になった。木々は葉を落とし、雪がはらはらと降ってくるようなそんな時期。
人が少なくなった通学路を1人の少年が走っていた。年はおそらく中学1年生ほど走る彼の口からは白い息が漏れていた、少し遠くに学校が見える。
「やばい、今日だけは遅刻したくない。」
そう独り言を呟きながら稲生颯汰は学校の外周の坂を上り始めた。
しかし何か様子がおかしい。いつもなら生徒達の声で騒がしいはずの校舎が水を打ったように静まり返っている。外周を上るのは慣れているはずだが息切れがする。校門に近づくにつれて段々と人の声が聞こえてきた。とりあえず何が起きているのかを知るため、近くに居た担任の教師に話しかけた。
「稲生か、何か中で騒ぎが起きていてなよくわからないが教師は全員校外に締め出されたんだ。」
話を聞いても意味が分からない。すると白髪で長身の男が歩いてきた。
「君は...。」この学校の教頭だった。颯汰は彼に疑問をぶつけた。
「先生、一体何が起きているんですか?」「...なるほど、君には話してもよさそうだ。」意味深なことを言うと彼は颯汰に向き合った。「今朝学校に来て準備をしていた時、職員室に生徒たちが乱入して来たんだ。そしてその中には生徒会のメンバーの顔もあった、そして私たちは校内から追い出され学校は占拠された。」
一連の話を聞いていた颯汰だが何が何だかわからない。「そして彼らは校長先生を人質に取っている、しかしなんの動きもない。彼らが一体何を企てているのかが全く分からない。」
「ところで君に1つお願いをしていいかな。」「なんですかそれは?」「君には学校の中に入って様子を確かめてほしい。」「え?」「そしてあわよくば校長先生の救出。」「は?」「さらにできれば主犯の...」
そこまで言いかけたとき。
「待ってください。」颯汰にとって聴き馴染みのある声が聞こえ背後から現れたのは颯汰の親友で幼馴染の菅原蒼だった。大きな目と中性的で整った顔立ちをしている。「何故颯汰が行く必要があるんですか、僕が行きます。」「い、いや蒼だけで生かせるわけにはいかないよ、俺も行く。」
「よく言った!俺も行くぜ!」群衆より頭一つ抜けて背も声も大きい彼は柔道部のエースで颯汰のクラスメイトでもある中山翔馬だ。「お前には、『貸し』もあるしな!」『貸し』が何かは覚えがないが頼りになるのは確かだ
「...」
「でもよ、どうやって中に入るんだ?」4人は2メートルある校門を見上げた。すると都合の良いことに近所のおじさんが脚立を持って来た。「妙に都合がいいね。」蒼がつぶやく。
4人は脚立を使って校門を乗り越えた。4つの背中を見ながら教頭は聞こえるようにつぶやいた「頼んだぞ。」
彼らが見えなくなると1人の教師に告げた。「30分待っても動きがなかったら警察に通報しろ、子供の遊びに付き合ってる暇はない。」
4人は生徒玄関前に横並びになった、冷たい風が吹きぬける。そして颯汰と中山は同時に叫んだ。
「「誰だお前!」」
無言の4人目、眼鏡の少年に向けて。