参話 秋は夕暮れ・前
「ちょっと、ちゃんと聞いてるんですか?」
「ああ、聞いてるよ。」
「でどうなんですか?」
「え何が?」
「あーもういい加減にしてください!」
「まぁまぁ冗談だよ。」
「そうですか、でどうなんですか?」
「聞く限りじゃ、その女性は葬式場にいた怪しい男と奥の部屋に入り、
その後行方不明となった。だったら、そいつらが誘拐あるいはそれに準じる何かをした。
と考えるのが普通じゃないか?」
「んーそうなんですけど、だとしたら私は何をすれば良いのかなって。
秀才の橘君に意見を伺っている訳です。」
「警察に行くとかは?」
「どうなんでしょうか。正直迷っているんです。」
「何で?」
「どうも烏賊織市の警察には正常に機能していないという印象をうけます。」
「へー何で?」
「例えば今、北西にある区画でタワーの建設が行われていますよね?
そこは元々住宅地だったんですよ。それもただの住宅地ではなく、
過去400年以上も続く家系が暮らしていました。
なのに今はタワーが建設されている。」
「ただ単に引っ越しただけだったじゃない?」
「あの区画には5つの家系の人達が住んでいました。
調べてみたら、5つの家がほぼ同時に家を空けています。
そんなことあり得ますか?」
「確かにそれは不自然だね。
でもそれと警察にどんな関係があるの?」
「ほぼ同時と言いました。ある1つの家だけ他の4つの家と比べて遅れて家を空けているんです。
しかもその家は何者かに襲撃を受けていたという噂もあります。
「あくまで噂だろ?」
「そうですけど、普通そんな噂が会ったら建設延期などの処置をされるはずですよ。
なのにあんなにすんなりと建設は開始されてしまいました。」
「それはおかしい。」
「それだけじゃありません。鮫島グループ、有名ですよね。
この烏賊織市の裏の世界を牛耳っている不良グループです。
いつからあいつらの調査を警察が始めたか知っていますか?
10年です。でもメンバーの逮捕どころかリーダー以外、名前さえも分かっていない。
なにかあります。」
「それはただ警察が無能でグループが有能とも考えられる。」
「そのとおりです。警察に裏があっても無くても葬式の件を通報するのは効果がないと思います・・・。
この十年で本当にこの町は変わりました。」
「・・・今までの発言を聞くと、月島グループにあまり良い思いをしていないように感じるけど。」
「そうですね。良い思いどころか嫌悪しています。」
「・・・」
「この町を発展。よりもグループの発展を重視していると感じます。」
「そうか。なら僕から言える事は何も無いと思う。
いままでそんな考え方をした事は無かったし。
しいて言うなら証拠でも集めてみるのが良いと思うよ。
この話に加えて動かぬ証拠があれば警察だって動かざるを得ないだろう」
「そうですか。考えてみます。
じゃあ電話番号とメールアドレス教えるんで何か気付いた事があったら何でも良いんで教えてください。」
「ああ。」
「じゃ、また来週大学で。」
「ああ、また来週。栗橋さん・・・」
なんなんだあの女。
あそこまで事件、いや事件とさえ認識されていない事柄の真相を突き止めているなんて。
喫茶店を後にしてからの事はあまり覚えていない。
今は自分の書斎であいつとの会話を思い返していた。
栗橋美樹。
俺が先月入学した大学に通っている同級生で、頭の良さでは大学一とされている。
大学では目立たないように心がけていたのだが、
栗橋は俺の能力を見抜いてよく何かについての討論を喫茶店でしていた。
俺としては暇つぶしにもなったし嫌いではなかった。
だが今日、あいつは月島グループにを議題に持ってきやがった。
しかもあれは今日昨日に考えついた事じゃない。
長い時間調べていたはずだ。
初めてだ、この段階で月島グループに疑問を持つ者に出会うのは。
どうすればいいか。
いや、その答えはある程度俺の中では出来上がっている。
俺は携帯電話を手に取り番号を押していく。
あの討論ができなくなるのは残念だが仕方が無い。
気付いてはいけない事に気付いてしまい、それに反感を抱くようじゃ救いようが無い。
それにしても宮島達の立ち退きは時間差を作ってやるべきだったな。
「はい鮫島です。」
「仕事だ。ある女を消してほしい。名前は・・・」
鮫島 一樹
烏賊織市を牛耳る不良グループのリーダー。
月島グループの傘下にあり、検挙されることはない。
文徳の指令によって月島グループにできない事を
代わりに行う。




