夏は夜
死んだ。
いや殺された。
つい先日まであんなに元気だったのに。
「いつもいつも漫画とテレビばかり、勉強しなさい」
とか
「早くおきなさい、遅刻するわよ」
などというとりとめの無い言葉。
ダメ、思い出すだけで涙があふれてくる。
あの日もいつものように花梨を見送りいつものように帰りを待った。
もういくら待っても帰ってこない事も知らずに。
交通事故でいなくなってしまうなんて・・・
二度とあの声を聞けないなんて。
許さない。
花梨を轢いた奴。
絶対許さない。
「清子さん、元気出してください。」
隣にいる美樹が私に語りかけてくる。
この状況で元気になれとは、他にかける言葉は無いのだろうか?
もう葬儀も終わり後は火葬のみ。
もう花もそえた。
奇麗な百合の花を。
「あのですね清子さん、私ちょっと気付いた事があるんです。」
何を今更。
「あの、聞いてます?」
あー、もううるさい
「この葬儀、ちょっと変なんです。」
「何がよ?」
「あっ聞いてたんですか。えーとですね、まずあの棺です。
普通、全員が花を棺にそえてから蓋を閉める物なんですよ。
なのに花梨が入っているあの棺は花を添える前から蓋が閉まっていました。」
「それは交通事故で顔が見る影も無くなってしまったからでしょ?」
「そうでしょうかね〜。私には棺の中身を見せないようにしているように感じます。
常に棺の周りには男が張り付いてますし。」
「何でそんな事気にするのよ?男なんてどこにもいないじゃない。
だいたいあの棺の中身を見せたくないって花梨と何の関係があるのよ。」
「ここから見て右の奥から2番目にある一番棺に近い柱に寄りかかっているスーツを着た男と、
そこの対称の場所にいるこれまた黒いスーツを着ている男です。」
たしかにじっと見ている気がしないでもない。
「ただ見ているだけではないの?」
「そういうなら試しにもう一度棺に近づいてみたらどうですか?
あいつらも何らかの反応をするはずです。」
「そこまで言うならやってみるけど。」
「でもくれぐれもあいつらに話しかけたりしてはいけませんよ?
他にも仲間がいるかもしれないし、危険です。」
「ええ。」
私は席を立ち棺に近づいてゆく。
なぜ美樹みたいなまだ学生の女の子の言う事を聞くのか。
それはあの子は特別だからだ。
小さな事にも気が回るし今までも色々な相談に乗ってくれて、
うまくいかなかったためしがない。
だから今回も彼女を信じてみることにしたのだ。
棺に近づく。
手が触れられるほどまで来た。
「へっ?」
先ほど美樹が言っていた左にいる方の男がこちらへ歩いてくる。
美樹の言っていた事は本当だったの?
「どうしました?お母さん。」
「いえ。ただもう一度花梨の顔を見たいなと思いまして・・・。」
「そうですか。しかしもう蓋を閉め、釘も打たれています。
顔を見る事はできませんよ。」
このどこか突き放すような言い方に私の小さな疑心は
大きく膨れ上がった。
美樹にはすぐに戻れ、みたいな事を言われたがちょっとくらい大丈夫だろう。
大半が外で火葬を待っているがまだ周りに人も少しいる。
「釘をあける事はできませんか?」
「いえ私におっしゃられても。」
「どうしました?」
別の男が駆け寄ってきた。
右の柱にいた男ではない。
確かこの葬儀を準備、指揮してくださった木村さんだ。
「あのぅ、もう一度娘の顔を見せていただけないでしょうか?」
「えっ今からですか?もうくぎを打ってしまいましたし・・・。
難しいですね。」
「お手間をおかけするのは承知の上です。お願いします。」
「しかしですね・・・」
「なにが難しいのよ。
ただ釘を抜いてもう一度釘を閉めるだけじゃない。
それとも顔を見せられない理由でもあるの?」
いつしか私の疑心は確信に変わっていた。
相手の言葉を遮って怒鳴り散らす。
「分かりました。こちらとしても疑われるのは心外です。
ここではあける事ができないので移動しますね。
あのぅ、一度棺を戻しますので手を貸していただいてもよろしいですか?」
この声に駆けつけてきた男何人かと共に私は奥の部屋に入っていった。
私は胸を高鳴らせながら後に続く。
先ほど右の柱にいた男も棺を運んでいる事にも気付かずに・・・
栗橋美樹
本作では橘と共に主人公的立ち居ち。
才能豊かで基本なんでもできる。
烏賊織市一の大学に主席で合格するほどの秀才。
烏賊織市で起こる事件に疑問を持ち、独自に調査している。




