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エソラとキッズミュージアム

本日完結予定です。よかったらお付き合いください。

野毛山頂動物園での戦いを経て自信をつけたエソラたちは、反転桜木町での行動範囲を広げた。それに伴い、三橋シノブのオブジェの様子を定期的に見るべきだというクルミの意見に賛同し、エソラ、竜太郎、蝶次の三人は反転世界の学校を訪れた。

 エソラの頭にドッペルゲンガーを追ったあの日がよぎる。

 そのせいかエソラは妙に胸騒ぎがした。

「ほんと、まんま学校だな」

 蝶次が辺りを見渡しそう呟いた。

 夜の時間帯のためかトゥーンはほとんど見受けられない。

 静寂に包まれた廊下を三人が歩いていく。

 先頭の竜太郎が立ち止まり、室名札を確認する。

「ありました。私たちのクラスです」

 竜太郎が教室の扉に手をかける。正世界と同じく建て付けが悪いのか、ガタガタと音を立ながら扉がスライドする。その向こうに、三橋シノブの姿はなかった。

「なんで……」

 エソラの嫌な予感は当たってしまった。

 ずっと胸にわだかまりはあった。そもそもオブジェが同じ状態を保てるのかすらわかっていない。さらに外的要因による破損や消失など、さまざまな不安要素はあった。

 しかしエソラは自分たちにできる範囲の外のことは、無意識に考えないようにしていた。

 とはいえいざ目の当たりにすると、その喪失感にうろたえてしまう。

「ここに、ここにあったはずなのに!」

「エソラ。落ち着いて」

 竜太郎はエソラに向き合うと、両肩をつかみじっと目を見つめた。

 その行動によりエソラは我に返り、深呼吸をする。

 オブジェについては何もわかっていない。

 しかし壊れたり溶けたりなど、そういった形跡は見受けられなかった。

「持ち去られた……そう考えるのが妥当かもしれない」

「誰があんなもん欲しいんだ……って、そうか!」

「二葉とガライ、そしてドッペルゲンガー……あるいはその関係者、ですね。二葉は赤レンガすとあにオブジェを集めていた。そして彼女はガライとつながっている。あの二人が関与していないと考える方が難しい。もし他にも仲間がいて、組織的に動いているとなると……と、これは最悪のケースですが、どちらにせよ奪還にはかなりの危険が伴います」

 竜太郎の推理を最後に、三人の間に沈黙が流れる。

 それを嫌がったのか、蝶次がおもむろに黒板の方へ歩いていく。

 そして振り返り教卓を叩く。

「さて、エソラくん。仲間の友達は友達か?」

 どの先生の真似をしているのかわからなかったが、茶々を入れずエソラが答える。

「友達……と言っていいと思います」

「そうだよな。なら助けるしかねえだろ? 考えようぜ。三人寄れば……って言うだろ? 咲良も入れれば俺たちは四人だ。無敵だぜ」

 蝶次の言葉にエソラの中の迷いや不安は晴れ、俯いていた顔が自然と上がった。

「ありがとう。それにしても蝶次がことわざを使うなんて……まさか操られてたりする?」

「おい、バカにしすぎだぞ。つっても、三人寄れば……までしか知らねぇけどな」

 

 翌日の昼、この日は日曜日のため四人でワールドポートに集まり作戦会議を開いた。

 まずは状況整理を兼ねて三橋のオブジェの件、そして竜太郎の推理をクルミに伝えた。

 クルミもエソラと同じような不安を覚えていたようで、一時ひどく落ち込んだ様子だったが、沸々と込み上げるものがあったのか今では発奮している。

「私も、反転世界に連れていって」

「だめだよ。危険すぎる」

 エソラの言葉にクルミが唇を噛み締める。

「エソラが私の立場ならどうする?」

 クルミがまっすぐな眼差しをエソラに向けている。

「……そうだね。みんなはどう思う?」

 竜太郎と蝶次は静かに頷き、クルミが反転世界に同行することが決まった。

 問題は三橋のオブジェがどこにあるかだった。

 第一候補は赤レンガすとあだが、仮にそこになかった場合リスクしか残らない。

 エソラたちがいつもぶつかる壁、それは情報だった。

「筆談はどうでしょう? 反転世界のことは向こうの住人に聞くのが一番かもしれません」

 

 

 竜太郎の提案によりエソラたちは「トゥーンを見つけては筆談」これを繰り返した。

 三橋のオブジェの居場所を突き止めるまではいかなかったが、建前のない、つまり嘘のつけないトゥーンからの情報収集は順調にすすんだ。

 聞いたところによるとキッズミュージアム、中央図書館、ランドマークツリー、そして赤レンガすとあの四ヶ所に、正世界の人間が頻繁に出入りしているという。

 二葉たちの活動はこれらの場所を拠点に行われていると考えられた。

 クルミは反転世界に来た直後こそ浮き足立っていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 戦闘には参加しないものの、持ち前の運動神経で流れ弾をかわすなど今のところ安心して見ていられる。

 そうして一週間が経ち、決行の日が訪れた。

 観覧車から近く、夜間帯トゥーンの通りが少ないという条件から、まずはキッズミュージアムを探索することになった。

 『キッドマン』という子どもの姿をしたヒーローが活躍するアニメがあり、その世界を模して作られたエンターテイメント施設、それがキッズミュージアムだ。

 キッドマンはお腹を空かせたキャラクターにお菓子を分けたり、悪役をパンチやビームで倒すなどヒーローの鑑と言える存在で、子どもたちから大人気だ。

 こんな可愛げのある場所が悪の組織の拠点だなどと、エソラにはうまくイメージできなかった。そんなことに気をとられている場合ではないとエソラは首を大きく横に振り、歩みを進めた。

 入り口付近に到着すると四人は輪になり、作戦を確認する。

「もし中に複数人いたらアウトです。まず勝ち目はないでしょう。その場合私がしんがりを務めるので、振り返らずに逃げてください。誰もいなかった場合は手早くオブジェを確認し、あれば私の能力で梱包し運び出します。三橋さんかどうかの最終判断はエソラ、咲良さん。目撃したお二人に任せますよ。そして相手が一人だった場合──」

「交戦だな」

 蝶次が腕を回しながら竜太郎の発言を遮る。

 それに対し竜太郎は軽く咳払いをした後、訂正する。

「いいえ、まずは交渉です。互いの利害が一致すればそれも良し。そうでなくとも情報を引き出せるだけいただいた後、可能であれば逃走。やむを得ない際に交戦です。と言っても、こちらに交渉の材料なんてありませんがね。もぬけの殻であることを祈りましょう」

 凶暴化したトゥーンと違い、人間には能力を応用する知能がある。

 以前二葉に勝利できたのは彼女の油断によるものだとエソラたちは重々わかっていた。

 戦いを重ねるほど、彼女の戦闘の練度がどれだけ高かったか思い知らされる。

 ガライを含め二葉の関係者は皆百戦錬磨に違いない。

 蝶次が好戦的な態度をあえてとるのは、士気を上げるためだろう。本音では彼も緊張しているはずだ。その証拠に彼の頬を冷や汗が伝っている。

「そんじゃ、いこうぜ。三、二……」

 蝶次が入り口のドアに手をかけカウントする。

 しかし『ゼロ』を待たずしてドアが向こう側へと開いた。

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