02 レーゼア
おはようございます。魔界のノミです!今話はギャグ少な目であります。(´;ω;`)書けば書くほど厨二の思ひ出が心をよぎる今日この頃。何はともあれ、「生命を謳うは狩竜の死神」第二話です!楽しんで読んでいただけると幸いです。
夜半、レーゼアに着いた。そこは豊かそうな港町で、夜中にも関わらず市場では活気づいた人波が目当ての品を探し求めて店から店へと忙しなく往来を繰り返していた。値切り交渉をめぐって客と店主が唾を飛ばし合って論争する声や、競売に参加する商人達の喧声がそこら中に飛び交っている。「凄い賑わいだ。」人混みの煩雑さに気圧されそうになりながら、俺がぽつりと呟く。
「それもそのはじゅっ…それもそのはず!ここレーゼアはリヴァイア皇国を象徴する、この世界有数の海洋貿易都市じゃからなっ。」
ゆるりとつばの広い、黒のとんがり帽子を傾けながら、彼女は小さな背丈に長い黒髪を揺らして得意げに胸を張った。どう考えても決め台詞を噛んでしまったこの残念な魔女はミラ。俺の…一応ご主人様ということになる。
「見るのじゃコータロー!」紫色の瞳を輝かせながら、ミラは市場の一角を勢いよく指し示した。そこには大小さまざまの光輝く球体が陳列されており、一目で宝石店だとわかる様相をしていた。
「紅海蛇の瞳に宝珠魚の魔石…む!?これは青龍玉ではないか!どれもこれも一級品の超高レア素材じゃ…。」じゅるり。とミラの口元から欲望の分泌される音が聞こえる。
世界を救う竜狩りになるために、俺はこの世界に強制転移させられたはずなのだが。この世界が危機に陥っている理由も、竜狩りが何なのかも、そもそもなぜレーゼアを目指したのかも、未だミラの口からは説明されないままだった。何より、目の前の生き生きとした人々の面持ちからは、世界の存亡に対する危機感なんてものはひとかけらも感じられない。彼らの瞳には、確固として繁栄に対する信念と希望が焼き付いているようだった。
「お目が高いねお嬢ちゃん。見たところ異国の冒険者のようだが…ウチの魔石は高価いぜ?最低でも1000ゼルはする。ちゃんと金持ってんのかい?」そう店主に話しかけられてミラは少しの間沈黙した後、くるりとこちらに踵を返した。紫色の瞳をうるうると緩ませ、口元をあどけなく窄めている。
金、持ってないんかい。「足りないようなら、冒険者ギルドに行って稼いでくるこったな。『白鯨』ってギルドをお勧めするぜ。なんせあそこはレーゼア全体を取り仕切ってる巨大組織だからな。運が良けりゃ、割のいい仕事にありつけるかもしんねえぞ?」
「ありがとうございます!…あの。」
「ラルフだ。金溜まったらちゃんとウチで買ってけよ?じゃあな兄ちゃんと嬢ちゃん。」
ラルフに別れを告げて、ギルド白鯨を目指すことにした。
「ねえミラ。結局レーゼアに来た理由って何なの?魔石買うためではないよね?」
「さっきの店主が言っておった、『白鯨』に知己がおってな。レインという男なんじゃが、そやつがステータス鑑定の名手なんじゃ。コウタロウのステータスが詳しく知りたくての。」
レーゼアに着くなり魔石に目を輝かせていたミラの姿が目に浮かぶ。説得力は皆無だった。
「ここが『白鯨』か…」そこは中世キリスト教建築を思わせる、白色を基調とした三棟建ての巨大な建物だった。高鳴る胸の拍動を抑えるようにして、重厚な飴色の扉を押し開ける。ギイイィとくぐもった声を上げて、大扉が開いた。
扉の内側では瀟洒な外観とは裏腹に、年季の入った木製のテーブルと椅子が所狭しと並べられ、大勢の冒険者達がたむろしていた。鎧に身を固めた剣士もいれば、無骨に大斧をかついだ荒くれ者も、魔術師らしい、ローブに身を纏った青年もおり、パーティ単位で固まって酒を飲んで笑いあったり、食卓を囲んで談合したりしていた。ギルド 『白鯨』は市場とはまた違った賑わいを見せているようだった。
新入りの来訪に周囲の視線が集まる中、受付嬢のいるカウンターまで歩く。「いらっしゃいませ。初めてのお越しですか?他の場所でギルドカードを作成済みでしたら見せてくださいね。お持ちでなかったら、冒険者ランクを確定させるための試験を行った後、登録させていただく流れになります。」
整った歯列をちらりとのぞかせながら、そう受付嬢は唇の端に微笑をともす。
「ミラってギルドカード持ってたりする?」「多分これのことじゃろ??」黒光りのする長方形のカードがポーチから取り出される。その黒いカードに刻まれた文字を目で追うにつれ、受付のお姉さんの視線があからさまに揺れ動き、微笑を湛えていた口元がみるみる引きつっていった。
「た、大変失礼いたしました!SSSランク冒険者、『土塊の魔女』様。ほ、本日は、どのようなご用件でしょうか。」声が震えている。ものすごい狼狽っぷりだった。
「レインはおるか?奴にこの男のステータス鑑定を頼みたいんじゃが。」
「承りました。少々お待ちください。」そう言って受付嬢は足早に二階へ向かった。この残念魔女、もしかしてすごい奴なのでは?一抹の疑問を抱きつつ待っていると、バタバタと音をたてて二階から礼服に身をつつんだ大柄な美丈夫が下りてきた。燃えるような赤の髪色をオールバックになでつけており、左眼は眼帯でおおわれていた。どことなく荘厳な佇まいを感じる。
「『土塊』か?お前、本当に『土塊』か!?」信じられないといった様子で、レインは鳶色の右眼をぱちくりとさせている。「久しぶりじゃなレイン。ちょっと会わないうちに大きくなったか?」
「そっちは小さくなりすぎだろ…。つか、アンタにとってのちょっとを待ってたら人間種は寿命が尽きちまうよ…。」
「お主がそれを言うか?…まあ、こっちもいろいろあったんじゃ。」からからと笑いながらミラが返す。
「立ちっぱなしにするのも悪い。話は応接間で聞く。これでも『白鯨』の当代ギルドマスターなんでな。あの大英雄『土塊の魔女』殿に無礼な対応はできんさ。」あ、やっぱ大英雄なんだ。ミラって。この残念褐色ロリが?と俺は疑いの眼差しを向けつつも、俺はミラと共に応接間に向かうのだった。
応接間に招かれ、黒みがかった深紅色のソファーにミラと座る。
「お主も出世したもんじゃのお。」ミラが口を開いた。「まあ、300年もあればな。」さらりと今、とんでもないこと言ったぞこの人。「で、要件なんじゃが。ワシの横におるこのヒョロガリのステータスをお主の魔眼で見てほしくての。」ヒョロガリって言った?今俺のことヒョロガリって言ったかこの魔女。ジト目のお返しと言わんばかりに、予想外のフックが俺の精神的脇腹に突き刺さる。
「お安い御用だ。」とヒョロガリ発言を気にも留めずにレインは両手を頭の後ろに回して眼帯を外した。現れたのは、紅い妖しさを漂わせる満月のような瞳。
「…!?なんだお前!?…アンタも変な奴を連れてきたもんだな。」そう驚きを口にして手元の水晶に掌をかざすレイン。水色の光とともに、虚空に俺のステータスが表示される。
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アカシ コウタロウ
HP 13
MP 7000/800000000
素早さ 17
攻撃力 10
防御力 10
魔力 800000000
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「偏り方が常軌を逸しとるんじゃけど。なんじゃこれ。お主新米魔王か何かか?」
「おかしいのはステータスだけじゃない。スキルと称号の方を見てみな。」呆れたような口ぶりで赤髪の美丈夫は言う。
保有スキル:「錬金術」「大鎌術」「竜特攻」「竜狩りの烙印」「死神の抱擁」「土塊の加護」
称号: 「追放者」 「転生者」 「十字架」 「土塊の従者」
なんだ。スキルと称号に関してはそんなヤバそうなのないじゃん。「死神の抱擁」はちょっと不吉だけれども。そう思ってミラの方を見ると、啞然とした様子で小魚のように口をぱくぱくさせていた。それしか目に入らないといった面持ちで、ステータス画面の一点を指さす。
「れ、錬金術じゃと!?」そっちかい。どうせこの魔女のことだから、錬金術で金儲けすれば魔石を自由に買い漁れると思ったんだろう。再びミラに対して湿った視線を送り返す。
そんな雰囲気を察してか、レインが口を開いた。「いいか坊主。この世界において、錬金術っつうのは失われた技術なんだよ。何千年も前にな。今の時代、錬金術系スキルの保有者なんて五本の指で数えても指が余るほどの数しかいない。驚くのも無理はねえよ。残りのスキルに関しては…実戦で自分なりに理解した方が早いか。」
顎に手をあてて少し考え込むレイン。「今日はもう遅いから、登録試験は明日するとしよう。一応、『白鯨』内には宿泊用の設備もある。手配はこっちでしとくから、今夜はここで泊まって、明日になったら受付に行ってくれ。」
翌朝。俺とミラはレインの言う通りに受付に問い合わせに行き、無事俺は登録試験を受けられることになった。闘技場に案内されると、そこにはレインと、ローブを身にまとい、曲がりくねった木の宝杖をついた老人がいた。
「坊主!これをやる。」レインが手に持っていたのは、とても俺の力では扱えそうにない、金属製の大鎌だった。でも手に取ってみると、不思議と掌に吸い付く感覚がした。
「『大鎌術』。大きな鎌が扱いやすくなるスキルだよ。」頭の中で、柔らかな、頬を撫でるそよ風みたいな声がした。誰だろう、この声。すごく、すごく懐かしい気分になる。
「はい。レインさん。」自然と口から敬語が飛び出す。なぜだか、胸の内は根拠の無い自信に満ち溢れていた。
「召喚小魔人。」しゃがれた声が静かに戦いの開始を告げた次の瞬間、三体のゴブリンが魔方陣から召喚された。刹那、緑色の醜い顔が三つ、宙を舞う。俺か。鎌を振ったのは。
「これほどまでとは…。」レインがうなる。「召喚不死魔物・死の騎士」矢継ぎ早に召喚されたのは両手剣を持った骸骨の騎士だった。すぐさま距離をとる。慣れ親しんだ、足運びで。距離を詰めようと骸骨の騎士が一歩を踏み込むのにあわせて、俺は体を前方に投げた。下段から歪んだ一閃が襲う。剣を握った両手もろとも、死の騎士の頭部が空を飛んだ。俺が鎌を振り終わらないうちに、老魔術師は次の呪文を口早に唱え始める。ぞわりとした悪寒が背筋を走った。
「召喚不死竜」しゃがれた声に呼応するように、瘴気があたりに立ち込める。紫煙からおぞましい鎌首をもたげたのは、顔の左半分が白骨化したどす黒い翼竜だった。腐乱臭をまき散らしながら竜が咆哮する。
「不死竜。炎で焼き尽くすか、聖属性で攻撃するしか奴に止めを刺す方法はない。そうじゃよな?レイン。」
「何心配するな。坊主が死にそうになったらこの結界を割って俺が止めに行く。そのためにここにいるわけだからな。」
不死竜の周りに渦巻く瘴気は、半円状の透明な膜に阻まれてミラ達の方には行ってないみたいだった。それはいいとして、俺は火炎魔法なんて教わってないし、スキル構成的に聖属性の攻撃も多分あり得ない。どうするんだろ。他人事みたいにそう思いつつ眼前の不死竜を見据える。
がらんどうの左眼の奥に光はないようだった。どろりとした右眼が蠢き、俺をとらえる。その瞬間、俺は妙案を思いついた。不思議とそれを実行することへの恐怖はなかった。崩れ落ちる腐山のように不規則な足取りで突進してくる不死竜を見て、俺は確信を深める。
こいつ、左側の視界が機能してない。迫りくる不死竜に斜めから突っ込む。竜の眼前から、突然獲物の姿が消えうせた。腹に潜り込むようにして身体をひねり、素早く左前脚を切り飛ばした。その勢いのまま一回転して、全身全霊のの一撃を同じ側の後ろ脚に放つ。この一撃が決まらなければ俺は多分死ぬ。そう思えば思うほど、とても淡々としていて不思議なほど静かな感覚に陥っていった。ふとまた、あの柔らかな声が頭に響く。
「『死神の抱擁』。死神に愛されし者に与えられるスキルね。生きとし生ける者すべてに、死は平等に降り注ぐってこと。あ、この場合は不死者もか。」
不死竜の後ろ脚が、虚空に舞う。腐りかけの巨体は屹立する術を失い、残る手足をばたつかせながら倒れゆく。一閃。どすんと音を立てて不死竜の巨体が地を揺らすのに少し遅れて、どしゃり。と竜頭が地に落ちた。
ぶすぶすと黒い煤煙を上げながら腐った巨竜の体が土塊に、魂が地の底に還っていくのを、俺はぼんやりと眺めていた。
「そこまで!」レインが野太い声を張り上げる。
「見事だった。坊主…と呼ぶのはもうやめだ。光太郎。おめでとう。これできお前は歴とした冒険者だ。」こうして俺はSランク冒険者になったらしかった。
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