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生命を謳うは狩竜の死神   作者: 魔界のノミ(有海梨実 ありのみ りじつ)
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こんにちは。 魔界のノミと申します。 全体的にはほのぼのと、シリアスなところはシリアスめに書いていきたいと思います! ノミはほのぼのチート及び錬金術モノと歴史モノが大好物ですので、神秘的な異世界史の一大パノラマみたいなのをのんびりと描いていきたい所存です。 (*^^)v

それではようこそ、未踏の異世界へ。

風が吹いていた。私は泣いていた。光と影の濃淡に縁どられて、緑がやさしく揺れていた。あなたの後姿が夜明け空に遠のいていく。私は頬に残る一筋の生暖かさが次第に冷たくなるのを感じながら、その影を見つめていた。寂しげに佇む暁が、半ば振り向いたあなたの横顔を照らす。銀色の長髪が揺れて、紅い瞳がのぞいた。私の何もかもを優しく包み込んで、その上で包み込んだ追憶の全てを忘れさせるような、そんな残酷さをその風姿は湛えていた。天使にも、死神にも似ていた。ふわりと、艶唇を緩やかに歪ませてあなたは微笑んだ。微笑んだまま、遠のいていった。「いかないで」その一言が言葉にならなかった。喉の奥で脈打つ衝動が、私を嗚咽させていた。手を伸ばす。悲しいくらいに美しい、その憧憬を掌中に包もうとした。瞬間、寂しく光るしゃぼん玉みたいなその世界は、真っ二つに裂けて、かき消えた。

俺は目を覚ました。ぼやけた視界の中、焦点のありかを探るようにして天井を眺める。ああ、あれは夢なんだ。記憶の欠片が脳内で整理されていく感覚を憶えながら、漠然とそう思った。誰かと別れる夢だった。多分、大切な誰かと。目をこすりながら上体を起こすと、目元が濡れていた。「なんで俺、泣いてんだろ。」そう、独り言つ。一人暮らしの狭隘さの中で虚しくこだまする独言を耳に流しながら、電灯をつけて勉強机に目をやった。明石あかし 光太郎こうたろう の文字がプラスチック製の学生証の上で無機質な光を弾いていた。別に、勉強が好きな訳ではなかった。ただ、手を抜けばそれだけ奨学金の打ち切りが近づく。自然、焦燥感に追われて机に向かうのが常だった。何かに追われてする勉強ほどつまらないものも中々ないだろう。かといってやらなければ一層焦りを増すだけのことである。焦燥と倦怠の間で逡巡しているうち、朝日の鮮やかさが恋しくなった。閉じたままのカーテンに手をかける。ふと、視界の端に違和感を感じてそちらに振り向くと、そこには黒いとんがり帽子があった。ゆるりとつばがひろい。丁度おとぎ話の魔女がかぶっているような帽子だった。その帽子の下からは、色艶の良い黒髪が垂れ下がっていた。恐る恐る視線を下に傾けると、そこには少女がいた。浅黒い肌に、両目は透き通るような紫色をしている。そのどちらもが真珠に似ていた。少女は美しかった。紫と黒。本来真珠のそれとはかけ離れた色彩の調和から、痛々しいほどの虹彩をはらんだ白色の艶やかさを連想してしまえるほどに。その異様な美しさに、俺は驚きの声さえも失った。少女の異貌に息をのんでいると、紫色の双眸がこちらをのぞき込んでいるのに気付いた。異貌の主が、口を開く。「お主、一体何者じゃ?」凛とした、風鈴みたいな声音だった。「いやそれ、こっちのセリフなんだけど。」怪訝そうな顔をされても困る。困惑したいのはこちらのほうだった。「おっと申し訳ない。自己紹介が遅れたな。ワシはミラ。土塊(つちくれ)の魔女とよばれとる者じゃ。」彼女はそう言って口元をふわりと緩ませた後、俺の学生証に目をやった。「これ、面白い文字じゃのう。なんて読むんじゃ?」あまりにもその尋ね方があどけなかったので、思わず口を開く。「あかし こうたろう だよ。」「そうかコウタロウか。なかなかに良き名じゃの。これからよろしく頼むぞ。コウタロー。」そういってにこやかに握手を求めてくるミラ。「う…うん。よろしく。ミラ。」断るのも悪いと思い、(美少女との握手を断る理由は見栄でしかないのを俺は知っている)現実感の湧かないまま、どぎまぎとした胸内の動揺を気取られぬように、そっと彼女の五指を握り返した。瞬間、紫色の光芒が目の前ではじけて、俺は気を失った。


ことことと音をたてて、身体が揺れていた。夕方、電車のなかでうつらうつらしているような快さを感じながら、ゆっくりとまぶたを開く。そこは乗り物の上であるらしかった。「起きたかコウタロー。」凛とした声が響いた。「ここ、どこ?」「レーゼアっちゅう港湾都市に向かう道中じゃな。」「…は?」慌ててあたりを見渡す。そこは険しい山道だった。すぐそばに断崖が開けており、崖下には青々とした山河が悠然と横たわっている。碧天には陽光が燦然と輝いていた。様々の疑問を差しはさむ余裕もなく、眼前に広がる大自然の威に圧倒されていると、突如空から爆音が鳴り響く。何故だろう。この高揚を俺は知っていた。驚きと未知への期待がない交ぜになりながらも、上方を振り仰ぐ。赤褐色の巨躯をうねらせて碧空を駆る飛竜の姿が、そこにはあった。「赤火竜(レッドワイバーン)じゃの。ここらへんじゃ珍しくもないが、お前さんは初めてか。ま、そのうち驚きもしなくなるじゃろ。」飛竜は眩しいばかりの陽光を両翼で受け止めてしばらく天空を旋回していたが、突如太陽の方角へ飛び去って行った。碧空に差し掛かる光輝の源へと旅立ったのだと思った。こうして俺は、未知が渦巻く異世界に招き入れられたことを悟ったのだった。

「ーで、結局ここどこ?」「語義をただすなら、百竜峠という名の土地じゃな。」「いやそうじゃないんだよなあ。」下りに差し掛かった峠から見慣れぬ夕暮れを眺めつつ、俺は嘆息する。元の世界に飽き飽きしていたのは事実とは言え、そんなにすんなりと受け容れる気にはならなかった。如何せん、聞きたいことが多すぎる。「そもそもなんでミラは俺をこの世界に連れてきたの?まさかこの世界を救ってくれ~なんて話じゃあないでしょ?」「フラグ建築が上手なことじゃな。そのまさかじゃよ。」「うっそお。ってことは俺、勇者になったってこと?」内心うれしかった。人間は心のどこかで英雄願望をそれと知らずに持っているものである。何の努力も無しにある日突然勇者になれるなら苦労しないが、だれでもささやかな射幸心の一つや二つは胸中に飼っている。俺も例にもれず、そういう人間ではあった。「自惚れるでないわたわけ。…そんなに生易しい話ではない(・・・・・・・・・)。第一、勇者が欲しいんなら素直に召喚魔方陣でも作っとるわ。」ミラはそう言って一瞬息を飲み込んだ後、「お主には最強の竜狩りになってもらう。ちなみに拒否権はない。」と静かに告げた。なにか痛々しさの密度が数倍濃くなったような気もするが、英雄に変わりはないように思える。しかし「拒否権はない」という言葉がどうも引っかかった。「もし拒否すると言ったら?」別に積極的に拒絶したいわけでもなかったが、鎌をかけてみることにした。情報は多ければ多いほどいいと思った。「不可能じゃな。だってお主ワシの従僕じゃもん。」

「おっしゃっている意味が解りませんが??」「魔女にとって、真名は命と同等の価値を持つ。普通誰にも教えんのじゃ。コウタロウはワシの真名を口にしたうえでワシの手を握った。それで契約成立じゃ。絶対服従のな。どこぞの呪いと違って命令に回数制限とかないからの?ちなみにお主がワシの真名を呼んでも他人には聞き取れんから、そこは安心してよいぞ。」さらりととんでもないことを口にするミラだった。「あとずっと気になってたんだけどさ、この乗り物何…?」一見、四輪式の荷馬車のような乗り物に見えなくもなかったが、よく見ると土と岩でできているらしく、薄肌色の岩石生命体のようにも見えた。「よくぞ聞いてくれたな!」語気を昂らせてミラは叫んだ。「愛しの汎用運搬ゴーレム、ぴえん577号ちゃんじゃ!形態変化可能で、どんな急勾配にも負けぬ!しかも水陸両用!土塊の魔女たるワシの最愛機よ!」「そのネーミングセンスだけはどうにかした方がいいと思う。切実に。」「そんなこと言うではない!578号ちゃんが不憫ではないか。」「…ん?さっき577号とか言ってなかったっけ?」気まずい空気が少し流れた後、ゴゴゴと音を立ててゴーレムが震え始めた。「ピエン…ピ!エエエェン!!」機械的な抑揚で、ぴえんちゃんは悲哀の電子音声を上げた。「まずい!577号ちゃんが拗ねた!」誰よそのゴーレム!とでも言いたげに、ぴえんちゃんはガシャガシャと哀しみを表現するための形態へ己の在り方を最適化していく。「ぴえん」が汎用型ゴーレムにとっての種族名なら、その型番は人間で言う個人名にあたるだろう。修羅場の領域展開である。しかも578号という、彼女(?)より恐らくグレードの一段高い最新機の名で間違えたのだ。ゴーレムという使役されるべくして造られた生命体の性質上、あるいは人間よりも激烈な哀しみに悶えているのかもしれなかった。「何でお前のゴーレムこんな無駄に感情豊かなの!?」幾何級数的に上がっていくぴえんちゃんの機動速度を風で感じつつ、俺は叫んだ。混乱と怒りと純粋な疑問の入り混じった声は、虚しく烈風にかき消されて、ミラには届かないようだった。





 






最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!もしよろしければ、レビュー、コメントの方、気楽に書き込んでいただけると幸いです。それではまた。

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