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VS鏡鬼 其の壱

「大丈夫か、夜名津」

「……うん」


 裏山でこの間の公園の時の鬼が現れたので、一先ず榎先輩と夜名津の霊能力者組と合流しては裏山で鬼を狩ってきた。


 退治するだけなら俺達だけでも十分だったんだが、鬼が出てくる召喚穴、アレを閉じるには先輩のチカラが必要なので合流しようと一旦降りて、榎先輩と夜名津を連れて再び裏山へと。


 その帰り、ボロボロになった夜名津へと話しかけると、元気のない声で返答する。


 鬼にやられたというよりか、自滅といった方が近いか? 鬼から逃げては転んでピンチに陥ったって感じだった。良いところなしな夜名津いつもの無表情は疲労感が見受けられる。コイツ、普段は何考えているか分からないムスッとした顔だが疲労した時は分かりやすい。


 合流した時は結構凄いオーラ出ていたのに。


「……お前、本当に我一か?」


 突然、ずっと重い沈黙を保っていた切利さんが口を開く。振り返ってみるとその顔は信じられないものを見るような、そんな瞳を夜名津へと向けてくる。夜名津はその言葉に彼女へと向けてハッキリと答える。


「はい、僕はどこからどう見ても君の昔馴染みの夜名津我一だよ」

「……それにしては随分変わったな。昔のお前ならあの程度の鬼くらい倒せていたはずだ」

「「は?」」


 聞き捨てならない台詞に俺と榎先輩の言葉が被る。


 昔の夜名津なら鬼程度なら倒せた?


 確かに今回の敵はこの間と同じ小鬼だった。あの時の俺ならいざ知らず、今の俺でも今日の相手は十分対応できた。言ってみれば血統者として、仕鬼祇を使ってようやく対応できるくらいの難易度。


 だけど今の言い方だとまるで今回ドジったのはわざとで、昔の夜名津ならば十分対応できた、みたいな言い草だ。


 もしかして、夜名津は昔すごい術者だったとか? 確かに変に場慣れしている感あるし。


 夜名津の方へと視線を送ると、本人はいやいやと否定してくる。


「いや無理ですよ。(それに昔の僕が行けたのは抱腹が絶対条件だから、一歩間違えれば死ぬ今の展開なら無理だ)」


 否定だったが、どちらとも取れるタイプのものだった。昔は術者だったと告げているようにも聞こえるし、単純に無理なものは無理とも言えるその対応。コイツはこんな感じの言い回しをしてくる。


「え、なんだお前昔鬼とか戦っていたわけ?」

「あの巫力の秘密はそれ? 今が使えないのは何かしらの事故が原因とかかしら?」

「ほら、切利ちゃんが紛らわしい言い回しするから僕が昔はすごい人ポジションで、何かしらの事故が原因で能力を失った系主人公みたくなったじゃん。ないよ、僕は昔から霊能力も魔法も、君らみたいななんたらってヤツじゃないから。普通に友達のいない寂しい子供時代を送っていた普通の子だよ」

「ただ傍若無人のいじめっ子だろうが」

「いや、傍若無人ではない」

「いじめっ子であることは否定しないのか……」

「子供のやることだよ? いじめの一つや二つやるでしょう?」

「お前は一つや二つじゃなかったがな」

「まあ、そんな時代があったから僕は、成長した僕だからまあ最低なヤツだったから多少なりとも後悔はあるんだよ。……あ、そうだ」


 無理矢理話を終わらせて別の話題へと移して誤魔化そうとする、というよりかはどちらかというと話の流れで思い出したという調子で夜名津は切利さんの方へと振り返る。


 いきなりの急転回してきたことに構えを取る切利さん。夜名津が何をしてきても即座に対応できるような態勢だ。


 夜名津は頭を下げる。



「子供の頃、イジメてごめんなさい」



「……!」


「女の子相手に殴ったのは今思えば悪かったし、泣いているのにさらに殴ったり蹴ったりとか暴力を振ってごめんなさい」


「!!?」


「それに他にも色々……子供の頃ことはいえ色々やり過ぎました。心底反省しています」


「!!!!!」


 夜名津が口を開く度に切利さんの肩は震え上がっては、苦虫を嚙みつぶしたような眉間の皺が大きく、強く、ハッキリと出来上がっていく。


「―――本当に、子供の頃、何の関係もない君を八つ当たりでイジメてごめんなさい」


「~~~~~~~~~!!!!!」


 これ以上ないくらい綺麗に頭を下げた夜名津だったが、切利さんにとってはその一言が堰き止めていたはずのダムの崩壊には十分な代物だった。


 目に止まらないスピードで、開いていた距離を瞬で詰め寄っては頭を下げていた夜名津を無理矢理起こし上げては襟首を釣り上げて、頭突きをかまさん勢いで顔を合わせる。


「わたしは! お前なんかに! イジメ! られたことは! ない!!

 お前なんかに! 負けたことも! ない!!

 お前なんかに! 泣かされたことも! ない!!


 わ かっ た か!!!」


 今すぐにでも殺してやらんとばかりの血走った眼で爆音と表現に相応しい声量で言い放った切利さんははぁはぁ、と肩で息をしている。


 その様子に目をぱちくりとしている夜名津は戸惑った様子で答える。


「あ、はい、すいません……」

「「((相当根に持ってんなこれ)持っているわねこれ)」」


 出会った時から感じていた夜名津との仲は俺が想像していたよりも相当根深い代物だったらしい。なんだ、アイツ切利さん相手にボコったって……年上とはいえ女の子相手に殴り勝つとか、一体何やってんだよ、お前は……。


 呆れるやら困惑するやら……。いつもなら口に出して訊ねている所だが、怒れる切利さんの手前それは憚れる。迂闊に訊くと今度は俺の方に怒りの矛先が飛んでくるかもしれない。


 ふ~、ふ~と荒かった息が整うと、今度は恨みがましい低い声色で言ってくる。


「……いいよな、お前のような悪者は! そうやって改心したってポーズは取れば過去の過失は許されると考えているんだろう?」

「いや、全然全く、そんなことは」


 頭に血が登って言葉が苛烈かつ過剰になっていく切利さんの言葉に思うことがあったのか、夜名津は言い返そうとするが、その先は聞く必要はないと言わんばかりに先に口にする。


「少しでも被害者のことを一度でも考えたことはあるのか!?」

「…………」


 開こうとした口が閉ざされる。


 その言葉が効いたのか。どことなく傷ついた顔をする。……夜名津には珍しい『痛い所を突かれた顔』ではなく、『傷ついた顔』だ。

 ひねくれ者のコイツが相手から逆に揚げ足を取られたような調子ではなく、心の奥底で気にしている何かを指摘されたような様子。


「なんだ、その目は何が言いたいことがあるのか! 言ってみろ!」

「……別に、ありません」


 踏み込んでくる切利さんに不満そうな顔を浮かべながらも、ない、と答える夜名津だが、怒れる相手にそれは逆効果だった。不遜な態度を見て、さらに責め立ててくる。


「おまえは……! いつだってそうだ! そうやって、人を馬鹿にし、見下して、嘲笑って、……人を人と思っていない、自分さえよければそれでいいと思っている。他人を卑下に扱う自分勝手な大バカ者だ。なんだ、その目は? 悔しかったら何か言い返してみろ!!」


 胸元を掴んで啖呵を切る切利さんの気迫は今にも殺しにかからんとばかりの勢いだ。それに伴って夜名津の瞳も氷のように冷たく、鋭利な刃物のようになるが、何も言わずにされるがままだ。


 頭に血が上ってしまった切利さんを危うげな様子に流石に止めるべきか、と動こうとするが、その前に二人のやり取りは止まる。


「だいたいその話し方や『僕』はなんだ? ―――」

「―――いい加減にしろよ」


 低く、切り捨てたような声。まるで二人の間にある空間を切り裂いたような声色だった。


 血が上っていたはずの切利さんは驚いた顔、まるで時が止まったかのように彼女はピタリと止まる。その間に夜名津は掴まれた胸元の手を離して距離を取る。

「色々とあったんですよ。あれから何年経ったと思っているんですか。僕も人として色々と……退化したんですって」


 ……さっき『まるで』と言おうとしたのか?


 切利さんから続こうとした言葉は『ま』まで聞こえ、ニュウアンス的に「まるで」と続きそうなものだった。


 だがそれに続く言葉は夜名津から遮られた。


 その先の話をしたくないと言わんばかりにブッ、と切断したように。心なしかその言葉はいつにも増して冷たい声色のように思えた。


 夜名津の態度の悪さにまた切利さんが突っかかるのでは、と俺と榎先輩は危機感を覚えたが、冷たく一瞥する夜名津に圧されたように言葉に詰まったように「まあいい」と顔を背ける。


 二人の間にいたたまれない空気が一触即発の空気はまだあるため、俺と榎先輩が空気を呼んで二人の間に割って入る。俺は夜名津側、榎先輩は切利さん側に。


 落ち着け、落ち着いて、と俺と榎先輩がそれぞれ相手側を宥める。切利さんの方は「ああ」と冷静さを取り戻そうとする声を上げて、夜名津はスタスタと先へと進んでいく。


 ったく、世話が焼ける。


 そんな調子で俺達は神社の方へと戻ってくると、神社の方ではある人物と遭遇した。


「あれ? チヒロセンパイ?」

「りり?」


 りりだった。りりは神社の境内で何やらお参りでもしていたのか、山の方から降りて来た俺達とバッタリと遭遇する。


 速足でりりはこちらへとやってきては興味深そうに俺達四人を見比べては俺だけを引っ張ってきて屈ませて耳元で囁いてくる。


「まさか、ダブルデートですか? やりますね、このこの」

「違う!」


 何を思ってそう判断したのか、的外れなことを告げてくる。相変わらず、俺が榎先輩の事を惚れていると勘違いしている様子だ。


 否定するものの、またまた、照れない照れない、といやらしい笑みを浮かべて俺をかいくぐっては切利さんの方へと向かってくる。


「初めまして、私、言乍りりといいます」

「叶切利だ」


 挨拶し合わすとまた俺の方へと戻ってきた小声で言ってくる。


「設楽先輩とはまた違ったクールビューティーな人ですね。設楽先輩は沈着冷静の頭脳派に対して、こっちはクールな運動部的なボーイッシュさのある、女の子から隠れファンがいるような感じ」

「言わんとすることは分かるが」

「(昔から真面目だけど話を聞かない勘違い馬鹿なんだけどな)」


 りりの言い分自体には理解できる。修行を付けてもらっている身として所作や動作といったものが所々で武道の人なんだ、って感想は俺も抱いていた。


 りりは夜名津の方へと顔を向けては好奇心から訊ねてみる。


「先輩の彼女さんですか?」

「それを彼女の前では絶対に言うな、殺されるぞ」


 マジトーンで言ってくる夜名津。ぶっちゃっけさっきのやり取りを見ているため、これが冗談半分の脅しではないことは明白だ。だけどそのやり取りを知らないりりは「またまた先輩の方も照れちゃって」と懐に潜り込んでくる愛嬌の良さで夜名津をからかってくる。


 その馴れ馴れしい態度にいつもの無表情で返してきて、最初は笑っていたりりも途中から「ははは……、なんか……すいません」と謝罪しては夜名津から距離を取る。後輩相手なんだから少しは勘弁してやれよ。


 微妙な空気を察しては俺はりりに話題を振り直す。


「ところでお前はなんで神社に? 榎先輩になんか用か?」

「いえいえ、私はただの神様への御祈りですよ」

「おいのり?」

「ええ、入院している学校の皆が早く元気になりますように、って」

「…………」


 りりの言葉にここにいた全員が少しだけ強張った。山から下降して流れてくるほんのり涼しい風が俺達の顔に暑さ以外の理由で滴った汗を飛ばす。


「なんでこんなことになっちゃったんでしょうね……」


 りりは遠い目を見るような悲し気な声色で告げる。彼女の傷ついたような言葉に俺や榎先輩は思わず目を伏せてしまう。事情を知っている俺達。何も知らない一般人のりりにとっては今回の事件は衝撃的なことだったんだろう。いつも人の事を思って行動しているりりにとって、謎の現象によって学校の皆が倒れ、またその犯人が顔見知りである吉成君も関係していると噂も聞いていたのだとするならば今の彼女の心境は大きく揺れ動いているのだろう。


 何と声をかけるべきかと考えていると途端に、落ち込むの終了! と声を大にして彼女はこちらへと笑顔を振ってくる。


「無事だった私達が落ち込んでいてもしょうがないですからね。皆元気になるよう神様に御祈りをしましたし、元気な身の私達まで変に落ち込んでいても学校の皆早く元気になるわけないですからね。なら、こっちも明るく元気に、皆が帰ってくるのを待ちましょう、ね!」


 と、りりは告げてくる。空気を察してからわざと空元気に振る舞い、俺達を元気付けようとしてくれる。


 相変わらずお人好しな奴だ。伊達に『人の為に生きる、あなたのための言乍りり』って謎のキャッチコピーを持っている奴じゃない。


「ええ、そうね。貴方の言うとおり。きっとあなたの願いも叶うと思うわ。ウチの神社が祀る神様は人々の平和を祀る守護神様ですもの」


 榎先輩がりりの言葉に深く頷きながら優しく諭すような微笑みで返す。


 りりもその言葉に満足したようにそうですね、と頷いてまた俺の方へと近づいてくる。


「チヒロセンパイも気を付けてくださいね。なんか最近町が物騒って話ですし。デートもいいですけど」

「……ああ。っつーかそれはお前もだろうが」


 何故か一瞬だけきょとんとした顔、動揺したような反応をするりりだったがすぐに笑って言ってくる。


「ハハハ、大丈夫ですよ。私は元気だけが取り柄ですから」


 そう明るく語ってくるりり。


「それではそれでは。お馬さんに蹴られないように退散しますね。恋愛のキューピットこと人の為に生きる、あなたのための言乍りり退散でーす」


 といつものキャッチフレーズと決めポーズを決めては去っていく。


 ふと、夜名津が俺の隣へと立っては感慨深そうな顔をしてはりりの背中を見送っては完全に見えなくなってから言ってくる。


「……やっぱキャラの濃さを出すためには決め台詞は必要だね。君の決め台詞考えて来たんだけど聞くかい?」

「だから刀語のノルマはいらねえんだよ!」


 どんだけ決め台詞を決めたいんだよコイツは。俺のキャラが薄いって言いたいのか! ノッポの無刀流の剣士が口から刀を出す忍者に劣るレベルで俺のキャラが薄いって言いたいのか!


 ……ちょっと弱いかな。


 何気に血鬼ってキャラが少し立っていたしな、アイツ。『ばんぱいや』とか言っちゃうあざとさと自分が海外産まれだと主張してくるボケっぷりにキャラが立っていたからな。血鬼じゃなくても大青鬼も鬼のような凶暴性と同時に武人っぽさもあっていいキャラしていたからな。


 ……アレ、俺って鬼に戦いで勝ってもキャラとしては負けてる?


 いや、そんなことないだろう、と首を振っているといつの間にか離れていた夜名津から俺達全員に手を上げて言ってくる。


「すいません、急用ができたんで帰っていいですか?」


 何かしらの連絡があったのか、スマホを握っていた夜名津が帰宅していいかの許可を求めてくる。一応ここはリーダーであり、一部始終を仕切っている榎先輩を見ると、時間を確かめたのか、スマホを見ては頷く。


「ええ、分かっ―――」

「急用とはなんだ?」


 了承する榎先輩の言葉に遮って切利さんが切り出してくる。夜名津へと向ける瞳は疑っているそれだ。


 対して夜名津は少し何か言いたげな間を持たせながらも応える。


「……知り合いの子から相談事があるって」

「本当か?」


 疑いを覚える切利さんのぞんざいの言い方に一度は耐えたものの、二度目は多少不快感を覚えたのか少しだけ目を細めては、ん、と持っていたスマホの中身をみせてくる。


『今日会える?』『ちょっと相談事があるんだけど』


 と今日の日付で数十分前に送られたラインメッセがあった。ちなみに、前のラインが夜名津の長文メッセに対して相手側は『そうだね』と乾いた反応っぽい感じだ。……俺がコイツとのラインのやり取りする時と全く同じ反応だ。


「いいだろう、分かった」


 ラインの内容を確認すると、渋々と言った調子で納得する。……どんだけ夜名津の事信用していないんだこの人。


 根深いとは思っていたが、行動を一々警戒されて怪しまれるって相当だぞ。


 そんな感じに本日は解散となった。


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