VS多鬼 其の参
霊力の修行基礎の一。瞑想。魂に存在する霊力を自覚し、存在を把握する技術。これができなければ何も始まらない。
座禅を組んで、目を瞑り精神統一をして自身の奥底の魂の存在を把握するのが僕の最初の修行である。
「…………Zzzz~~~」
「寝ない!」
「あうふ!?」
思いっきり竹刀で頭を叩かれた。打たれた箇所をさすりながらぶった相手を見る。先輩は竹刀を地面に突き刺すようにしながら仁王立ちで僕へと説教してくる。
「全然霊力が練れてない! 本気で練ろうとしているの? 寝ているだけじゃない!」
「あの~、座禅崩していいですか?」
座ったまま目を瞑るとどうしてもそのまま寝ってしまう気分になってしまう。授業中もよく舟をこがずに座った態勢を維持して眠ってしまうほどの僕だ。これなら立った姿勢でやった方が集中できる。
許して得て僕は足を広げて相撲取りがしこを踏むような姿勢となって、もう一度目を瞑って自身の魂、霊力とやらを呼び覚ます。
「Zzzz~~~」
「だから寝ない!」
もう一度竹刀でぶたれた。
クソ、どこでもどんな態勢で寝れる体質がこんなところで仇になるとは! ……のび太君か僕は。
「他になんかないんですか? 霊力を感知する修行法って」
僕向きではないと思い、他に方法がないのかと訊ねてみる。先輩は少し考えるようにするが首を振って、いやこれはない、と言わんばかりの調子で言ってくる。
「死の体験を受ければ、それによって霊力一時的に感じるようになるわ。現にあなたはあの戦いで死にかかったからこそ自ら巫力を引き出したんだし」
「あ、それやりましょう、うん。身体で覚えるってやつだ。はい、どうぞ」
「………………この案はなしにしましょう。危険すぎる」
僕が両手を広げて無抵抗のポーズを取ると何故か先輩はものすごく引いたような、気味の悪いもの見たと言わんばかり表情となって顔を逸らして提案を却下された。ああ、そっか、巫女だから人が死ぬ系の話はダメなんだろうな、倫理的な意味で。
まあ正直、僕って身体で覚えるってタイプでもないし、頭で理解して覚えるタイプでもない。どっちかというトラウマを刻み込んでその恐怖心で時間をかけて泣きながらようやくできるようになるタイプだし。
……子供時代はホント、つらかったな~。六日と八日、二十日の読みがどれがどれだかわかんなくて、『ろくにち』『はちにち』『にじゅうにち』って言って担任と母親からめっちゃ怒られた記憶がある。
同じもので47都道府県全部覚えられなくて……今でも全部言えない。九九と寿限無、徒然草は覚えたのに。あ、いや、徒然草は祇園精舎と一緒で担任に頭を打たれながら泣いて覚えたわ。スラっと覚えたのは九九と寿限無だけ。
『なんでこれくらいできないの!? 覚えるだけでしょ? 簡単でしょ?』
『皆できているよ! 君だけだよ! なに、わざと先生を困らせているんでしょ? そういうことばっかりしているからロクな大人になれないわよ! ダメ人間よ、ダメ人間!! そう、君はもうダメ人間なのよ!! 分かる!? ……なに、その反抗的な目は!? 先生バカにしてるの!!』
『我一、なんでお前はできないの! これくらいできないと、「あそこの子は父親がいないからできない」って思われるのよ! ちゃんとしなさい!』
『もうお母さんは悲しい、お前が普通の子にできることをお前にできないはずないのに、……なに、お母さんを困らせて楽しいの!?』
「……うまれきてごめんなさい」
「はい?」
「何でもないです、ハイ、真面目にやります。すいません。はい。ごめんなさい、許してください。もう二度としません。できるようになりますから。はい」
「……別にそこまでへこまなくても………」
少しトラウマで頭と心に浸食されて思わず、メンタルが最悪の時に出る言葉を口にしてしまう。それを誤魔化しつつもう一度霊力を感じようと瞑想に入るのだが。それに待ったをかけられた。
「いいわ。とりあえず、もう一度最初から」
と、先輩は掌を広げて僕へと向けてくる。僕はそれに手を合わせる。
先輩は霊力を込めているらしく、それを僕の手に合わせることで霊力の存在を僕の身体に認知させることが狙いらしい。一番最初に座禅を組む前にもやらされた。
これはあくまでも霊力がどういう風なものなのか、感覚として掴む切っ掛けとしての手段だから自身の霊力を呼び覚まして、流すことにはならない。自転車の補助輪と一緒、いやこの場合は後ろを掴んでもらっている方か。どっちでもいいや。
触れ合う手と手。僕の手と同じくらいの大きさ。彼女が大きいのではない、僕の方が平均より短いのだ。
合わさる手の平から何となく感じられるチカラの存在感。まるで大地に触れたような感覚。緩やかに太陽の熱を浴び、流れる空気を吸い、生きとし生ける者に生命のチカラを与えるような、自然のチカラといっていいそれが僕の掌から流れて体内に広がっていく。
「(お?)」
そして、ふと自分の中に何かを感じられた。大地のチカラではない。それは……なんというか金のチカラ? 宝石のような価値のある輝きとそれによって何か狂わせるような悍ましき何か。それがモゾッ、とまるで布団から起き上がるような起伏を覚える。
いつの間にか掌を引き離して、それに対して意識を強く持つ。
僕はそれを逃がさないようにして、それが全身に巡っていくようにして水の流れを……いや血液の流れをイメージしてそれが行くのを意識する。
そして!
「……この感覚!」
「ええ、できてないわ」
「………………………」
………………できていなかったらしい。顔を顰めてムッとなった表情で固まる僕。何か手に持っていたらそれを地面へと叩きつけていた所だった。
「一瞬だけ。ほんの一瞬だけ掴もうとして掴めなかったって感覚。力んだらダメなのよ」
フォローしてくれているのか、惜しいという感じの言葉をかけてくれるが、最初に「できていない」って言った以上本当にできていなかったんだろうなと思われる。
でも掴みかけていたこと自体は嘘ではないんだろう。今の感覚を忘れないようにもう一度意識を集中する。
「(前途多難ね。想像以上にこの子センスがないわ。ポテンシャルは秘めていてもそれを引き出せないなら意味がない。死の危機に直面すれば大抵はしばらく霊力を感じやすい体質になってしまう人が大半なのに、この子はそれが短いのかしら。本当に直前でしか霊力を維持できないタイプ)」
…………全然感じねえな。なんだろう、穴を掘っていて地面の感覚から宝物を掘り出したと思ったらそれはビール瓶だったみたいなあの感覚をもう一度! ……なんで地面にビール瓶が埋まっていたんだろう? 昔『宝探し』って言って近くの森だか山の地面を掘っていたら何故かビール瓶が出てきた時本当に意味が分からなかった。
どうでもいい昔のことを思い出しつつ、集中する。
「(でも私の霊力に対して反応した感覚、そしてこの子の性格から考えて恐らくはこの子は『金行』ね。珍しいわ)」
なんだろう、大地にチカラ巡っていくっていう直感がおかしかったのかな? よし、じゃあ、漫画でよくある水が流れる感覚でもう一度意識をしてみようか。うん。漫画におけるこの手の解説の際に水に例えられた解説や説明は万能だからだ。
うん、実際味わった僕の大地のチカラが流れる感覚は間違っているのはあり得る話だ。だって僕の感性だし。ここは百人中九十九人が分かりやすい例えでやってみるのがいいだろう。皆ができる事なんだから僕にだって億が一の、いや兆が一の、那由多の可能性があるはずだ。たぶん、おそらく、メイビー。
集中する僕。そして再び竹刀の一撃が放たれる。それはただ力んでいるだけ、と注意される。
ふぅー、と出来の悪い生徒と言わんばかりため息を吐かれて、それに僕は傷つき、真面目にもう一度集中しようとすると、突然思い出したように話を振ってくる。
「そういえばりっちゃんとは知り合いなの?」
「……りっちゃんって誰ですか?」
いきなり知らない名前が出てきて首を傾げる。りっちゃん言われても、思いつくのはけいおんのりっちゃんくらいだ。僕、むぎちゃん派なのに。……嘘だよ、ほんとはあの作品のキャラをそういう目で見たことはない。日常系作品には基本嫁はいない。作品としては好きだけど。
とバカなこと考えていると、先輩は一瞬だけ呆れたような顔をしては誰の事なのか教えてくる。
「切利よ、叶切利。切利だからりっちゃん。私が設楽だから。字は違うけど頭が『せつ』だから下をとって、りっちゃんとらっちゃんってあだ名なのよ」
いやそれ言ってんのアンタだけならそりゃあ、僕知らないよ。そんな不満そうな顔されても困る。僕の中では彼女『切利ちゃん』だから。僕の地元で彼女を知っている連中はそう言っているから。そっちのあだ名で通っているみたい空気を出されてもこっちが困る。
理不尽に思うものの相手が切利ちゃんだと理解して、少しだけ間をおいて言葉を選びながら答えることにする。
「ああ、彼女とは知り合い……昔の、ま、喧嘩友達みたいな?」
「ケンカ、友達? (そういえば昔年下のムカつく子がいるとかどうの言っていたような)」
喧嘩友達。いや友達ではなかったかもしれない。彼女にとって僕は天敵で嫌われた存在なんだろう。
子供の頃は、僕がまだ世間知らずの悪ガキだった『黒歴史』とも呼べるあの頃。
……あとでちゃんと昔の事謝っとかないとな。
その切利ちゃんことりっちゃんは雨崎君を連れてどこかへと行ってしまった。どうやら裏山の方で修行を付けてくれるみたいだけど。
× × ×
彼女、叶切利さんは語り始める。
「血統者とは言ってみれば異能遣いの侍のことだ」
「まず血統者には普通の人間が持つ、血液とは別に〝血縢〟と呼ばれている血が存在する。これは普通の動脈などには回らない。血統者のみに存在する『血継路』と呼ばれている器官でしか流れない」
「血統者は血縢を血継路に回すことで初めてチカラが発揮する。『循環』『形成』『万象』の三段階にチカラが発揮される」
「まず第一の『循環』。正式名称を『血功循環』これは単純に身体能力向上、霊術の基礎『力道』と同じだな。ま、あっちは段階的な技があるが、……あ、知らないのか。ならいい。血縢を血継路に回すことで身体能力何倍にも強化させる代物だ。ついでに自己治癒力も強化される」
「次に、『形成』。正式名称を『血器形成』。これは血縢を体外へと出して自身だけの武器を具現化させる。簡単に言って専用武器を作り出すチカラ。血統者は自身の武器を己が血から創り出すんだ。本来なら日本だけで採取できる凝血玉鋼によって血器を打つ『錬成』が正式なのだが、現代では資源不足によってその鋼は取れずに自らの血で創り上げる」
「次に、『万象』正式名称を『血華万象』。これが血統者としての本当のチカラ。血器を使い、異能のチカラを発揮させる。血統者は一族によって異能の系統が存在する。例えば火の異能の血統家では必ず火を使う血統者になるということだ」
「お前の場合は雨、風、雷の三種のチカラを使うようだが。かつてお前と同じように天気を司る血統者の一族の『唯雲』家と呼ばれる一族があった。榎家ができる前にこの地を守護していた二家の内の一つである『守護血継武家』という役目があったそうだ」
「血統者とは完全な血統一族。つまり血統者は霊能力のような後天的な覚醒、つまりは後付けで発揮することはなく、生まれた時からその才能を秘めている。その肉体に血縢を以って生まれたのだ」
「どういう理屈かは知らないが、お前は自身の識神……仕鬼祇といったか? それとの契約によって『循環』は起こり、『形成』の代わりに鬼自身が刀となることでお前は『万象』が使うことができ、血統者として才が発揮できているようだが」
「―――あまりに弱いぞ。お前」
一方的に解説する叶切利さん。地面に倒れ伏せる俺はそれを聞くことしかできない。
修行を付けてくれるという話で、裏山に連れてこられてはいきなり実力をみたいと言われたのでそのまんまバトル展開になった。
最初は女の子だからって手加減していたんだが、甘かった。即、血鬼よりも格上だと認識を改めさせることとなった。風を、雨を、そして人相手には威力が強すぎるから使わないと決めていた雷すら挑発され、使用したがあっさりと躱されてフルボッコにされた。
なんだ、この人。滅茶苦茶強い。
榎先輩から指摘された体力面に気を使えば、天鬼のチカラならば大抵の相手とは十分に渡り合えると考えていたんだが、そんなことはなかった。
まるで赤子の手を捻るように容易く、俺の攻撃を躱して潜り抜けて反撃を貰う羽目になった。
単純な実力差で違う。実戦経験といえばいいのか。
血鬼との戦いがどれだけ運よく勝ちを得て、その上の闘い方が遊びでしかなかったのか、身を沁みて分かった。
体に鞭を撃つようにして俺は起き上がる。その様子を見て「根性だけはあるな、いいぞ嫌いじゃない」と楽しそうにして皮肉気に褒めてくれる。
話はまだ終わっていない、楽な姿勢でそのまま聞け、と告げられて、俺は座ったまま話の続きに耳を傾ける。
「言っておくが、血統者は修行しても強くなれない。いやより正確には剣術や格闘技といった基礎的なものはその身に着ければ強くなれるが、それはあくまでも人として技術という話だ。血統者として強くなるためにはひたすら己の血器に血を味わせなければ強くなれない。
―――戦えば戦うほど、殺せば殺すほど、血を浴びれば浴びるほど、強くなっていく。それが血統者だ」
「伝奇系の漫画みたいな設定ですね」
少しだけ回復した口で軽口を叩いてみると、鼻で笑ってそうだなと頷く。
戦えば戦うほど、殺せば殺すほど、血を浴びれば浴びるほど強くなる異能者、それが血統者か。
そういえば、この間の闘いで血鬼との戦った際に俺の血を吸ったことで何故か動きが狂った血鬼。その隙に最後の一撃として繰り出した《疾風迅》で貫いた時、あの時は何故かほんの少しだけ体力が回復したっけな。
アレはもしかしたら血を味わったことで回復、いや俺が一段階強くなったってことだったのだろうか?
そのことについて訊ねてみると、それ自体は当たりだったようで「そうだ」と強く頷かれた。
「血を浴びれば浴びるほどチカラが増す。どのくらいかは知らないが、突き刺したんだろ? ならば相手から血を得たことでお前の刀は力を増し、お前自身も多少回復したのだろう。私にも経験がある」
ゲームはするか? と訊ねられて、俺はまあ一応と頷く。といっても俺は殆どゲームをしない。親が厳しかったから、友達ン家でやるか実況を見る程度だ。やり始めたのは割と最近、スイッチでゼルダを始めたくらいだ。
「体力とスタミナの違いだな。普通の体内に流れる血が体力や生命力ならば、血縢は異能のためのスタミナやMPといったところだ。スタミナが切れれば一時的に回復するための時間を猶予が必要だが、体力は完全に切れれば死ぬだろう? それと同じ。血縢は無くなっても時間が経てば回復してまた使えるようになるが、血は完全に無くなれば死ぬ」
そう言われれば大青鬼の時も倒した後にぶっ倒れたけど次の日になったら普通に元気になっていたし、血鬼の闘いの後もそうだ。一晩寝れば元通り。
てっきり榎先輩が傷を治癒してくれたからと思ったけど、そういう理由だったのか。体力とスタミナの違い、血と血縢の違いねえ。
「そういえば、俺が戦った奴って俺の血を吸血鬼みたく吸ったんですけど、なんか不味かった反応されたんですけど?」
「ああ、血統者の血、血縢は濃度が非常に濃いんだ。普通の人間が点滴や輸血とかならば普通に血管に流れる血の方を採取されるから問題ないんだが、鬼が牙で深くに貫かれた際に血縢まで血を吸い取ったんだろう」
「……なるほど」
「血を吸うタイプの怪異類には私達の血は毒だ。人間にだってトマトやアーモンドといったもの含まれている成分を大量に摂取し過ぎると死ぬって話があるだろ? それと一緒だ。奴らにとっては健康に害するほどの毒になるんだ」
濃度が強すぎるがための毒ね。確かトマトはグリコアルカロイド、アーモンドがシアン化合物だったか。普通に食事する分には問題ないが食べ過ぎれば死ぬってことをテレビとかで観たことがある。
他に質問はないか? と訊ねてくるのに対して、少し考えてみる。まあ血統者については大体わかった。一先ず今のところ俺の方に疑問はない。だけど、身体の方がまだ回復しきってない。今、もう大丈夫ですといったら普通に「じゃあ、続きをやるぞ」ってな空気になりかねない。
何かないか? もう少し、せめてあと五分ほど休めるくらいの話題が。
と、そこであること思いついた。闘いが始まる前の、彼女がやってきた時の夜名津にしてみせたあの反応について。
「そういえば夜名津と知り合いっぽかったですけど」
何気なく夜名津について訊ねてみることにする。アイツの知り合いとは珍しい。一応学校にも同じ中学から来た奴とかがいるが、こういう意味ありげな年上の異性としてどういう関係だったのか少し気になる。
すると彼女は突如として苦虫を嚙み潰したような心底嫌そうな顔になっては、悩んだようにして告げる。
「ああ、我一か。アイツは……まあ、一言でいえば敵だな」
「…………」
敵って…………。そして今の顔………。
どうやら夜名津の事は相当嫌いらしい。アイツと同じ中学の奴の時もそうだが、アイツってなんでこんな露骨に嫌われているんだろう。
なんかアイツと同じ中学の奴に聞いた話によると中学まで相当な悪ガキだったって感じの話だが、学校の窓を破ったとか、来賓客の持ってきた機材を壊したとか、教師との仲が悪くて殴って喧嘩したとか何とか、相当なトラブルメーカー。
どこまで本当か分からないけど、でもアイツ、たまにただならぬ雰囲気を放つ時あるし。ただの根暗なヤツなんだけど無駄に行動力ある時があるからな。大人しいヤツがキレたらヤバいの典型か?
いや、なんだかんだでいい部分もあるよ。友達思いではあるし、面白いアニメと漫画を教えてくれたり貸してくれたりするし。いいヤツではあるよ。うん、根本的に変な奴ってだけで。
「できることなら今すぐ切り殺してやりたいほどだ」
「…………」
……アイツ、本当に一体何をしたんだろう? 初チューでも奪ったんかな?
ギロリと夜名津への殺意なのだろう、それを俺へと向けてきては訊ねてくる。
「お前は……アイツの友達なのか?」
「ええ、まあ。中学の頃とか知りませんし、俺ン中でも相当変な奴ですけど、いいヤツでもあります。……まあ相当ヤバい奴ですけど」
一応ヤツの味方しつつもできるだけ、彼女に寄り添うに言葉を選ぶ。夜名津、お前の友達ではあるけど、お前の昔の犯罪の片棒を担ぐ気はないからな。お前が悪いことしたら普通に俺はお前を悪いっていうからな。
「見る目がない、友達はちゃんと選べ」
自分の身を護るため正論且つちょっとした裏切りをしていると、物凄く真面目かつ若干怒ったようなどこか心配したような表情で真っ直ぐと告げられる。その言葉に「え、ええ」と曖昧に笑って誤魔化す。
「私もアイツの中学の頃は知らん。知っているのは転校する前の小学校の時だ」
え? そうなの。てっきり、俺や榎先輩と一緒で、中学くらいから交流したことのある関係性だと思っていた(その関係性も俺達とは違って険悪だと思われるが)。
小学校の頃ってアンタ……流石に……大人げないっていうか何というか。
その頃の夜名津についても知らないけど、子供の頃にあった悪ふざけくらいいい加減に水に流してやったらどうですか?
そう言いたかったが怖ったので黙っておく。口は災いの元、っと。
「これまで出会ってきた悪いヤツの中でアイツ以上に秩序を乱す奴はいなかった。正直、私はこの儀式においてヤツがただならぬ事を起こすのではないか、心配でたまらない」
「……それは何でも言い過ぎでは?」
いくら何でもアイツを悪者扱いし過ぎなのでは? と度の超えた毛嫌いっぷりに流石に困惑する。
過去の因縁って何があったんだろうか? と思っていると話は終わりだと、自身の血器を構え直して真剣な表情となって俺へと向けてくる。
「立て。とりあえず、今の私にできることはお前に剣術を叩き込むくらいだ。血統者として強くなりたいならば実践で鬼を殺し、それを操る人間を切り殺して血を浴びるしかないぞ」