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他の選手達と同じように、一成も飛び込み台に上がる。
上がった後、またプールの向こう側を見て・・・
飛び込みの態勢に・・・。
選手達の動きが、制止する・・・。
この時、時間は止まっている・・・。
選手達の時間は、止まっている・・・。
そして、動き出す・・・。
動き出す・・・。
スタートの合図とともに・・・。
プールの水の中に飛び込み、泳ぎ始める・・・。
泳ぎ始める・・・。
プールの水の中を・・・。
でも、一成は水の中だけじゃない・・・。
泳いでいる・・・。
人生のレーンを、泳いでいる・・・。
一成の競泳本格復帰の報道により、多くのアスリートやスポーツ団体、企業から、”一般社団法人KONDOアスリートサポート支援”に寄付がされている。
その寄付により、故障したアスリートをサポートする充実した環境が整えられ、“KONDO”の企業としての知名度もイメージも上がった。
そんな“KONDO”の社員として・・・
“KONDO”が再スタートさせたアスリートとして、一成が泳ぐ。
「速~・・・」
夏生さんに言われ、私も頷く。
「旦那、オリンピックいくね。」
「まだ・・・最後の瞬間まで。
泳ぎきるその瞬間まで、瞬き1回の世界の勝負だから。」
「世界で闘えるアスリートの奥さん、だね。
お腹、大丈夫?」
お腹をおさえている私に夏生さんが心配してくれている。
「大吉がすっごい蹴ってて・・・!」
「大吉?」
「男の子なの、一成のおじいちゃんと同じ名前にするって・・・。」
蹴って応援してくれているのか、一緒に泳いでくれているのか、大吉が私のお腹を蹴りまくっている。
痛いくらい蹴られるお腹をおさえながら、泳ぐ一成を見る・・・。
夏生さんには“最後の瞬間まで”と言ったけれど・・・
これは・・・
「行きますね、世界・・・。」
「だよね?
凄い旦那掴まえたね、旦那から?」
「そうなのかな・・・。
急にプロポーズをされたので、念の為2ヶ月間付き合って貰ったんです。」
急だった・・・。
私からしてみたら、凄い急だった。
だって、“お母さん”なんだと思っていたから・・・。
だから、いつも追い付かれて、追い抜かれていると思っていた。
でもそうじゃなくて・・・一成は、私を追い続けていた・・・。
そろそろ、一成がゴールをする・・・。
誰よりも速い一成が、ゴールをする・・・。
一成のおじいちゃん、天国から見ていますか・・・?
お酒を飲みながら、見ていますか・・・?
おじいちゃんにソックリの一成が、世界に行きます・・・。
蹴り続けている一成と私の赤ちゃんを、お腹の上から撫でる・・・。
「大吉、お父さん・・・1番速かったよ・・・。」
1着でゴールをして、普通はすぐにタイムを確認するのに・・・
一成はすぐに、私が座っている方を見た。
そんな一成に、私は笑い掛ける。
続いていく・・・。
人生は・・・。
人生は続いていく・・・。
急にプロポーズをされて、念の為付き合うのに付き合って貰った2ヶ月間・・・。
その先に、一成と私の続きがあるのかと思っていたら・・・
もう1つ・・・
大吉も、私達の人生のレーンに来てくれた・・・。
この子が自分のレーンで1人で泳ぐその時まで、このレーンで3人で泳いでいく・・・。
進もう・・・
先に・・・
進もう・・・
前に・・・
3人で、進んでいこう・・・。
「瑠美!!!速過ぎてまだ追い付けない!!!」
私が座る観客席の下から、一成が叫んだ。
あんなに速いのに、まだまだ追い付かないみたい。
end.........




