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そう思っていたのに・・・





「瑠美・・・」





半年後、瑠美は実家から引っ越してしまった。

暗いままの瑠美の部屋の窓を、今日も眺める。





入社をしてからまたスマホを契約した。

瑠美と繋がらないスマホを握り締めながら、今日も瑠美の部屋の暗い窓を眺める。





「一成・・・。」





お母さんが俺の部屋に入ってきた。





「夜ご飯、食べて・・・。」





瑠美が考えて作ってくれていた料理を、今日もお母さんが量を多めにして出してくれる。




それと・・・




「一成、牛乳飲んでみよう?」




牛乳も一口だけコップに入れてくれている。




「うん・・・」




そう返事をして、震える手で牛乳の入ったコップを持ち・・・口をつける。




コップに、口をつける・・・。




でも、どうしても飲めなかった・・・。




どうしても、飲めない・・・。




俺は、生きたい・・・。




俺は生きたいから・・・。




生きて、瑠美に追い付いて・・・




瑠美に“俺のお母さん”になってもらいたいから・・・。




追い付きたいと思えば思うほど、怖くなった・・・。




死んでしまうかもしれないのが、怖くなった・・・。





瑠美が引っ越してしまった・・・。





間に合わないかもしれない・・・。





俺が死んでしまうその瞬間、





瑠美は間に合わないかもしれない・・・。





それにまた、声が出なくて・・・





声が出なくて・・・





瑠美を呼べないかもしれない・・・。






瑠美・・・






なんで、引っ越したんだよ・・・。







“追い付けそうで追い付けない”・・・







瑠美はいつも、そうだから・・・







だから、必死になって追い続ける・・・。








でも、死んだら追い付けない・・・








俺は、生きたい・・・








俺は、生きたい・・・








生きて、瑠美に会いたい・・・。








会いたい・・・








会いたい・・・








瑠美・・・。















入社2年目 9月1日




「今日から一成じゃなくて“中田部長”って呼ばないとな!」




「一成でいいよ。」





サポート支援センターのみんなが、ニヤニヤ笑いながら俺に言ってくる。





9月1日付けで、俺はサポート支援部の部長になった。

副社長からは“部員を引っ張れ”という、会社の部署の“部長”というよりは、部活の“部長”のような言い方だった。





でも・・・





雇用契約書の覚書を見て、思う・・・。





これは、追い付いた・・・?





これは、追い付いたかも、しれない・・・。





雇用契約書に書かれた“部長”という文字、それに給与額も・・・。





何故か、凄い高くて・・・。





副社長に聞いたら、

“身体は出来上がった。それで心を整えてこい。”

そんな風に言われて・・・。





そんな風に言われて・・・。





これは、追い付いたのか・・・?






「中田部長、伊藤さん次いつだっけ?」






サポート支援センターの部員達が、俺に聞いてきた。






「9月3日の・・・3日の、木曜日ですね。」






9月3日・・・。

瑠美の誕生日まで、3ヶ月。

俺と瑠美の年齢が5歳差になるこの短い期間。





それに、木曜日で・・・。

俺は、木曜日が大好きだった。

瑠美と出会った木曜日が、大好きだった。






それに・・・






それに・・・








手に持った雇用契約書の覚書を見下ろす。

瑠美は社員の雇用契約書を作成していると言っていたから、俺のこの内容も知っているはずで。








俺が追い付いたと、分かってくれているかもしれない・・・。








「俺、伊藤さん・・・頑張ろうかな。」







小さく呟いたつもりだったけど、トレーニングルームにいたメディカルトレーナーや部員達が俺を見ている。





「一成か~・・・こういう奴に頑張られると、ズルイよな。」




「分かる、反則だと思う。」





部員達が冷ややかな目で俺を見てきて、思わず笑ってしまう。





「なんで?俺、二十歳にやっとなったし!

部長にもなったし、もう頑張ってもいいですよね?」




「頑張ってもいいけど、どうせダメだろ!

伊藤さん一成に全然興味ないみたいだし!」





そんな分かりきっていることを言われ、でもあまりにもハッキリ言われたから大笑いしてしまった。





「やる気出て来た!

俺、“瑠美たん”本気で頑張ることにした!!」




「“瑠美たん”・・・どっから出てきた!?」





メディカルトレーナーや部員達が盛り上がりながら笑う中、よくみんなが言っている言葉を俺も口にする。











「“瑠美たん”のスーツの下、俺が絶対に見る!!!!」





そう、ここでは宣言した。
















「“瑠美たん”!!!」




9月3日の木曜日、サポート支援センターの廊下を歩いている時、後ろから叫ぶように呼び掛けた。




瑠美が俺を振り返り、驚いた顔をしている。

そんな瑠美に・・・かなり近付く。

瑠美が1歩も2歩も後ろに下がるから、それに合わせて俺もその分距離を詰める。




「あの・・・っ」




瑠美が慌てながら後ろに下がり・・・壁に背中がついた。

焦った顔をしていて可哀想でもあるけど、すぐ目の前に立って瑠美を見下ろす。




「“瑠美たん”、今日定時?」




「その予定ですけど・・・。」




「ご飯、食べに行こうよ。」




まだ外食なんて出来ないけど、他に誘えるような言葉が俺にはなかった。




瑠美が俯いていた顔を上げ・・・驚いた顔をしている。




そんな瑠美に、一応言っておく。




「外食まだ出来ないけど、こういうの言ってみたくて。」




「そうですか・・・。」




瑠美が、笑っていた。

可愛い顔で、俺を見上げ笑っていて・・・。




この1年半、仕事の話しか出来なかった。

瑠美はあまり目を合わせてくれなかったし、俺も・・・頑張ると決めていたから。




同じ会社に入れて、あとは二十歳になることと、瑠美に追い付くだけだと思ったから。

この約1年半は、頑張った。




生きる為に新しい食材は食べられなかったけど、それ以外は本当に頑張ってきた。




でも・・・




もう、二十歳で・・・




俺は、部長にもなって・・・




あとは、あとは・・・




瑠美に“男”として、好きになってもらうだけ。





そう、思っていて・・・。




でも、瑠美は・・・




「外食、早く出来るようになるといいですね。」




そう言って、俺があげたメガネの奥・・・その顔を悲しそうな顔にさせ笑う。




いつも、昔から・・・よくこの顔を瑠美はしていて・・・。




俺は、ゆっくりと手を伸ばし・・・




俺があげたメガネを、外した・・・。




瑠美の素顔を少しだけ見て、笑いながらまたメガネを戻した。






「“瑠美たん”、帰る時本社まで迎えに行くよ。」






そう言って、もう1歩瑠美に近付く。

驚いて見上げる瑠美の顔が、俺の顔のすぐ真下にある。






1度メガネを外して確認したから、よく分かる。

瑠美は・・・たぶん、“嬉しい”とは思ってくれている。






あと、少し・・・







あと、少し・・・








あと少しで・・・








きっと、追い付く・・・








きっと、追い付く・・・。

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