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自分の中で良いタイムではなかったけど、予選は通過したジュニアオリンピック。




朝・・・大会前は必ず家の前で見送ってくれる瑠美は、いなかった。




メッセージで、応援に来てほしいと朝も送った。

返信はなかった。

だから、応援に来ていないかもしれない。




ウォーミングアップ中も、瑠美のことしか考えられなかった。




だって、瑠美がいないから・・・




瑠美が消えてしまったから・・・




俺のレーンから・・・




俺のレーンで、俺の目の前で泳ぐ・・・




中学1年生の頃の瑠美が・・・




消えてしまったから・・・。









泳ぐ時、必ずあの時の瑠美が俺の前に現れる。

あの時・・・本当にビックリしたから。




追い付きそうなのに、追い付けなかった・・・。




あの時の感覚が・・・




プールの中に入ると全身が思い出す。




そして、いつも瑠美が現れる。




だから、俺は瑠美を追う・・・。




タイムなんて気にしていない。




隣のレーンなんて、気にしていない。




ただ、目の前に現れた瑠美を追っている。




追い付くように・・・




瑠美に、追い付くように・・・




早く・・・




速く・・・。










そう、思うのに・・・







瑠美に拒絶された日から、瑠美は消えてしまった・・・。






消えてしまった・・・。







プールの中だけでなく、消えてしまった・・・。






表彰台に上がっても、謝っても、許してくれなかったら、どうしよう・・・。







許してくれなかったら、どうしよう・・・







どうしよう・・・。








瑠美が、いなくなってしまう・・・。








俺の・・・“俺のお母さん”が・・・








俺の大好きな、瑠美が・・・








大好きな、“俺のお母さん”が・・・









いなくなって、しまう・・・。








苦しい・・・








苦しい・・・









窒息する・・・








深い・・・








ウォーミングアップのプールだから、足はつくはずなのに・・・







立ったはずなのに・・・








溺れる・・・。








溺れる・・・。








溺れる・・・。








窒息する程苦しい中、溺れる程苦しい中、プールサイドの床に仰向けにされたのは分かった・・・




大人達が焦った顔で、俺に何かを聞いている・・・




なんだ・・・?




なんだ・・・?




名前・・・?




名前・・・?




自分の名前を言おうとして、でも声が口から出ていかなかった・・・




息も上手く吸えないまま、自分の名前も言えないまま・・・




溺れる中・・・




見えた。




焦った顔の大人達が・・・




俺のスイムキャップのタグやゴーグルの裏を見ているのを・・・。





そうだ・・・





そこに、書いてある・・・。





瑠美が、書いてくれたから・・・。





よくプールやロッカーに忘れてしまう俺の為に、瑠美が名前を書いてくれていたから・・・。





ほぼ裸みたいな格好で泳ぐこのスポーツで、自分の名前も言えなくなり・・・





高校2年生にもなってそんな所に名前を書いてる奴なんて、俺だけだよ。





俺だけだよ・・・。





俺だけだよ・・・。





瑠美・・・





瑠美・・・





会いたい・・・。









応援に来ていたお母さんとお父さんが、ぼやけてくる視界の中に入ってきた。

2人とも焦った顔をしていて・・・この顔は、知っている。





じいちゃんが死んだ時だ・・・。





じいちゃんが死んだ時も、お母さんとお父さんはこんな顔をしていた・・・。






深く・・・






深く・・・






溺れていく中・・・






瑠美の顔を探す・・・。






天井の景色が変わる中、






瑠美の顔を何度も探す・・・。







お母さんに何度も「瑠美は?」と聞きたかったけど、声にならなかった。






俺は・・・






死ぬらしい・・・。






このまま窒息をして、死ぬらしい・・・。






瑠美に、会えないまま・・・






瑠美に、会えないまま・・・






瑠美の顔も見れないまま。






あんな変なことをしてごめんと、謝れないまま。






許してもらえないまま・・・。






“好き”と伝えられないまま・・・。






俺は、死んでいく・・・。






俺は、死んでいく・・・。







瑠美・・・








瑠美・・・








顔を、見せて・・・。








笑った顔を、見せて・・・。








最後に見たのは、窓の所で・・・








怒った顔だったから・・・。








いつもみたいに、可愛い顔で・・・








俺に、笑って・・・。








重くなっていく瞼を閉じる・・・。








じいちゃん・・・








俺、まだ未成年だから・・・








そっちに行っても、酒は飲めないよ・・・。


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