15
「あの人、誰?」
俺の家のダイニングテーブル・・・
たまに瑠美が座る席に、女子が座りながらミートソースのスパゲッティを食べている。
「“俺のお母さん”。」
「お母さんって?本当のじゃないでしょ?」
「本当に、する。」
不思議そうな顔を続ける女子を無視して、瑠美の料理を食べていく。
スパゲッティだけじゃなくて、サラダも、スープも、他にも何品も準備してくれている。
「こんなに食べられないんだけど。」
「俺が食べるから。
これくらい食べないと、泳げない。
もっと食べてもいいくらい。」
そう、言った時・・・
瑠美がリビングに入ってきて・・・
沢山のバナナと茹で卵を置いた。
そして、大きなマヨネーズも。
それを見ながら、笑ってしまった。
だって、完璧過ぎるから。
俺のことを、完璧に知り尽くしているから。
「本当に、一成君の“お母さん”なんですね。」
女子が瑠美にそう言って、瑠美が少し驚いた顔をした後・・・困ったように笑った。
「食器はこっちに置いて貰えれば大丈夫だから。
ゆっくりしてね・・・」
そう言った後・・・
「一成君、14時半には家出るんだよ?
忘れ物しないように。」
「分かってるって!」
瑠美を見ると、瑠美は・・・また悲しそうな顔で笑っていた。
*
俺の部屋の中・・・瑠美も入ったことのない俺の部屋の中、そこに女子がいる。
瑠美も入るリビングにいられるより、こっちの方がマシだった。
窓の端に立ち、瑠美の部屋の窓を見る。
瑠美は・・・いなかった。
スマホを確認しても、瑠美からの電話もメッセージもない。
「一成君・・・」
急に・・・女子が、俺に抱き付いてきて・・・
固まった・・・。
そういう感じのは、出来る気がしなくて・・・。
俺は、瑠美と・・・
瑠美と・・・
いつか、瑠美と・・・
出来ればと、思っていて・・・。
俺は、そう・・・思っていた。
瑠美は・・・?
瑠美は・・・?
瑠美の部屋の窓を見る・・・。
瑠美、こっちを見て・・・
俺を、見て・・・
俺、“付き合う”こと出来る・・・。
俺、“付き合う”こと出来るんだよ・・・。
もう高校生になったんだよ・・・。
“この子”って、何だよ・・・。
“この子”って、何だよ・・・。
俺だって・・・
俺だって・・・
“男”なんだよ・・・。
*
2人で裸になり、まあ・・・そういうことをした。
女子が準備万端で、避妊のも持っていたし、経験もあった女子に指導されながら、最後までしたけど。
ベッドに寝転がる女子をチラッと見て・・・
申し訳ないけど、何とも思わなかった。
同じ女の子の身体なのに、中学1年の時の瑠美の身体の方がずっと綺麗で・・・
ずっと、ずっと・・・
「まだ元気だね?もう1回する?」
女子にそう言われ、自分の下半身を見下ろす。
「時間ないから、シャワー浴びてきて。
1階降りて、勝手に探して勝手に使っていいから。」
女子が部屋を出たのを確認して、俺はすぐにスマホで瑠美に電話を掛けた。
『・・・もしもし。』
「瑠美、部屋?」
『うん・・・。』
「窓、立って。」
『彼女は・・・?』
「今いないから、早く。」
瑠美がいつものように窓の所に立ち、瑠美が見えた。
瑠美はスマホを耳に当て、驚いた顔で俺を見ている。
俺が、裸だから・・・。
俺の身長と窓の高さ的に、下半身のソコまで見えてる。
俺が“男”である1番の証で・・・“男”になっている状態でもある物を隠さず立っている。
驚いている瑠美に、言う。
「俺、あの女子と・・・そういうことした。」
『・・・そんな報告いらないよ。』
そう言いながらな、瑠美が窓からいなくなった。
「瑠美、俺・・・高校2年生になった。」
『・・・。』
「日本選手権で3位になった。」
『・・・。』
「女の子と付き合えるし、こういうことだって出来る。」
『・・・。』
「8月23日・・・俺の誕生日のジュニアオリンピックで、俺は1番高い表彰台に上がるから。」
『・・・。』
「そしたら、聞いてほしいことがある。」
『・・・。』
「応援、来て。
誰よりも速く泳ぐから。
誰よりも速く泳いで・・・瑠美に追い付くから。」
『もう・・・とっくに追い抜いてるのに・・・っ』
「まだだよ・・・。
でも、今回は追い付くから。
絶対、追い付くから・・・。
応援、来て?」
『・・・。』
「瑠美、頼むよ・・・応援来て。」
瑠美は、何も言ってくれない・・・。
それに、焦る・・・。
「瑠美・・・?」
『・・・。』
「瑠美、何か・・・言ってよ。」
『もう・・・電話、しないで。』
そう言って、電話が・・・切れた。
瑠美から、こんなことを言われたのは・・・初めてで。
スマホを耳に当てたまま、動けずにいた。
その後は・・・
ずっと、放心状態で・・・
何か、誰かに言われたような気はしたけど・・・
暗くなってからも、ずっと・・・
そのまま、瑠美の部屋の窓を見ていた・・・。
明かりのつくことがなかった、瑠美の部屋の窓を・・・。
*
「一成、どうした?
タイム・・・落ちすぎだろ。」
コーチが怒ったような顔で俺を見ている。
あの日、初めて練習に行かなかった。
行かなかったというか、動けなくなっていたから、練習のことなんて忘れていた。
あの日から、タイムが落ちていた。
「今日・・・残っていいですか?
ジュニアオリンピック、絶対に表彰台・・・上がりたいので。」
コーチが少し悩んでいる。
データを確認しながら、悩んでいる。
無理な練習の仕方も、身体を壊すから。
「お願いします!!!」
コーチに頭を下げると、渋々認めてくれた。
泳ぐしかなかった。
表彰台に、1番高い表彰台に上がって・・・
この前のことを謝るしかなかった。
あんな変なことをして・・・
あんな、変なモノを見せて・・・。
好きでもない男のなんて、気持ち悪かったと思う・・・。
あれから、ずっと無視をされている。
電話だけでなくメッセージも、家に行っても部屋に入ってしまって・・・。
ご飯も・・・作ってくれなくなった。
瑠美が、消えてしまった・・・。
瑠美が、消えてしまった・・・。
俺のレーンから、消えてしまった・・・。
消えてしまった・・・。




