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翌日の土曜日も高校で・・・。
ずっと、寝ていた。
俺は学校で基本的にずっと寝ている。
小学校でも中学校でも高校でも、俺は基本的にずっと寝ている。
選手コースの朝練が早朝からあり、学校が終わったらまたすぐに練習がある。
瑠美は中学までこの生活を続けていたけど、高校に入ると練習量も一気に増えて・・・学校後の練習に備え寝ていた。
高校側もそれを容認していた。
スポーツ推薦で水泳部のある高校に入り、水泳部に籍だけ置いている。
そうしないと、出場出来ない大会もあるから。
俺の活動場所は常に水泳スクールの選手コースで、学校には出席だけをしに来ていた。
水泳で結果を出せば、むしろそれを出さなければ学校にはいられない。
試験では名前だけ書き、0点だけ取らなければ進級も出来るし卒業も出来る。
水泳で結果を出せない方が、学校からの圧力は掛かってくるのだと思っている。
いつもだったらすぐに爆睡できている授業中も、今日は全く眠れなかった・・・。
何も、眠れなかった・・・。
何も眠れないまま、土曜日の午前中だけの授業が終わった。
授業が終わり、すぐにスマホを確認すると・・・瑠美からの返信が来ていた。
《うん、応援行くよ。》
と、返信があった。
8月23日のジュニアオリンピック・・・そこには応援に来てくれるらしい。
彼氏だか何だかは聞けなかったけど、瑠美の部屋に入って電気を消して“何か”をしていた男がいるけど、瑠美は応援に来てくれる。
そこしか、ない。
そこで表彰台に、1番高い表彰台に上がって・・・俺は、瑠美に告白をする。
その場で返事を貰えなくても、“男”として見てもらう。
“この子”と、瑠美は言ったから。
瑠美にとって俺は、“この子”だった。
俺は・・・“男”として見られてもいなかった・・・。
今日は土曜日だから、お昼を家で食べて、午後から練習が始まる。
その前に、瑠美の家に行こうか・・・それで部屋に・・・入れて貰いたいと、言ってみようか・・・。
そんなことを考えながら、高校の廊下を歩いていた。
その時、
「一成君!」
と、声を掛けられた・・・。
見てみると、女子だった。
見たことのあるような感じがするから、何度か話したことがあるのかもしれない。
でも、名前も思い出せない。
そんな女子から、言われた・・・。
「あの・・・私と、付き合ってください。」
何度か告白というのをされたことがあって、俺には瑠美しかいないから・・・断り続けていた。
今回も、断ろうとした・・・。
断ろうと、した・・・。
けど・・・
「いいよ。」
瑠美を思い浮かべたら、昨日男と並んでいた瑠美が出てきた。
俺のことを“この子”と言って・・・
俺からの電話を慌てたように切って・・・
その後に部屋の電気を消した・・・。
置いていかれた・・・。
俺は、瑠美に置いていかれてしまった・・・。
追い付かないと・・・。
早く・・・
速く・・・
追い付かないと・・・。
*
そのまま家についてきた女子を見て・・・家の前で苦笑いをする。
「俺、昼食べたら14時半には家出るから。」
「まだ時間あるじゃん、一緒にいようよ。
ここ、一成君の家なんだよね?
上がってもいい?」
それには、また苦笑いで。
「ここは俺の家じゃないから。」
「え・・・じゃあ、誰の家?」
「“俺のお母さん”の家。」
土曜日と日曜日のご飯は、だいたい瑠美が作ってくれていて、俺も妹も・・・お母さんもお父さんもこっちの家にいることが多い。
俺のお母さんが長期間入院している時、長い間瑠美の家にはお世話になっていたし、お互いの親もすぐに仲良くなったから。
「お母さんって?一成君の?」
女子が不思議そうな顔をして、俺を見ている。
それを無視して瑠美の家の門を開けた時・・・
「一成君・・・」
と、瑠美の声が・・・
俺の家の方から聞こえてきた。
「瑠美!ただいま!
なんで俺の家?」
「一成君のお母さんが、頂き物のクッキーあるからって言って、それ食べようって・・・取りに行ってて・・・。」
瑠美が途中から、俺の隣に立つ女子を見ながら説明した。
笑っているようで笑っていない瑠美を見ながら、俺はまた苦しくなってきた・・・。
「・・・お友達かな?」
「一成君の彼女ですけど・・・誰ですか?」
俺が答えるより早く、隣の女子が答えた。
瑠美は驚いた顔をしていたけど、すぐに・・・大人な笑顔になった。
瑠美が社会人になってから、たまにする顔だった。
「可愛い子だね。
じゃあ、一成君の家に2人分ご飯持っていくよ。
今日はミートソースだから多めに作ってあるから。」
瑠美が、そう言って・・・
そう言って・・・
なんでもない感じで、そう言って・・・。
俺は、苦しくなった・・・。
苦しくなった・・・。
息が、出来なくなる・・・。
窒息しそうになる・・・。
瑠美が、俺を見ることなく・・・
俺の横を通りすぎ・・・
門の中に・・・
門の中に・・・
入ろうとして・・・
咄嗟に、掴んだ・・・。
瑠美の半袖のシャツ、その腕の所を・・・
親指と人差し指で、掴んだ・・・。
瑠美は驚いて、俺を振り返った。
ゆっくりと視線を下に移し、掴んでいる俺の手を見下ろした・・・。
そして、悲しそうに・・・笑った。
「大きくなったね、一成君。
私より・・・小さな手だったのに。
いつも、追い抜かれちゃうね。」
メガネの奥、泣きそうな顔で笑って・・・俺を見上げ・・・
「凄い可愛い彼女だね。おめでとう。」
そう言いながら・・・
自分の指先で、少しだけ唇を触れながら・・・小さく、笑った。




