12
俺は、全速力で駅からの道を走った。
こんなに陸の上を全速力で走るのは久しぶりだった。
それくらい、全速力で走った。
あっという間に家に着いた。
あっという間に、家に・・・
瑠美の待つ、家に・・・。
大会の帰りは、必ず鍵を開けておいてくれる。
だから、全速力で走ったその勢いのまま、瑠美の家の扉を開けた。
「ただいま!!!瑠美!!!!」
靴をすぐに脱いで、リビングに向かう・・・
そしたら、リビングの扉から飛び出してきた・・・
瑠美が、飛び出してきて・・・
俺に、俺の胸に・・・
衝突するくらい強く、飛び込んできた。
「お帰りなさい!!一成君!!!」
背中に手は回さなかったけど、両手を俺の胸につき、キラキラさせた笑顔で笑いかけてくれた。
「表彰台!!本当に上がったね!!!」
「約束したから、瑠美と。」
「凄い!!凄いよ、一成君!!!
おめでとう!!!!」
瑠美と俺の妹が作ってくれたカツカレーを、みんなで食べる。
そして、瑠美のお兄ちゃんからはお祝いに・・・
「ちょっとくらい良いだろ!!」
と、ビールの入ったコップを渡され・・・。
「まだ未成年だよ!」
「一口くらい大丈夫だって!!」
「俺、酒は飲まないから。
生きてる間は、一滴も。」
瑠美のお兄ちゃんは酒豪で、しかも強い。
瑠美はそこまで飲んでいないけど、瑠美も一緒に飲んでいて・・・。
じいちゃんとの約束があるから、生きている間は俺は酒を飲まない。
いつか、天国で・・・
瑠美と一緒に酒を飲めればいいと、そう、思っていた。
「今日、応援もカツカレーも、プリンもありがとう。」
『一成君が頑張ったんだよ。』
今日も部屋の窓の端に立って、向こうの部屋の窓から見える瑠美と電話をする。
これは、俺がスマホを持ち始めた中学1年生、瑠美が大学1年生の時からほぼ毎日のようにしている。
「瑠美・・・俺、高校2年になった。」
『うん、大きくなったね。』
「今日、日本選手権で3位にもなった。」
『うん、おめでとう。』
窓から見える瑠美を見ながら、今日も言う・・・。
「瑠美、早く彼氏作りなよ・・・。」
今日も、言う・・・。
弱い俺には、これが精一杯で・・・。
高校生になってから、毎日のようにこれを言っていて・・・。
俺と、付き合ってほしかった。
まだ高校生だけど、俺は大きいし・・・
速く泳げるし・・・
今日、日本選手権で3位になった・・・。
そろそろ、男として見てくれると、そう思っていた。
だって瑠美はいつも・・・俺を見る時は、誰にも見せたことのない可愛い顔をしているように思っていたから。
『そうだよね・・・。』
この話をすると、瑠美はいつも窓からいなくなってしまう。
だから・・・瑠美がどんな顔をしているのか見えない。
「瑠美は・・・どんな男が好きなの?」
『どうだろう・・・。』
「年上?同じ年?年下?
顔は・・・?身長とか、どんな男だといいの?」
『・・・。』
瑠美がいつものように無言になる。
いつも、これで終わってしまう。
何も聞けないまま、電話が切られてしまう。
『一成君は・・・?』
でも、今日は・・・初めて、続きがあった。
『一成君は、彼女は・・・?
学校でも、モテるでしょ。』
「告白とかは・・・される。」
『そうだろうね。』
「だから、瑠美も早く彼氏作りなよ・・・。」
『・・・。』
瑠美が何も言わなくなった・・・。
「瑠美・・・何か、言ってよ。
俺・・・彼女出来て、瑠美はいい?」
『・・・。』
「瑠美、顔・・・見せて?」
『・・・。』
「瑠美・・・早く、彼氏作りなよ・・・。」
苦しくなりながらも、また・・・言う。
『そうだよね・・・。
今日は、もう寝ようかな・・・。
お休みなさい。』
「うん・・・お休み。」
瑠美の部屋のカーテンが閉められ、すぐに電気が消された。
真っ暗になった瑠美の部屋の窓を見る。
もっと、ハッキリと伝えたいけど・・・
怖かった・・・。
怖かった・・・。
俺の心は、弱いから・・・。
でも・・・
部屋の中にあるカレンダーを捲る。
8月23日、俺は17歳になる。
じいちゃんとばあちゃんが出会って、付き合い初めた歳。
じいちゃんとばあちゃんも6歳差だった。
それに、この日は・・・
ジュニアオリンピックの日・・・。
ここで、俺は1番高い表彰台に上がる・・・。
そしたら、その時は・・・
その時は・・・
瑠美に、告白をする・・・。
絶対に、する・・・。




