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瑠美は驚きながら、俺を振り向いた。




そんな瑠美を見て、泣きそうになった・・・。

苦しくなった・・・。

苦しくて、息が出来なくなる・・・。




俺は、弱いから・・・。

俺は、心が弱いから・・・。




でも・・・




でも・・・




伝えた・・・。





「すぐ、追い付くから・・・。」




「タイム?そうだね、すぐ追い付かれちゃう。」




「タイムもそうだし、全部。

足の大きさも、手の大きさも・・・。」





そう言って、俺は瑠美のTシャツの袖から手を放し、瑠美に手の平を見せるように広げた。





そしたら、瑠美が嬉しそうに笑って、右手をゆっくりとくっつけてくれた。

手がついた瞬間、なんだかまた泣きそうになった・・・。





「すぐ、追い付くから。

足の大きさも手の大きさも、身長も・・・。

俺もすぐ、中学3年生になるから。」




「中学、3年生か・・・。」





瑠美が少し悲しそうな顔で笑った。





「その時、私は21歳かな・・・。」




「21歳も、すぐ追い付くから。

すぐ、追い付くから・・・。」





合わせていた瑠美の手、その指の間に俺の指を入れ強く握った。






「すぐ、追い付くから・・・。」






瑠美を見ながら言うと、瑠美は悲しそうに笑ったまま・・・頷いた。







「先に、行ってるね・・・。」





「うん・・・。」











すぐ、追い付く・・・。

すぐ、追い付く・・・。




瑠美に伝えた通り、俺は瑠美の足の大きさにも手の大きさにもすぐに追い付いた。

タイムも追い付いたし、瑠美が中学3年生だった時にも追い付いた・・・。





でも・・・





瑠美は・・・。






「一成君、忘れ物ない?」





社会人1年目、23歳になる年になっていた。

俺は・・・まだ高校2年生になったばっかりで、誕生日もまだだから16歳。





「うん・・・。」




「持ち物に名前書いた?

一成君すぐに忘れたりしちゃうから。」




「いつの頃の話?」





高校2年生になっても、まだそんなことを心配されている。






「俺の水着とかスイムキャップ、あとゴーグルにも名前書くの止めてよ。」




「だって、一成君すぐに忘れちゃうから。

念の為書いておけば、何かあっても一成君のって分かるでしょ?」






俺達の家の前で、瑠美が俺を見上げ笑い掛けてくれる。






高校1年生で、瑠美は水泳スクールの選手コースを辞めた。

それから部活1本になったけど、瑠美は泳ぎ続けた。

応援に行く度、自己ベストを更新している瑠美を見て、“努力に勝る才能はない!”を体現しているような存在だと思っていた。






実際、選手コースを止める直前まで、コーチにお願いをしてもっと遅くまで泳いでいた。

それに俺も付き合い、同じレーンで一緒に泳いでいた。






そんな瑠美は、偏差値の高い大学にも入り、今は法律事務所で働いている。






風が少し拭き、瑠美の肩の下くらいまである髪の毛が、瑠美の唇に少しついた。




瑠美は気にしていないようだったけど、俺は瑠美の唇を見て・・・なんだか、泣きそうになった。




苦しくなった・・・。




苦しくて、窒息しそうになる・・・。




最近、瑠美を見ていると窒息しそうになる・・・。




泳いでいても苦しくなんてならないのに、苦しくて苦しくて、窒息しそうになる・・・。




瑠美の唇に、ゆっくり・・・




震える手を伸ばした・・・。




瑠美は驚いた顔をして、俺を見上げている・・・。




「髪の毛、ついてる・・・。」




「ありがとう・・・。」




瑠美は顔を真っ赤にして笑っていて、困ったように笑っていて・・・。




少し、泣きそうな顔をしている。

メガネの奥、瑠美はいつからかよく泣きそうな顔をするようになった・・・。




「表彰台、上がってくるから。」




「うん、応援に行く。」




「すぐ、瑠美に追い付くから。」




「もう、追い抜いてるのに・・・。」





瑠美の唇についた髪の毛を、ゆっくりととっていく。

初めて触れる瑠美の唇は、柔らかかった・・・。





「帰ったら、カツカレー食べたい。

あと、プリンと。」




「うん、作って待ってる。

みんなで食べよう。」




「瑠美も、もう少し食べた方がいいよ。」





元々食べる量の少なかった瑠美。

それでも中学の時は頑張って食べていた。

高校に入ってから、瑠美は食べる量が激減した。




水泳選手にしては細かった身体がもっと細くなり、今では・・・なんだか、綺麗なままで、とにかく綺麗なままで・・・。





俺には、水泳を辞めた瑠美の身体ももっと綺麗に見える・・・。





でも、食べる量があまりに少ないから、心配にもなっていた。

痩せすぎているわけではないし、筋肉も綺麗についているんだけど・・・

何故だか凄く不安にさせる。





昔のように、前髪が眉毛の所でパッツンになった瑠美、そこにメガネをかけていて・・・中学の時と同じような見た目に戻ったような気もする。





これも、高校で選手コースを辞めた時にこうなった。

それに、俺はどこか安心していた。

まだ、追い付ける・・・

まだ、俺は追い付ける・・・。





そう、何度も思えた・・・。





もう髪の毛なんてとっくに取れているのに、最後に瑠美の唇をもう1度触れた。





そして、そのまま瑠美に伝える・・・





「行ってきます、瑠美。」





そう言って、指先に瑠美の唇の感覚を残したまま、指を離した・・・。





ゆっくりと、瑠美に背中を向ける・・・





そうすると、いつものように瑠美が背中を少しだけ押してくれる・・・





「行ってらっしゃい、一成君。」





瑠美の手を背中に最後まで感じ、瑠美の声を背に歩き始める。





俺は、追い付く・・・。





瑠美に、追い付く・・・。





そして、“俺のお母さん”に・・・





なってもらう・・・。

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