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俺は、お腹が空いていた。
引っ越してからお腹が空かなくなっていたのに、死ぬほどお腹が空いていた。
「一成君、大盛り?」
「大盛り!!!」
プールから帰り、台所で瑠美の隣に立つ。
瑠美が白米を皿によそってくれるけど、そんな物じゃ全然足りなくて・・・
「もっと・・・?」
「俺、引っ越してくる前は丼で食べてて・・・その後に釜のご飯も釜ごとしゃもじで食べてたんだよね。」
驚かれたり、笑われたりするかと思ったら・・・瑠美は真剣な顔で俺を見た。
「大きくなるね・・・。
いっぱい食べな、身体が求めてるから。」
そんな、ことを言ってくれた・・・。
じいちゃんとばあちゃんだけが言ってくれたことを、言ってくれた。
それに、俺は笑って頷いた。
そして・・・
「こんな、夢みたいな食べ物・・・!!!」
目の前に出してもらったカツカレー、それも大盛り・・・山のようになっているカツカレーを見て、興奮していた。
それに、瑠美は面白そうに笑っていて・・・
プールに行く前より、よく笑うようになっていた。
出してくれたスプーンで、カツカレーを沢山すくい一口食べ・・・
「・・・うまっっ!!!!」
それだけしか言えず、一気に食べ進める。
途中で瑠美がコップギリギリに注いでくれた牛乳と、その隣に牛乳パックごと牛乳を出してくれた。
それも何杯も飲みながら、俺はカツカレーをあっという間に完食。
瑠美は笑いながら、また少しずつカツカレーを食べていて・・・。
立ち上がったと思ったら、冷蔵庫から何かを持ってきてくれた。
「今、ご飯また炊いてるから。
それまで、それ食べてて?」
そう言って出してくれたのは、プリンだった。
前の地域の店でも売っていた、メジャーなプリン。
甘いのはそこまで食べなかったけど・・・
「そのプリン、私好きなんだよね。」
そう言って笑う瑠美は、可愛かった。
少し前までは“お姉さん”としか見えなかったのに、凄い可愛いと思った・・・。
*
小学校3年生 夏
「一成!やっと選手コース来たな!」
初日の選手コースの練習が終わり、更衣室で先輩に話し掛けられた。
本当に、やっとで・・・。
翌日から、お父さんにお願いをして瑠美の通う水泳スクールに通わせてもらった。
俺は速いからすぐに選手コースというのになれるかと思ったら、そうではなかった。
俺の泳ぎを見た先生達から驚かれたけど・・・。
その後に先生達が集まり、何かを話し合っていた。
その時、選手コースで朝から泳いでいた瑠美が・・・
練習の途中なのにプールを上がって先生達の所に歩いていき・・・。
先生達と何かを話し、またプールに入っていった。
瑠美は、平泳ぎという泳ぎ方の選手だった。
水着姿の瑠美は、やっぱり誰よりも綺麗で・・・
誰よりも綺麗な平泳ぎというのをしていた。
そんなことを思っていたら、先生達が数人で来た。
そして、じいちゃんから教えてもらった泳ぎ方・・・クロールという泳ぎ方を凄い直された。
何度も何度も直された・・・。
じいちゃんを否定されているようでショックだった。
でも・・・選手コースで泳ぐ瑠美を見て、泳ごうと決めた。
俺は、追い付く。
俺は、瑠美に追い付く。
そしたら瑠美に、“俺のお母さん”になってもらうんだ。
普通コースの練習、俺だけ毎日通うようになり選手コースのみんなと同じ時間まで泳いだ。
帰り道、自転車に乗る瑠美の横に並び俺は走った。
俺のTシャツにも、背中に書かれていた。
瑠美の背中と同じ文字が。
“努力に勝る才能はない!”
と・・・。
「一成、どの泳ぎ方もすぐにマスターしてたのに、先生達やたらと泳ぎ方直してたよな?」
水泳を始めたばかりの頃を思い出していたら、先輩からまた話し掛けられた。
本当に、そうで・・・。
何でもすぐに泳げるようになったのに、先生達から凄い直されていた。
「もう3年生になっちゃったよ!」
「それでも大会で結果出しまくってるから、将来が怖いよなー。
俺、年齢近くなくてよかったよ。」
そう言いながら、先輩が・・・高校生の先輩が笑っている。
「そういえばさ、一成って“瑠美たん”と隣の家なんだろ?」
先輩が、急に・・・“瑠美たん”と、言った。
そしたら、周りで着替えていた他の先輩数人が、集まってきた。
「“瑠美たん”と一成、仲良いよな!?
普通コースにいた時から毎日“瑠美たん”と帰ってたし!」
「うん・・・。
“瑠美たん”って、なに?」
「誰だっけ?誰かが言い出してから、陰で“瑠美たん”になった!
本人には秘密だから、言うなよ!?」
「うん・・・。」
なんだか、凄くモヤモヤとした。
そしたら・・・
「“瑠美たん”の水着の下、見たことある!?」
そんなことを聞かれて・・・。
他の先輩達も大笑いしながら、それでも俺を見ていて・・・。
「うん・・・。」
と、答えてしまった。
そしたら凄い盛り上がって・・・。
色々と質問責めにされ、答えたことを後悔した。
「見たって言っても、小学校1年生の時に1回だけだから・・・。」
「それだと・・・“瑠美たん”中1か!
どんなだった!?」
「・・・1回見ただけだから。
水着に着替える時。」
「水着!?更衣室!?」
「うん、区民プールで。」
「それなら2回だろ!!
また服に着替える時、そっちでも見ただろ!?」
「・・・その時は、タオル巻きながら着替えてた。」
「ふーん・・・。
じゃあ、1回だとあんま見てない?
色とかは、色!!!」
先輩が大きな声で聞くと、他の先輩達がまた大声で笑い・・・まだ俺の方を見ている。
「色って?」
「こことかさ~!!」
と、言って・・・自分の両方の胸の乳首を触った。
それにまた先輩達が大笑いして・・・
「一成、顔赤っ!!
3年生だと、余裕でそういうの興味あるからな!!!」
そんな指摘をされ、恥ずかしくなった。
「で、何色だった!?」
「知らない、そこまで見てない!」
「絶対見てただろ~!!!」
先輩達が大笑いしながら、まだ“瑠美たん”の話を続けていた。
凄く、モヤモヤした。
凄く、凄く、モヤモヤした。
*
「一成君!赤信号!!!」
自転車に乗る瑠美の隣で、さっきの会話を思い出しながら走っていたら・・・赤信号を渡るところだった。
「珍しいね、疲れた?」
「疲れてない。」
そう答えながら、自転車に乗る瑠美を見る。
中学3年生になった瑠美。
7月の大会では今までで1番良い結果だった。
中学1年生の時は眉毛の所でパッツンだった前髪が、今では伸びて・・・耳くらいの長さになってオデコを出していた。
髪の毛も全体的に長くなって、黒い真っ直ぐの髪の毛が背中につきそうになっている。
その髪の毛がまだ濡れていて、夜の街のライトや車のライトで光っているように見える。
色白な瑠美の顔が、暗闇に浮かび上がる・・・。
白いTシャツは、中学1年生の時より・・・胸の所が膨らんでいるのに気付いた。
また、顔を見てみると・・・瑠美は可愛かった。
毎日可愛いなと思っていたけど、瑠美はやっぱり可愛かった。
「瑠美、最近メガネやめたよね。」
「うん・・・どう?」
瑠美が照れたように笑いながら、俺を見る。
その顔が、凄い可愛かった。
でも、何も言えなかった。
「俺は、メガネあった方がいい。」
「そうなんだ・・・。」
少し驚いた瑠美が、すぐに笑って頷いた。
「じゃあ、またメガネしようかな。」
「うん・・・。」
そう答えた時、赤信号から青信号に変わった。
瑠美が前を向き、また自転車を漕ごうとした・・・
瑠美の後ろ姿を見て・・・
咄嗟に、掴んだ・・・。
瑠美のTシャツの腕の所を、少しだけ・・・
少しだけ、親指と人差し指で、掴んだ・・・。




