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6

畳の部屋から出て、俺はお母さんに着せられた黒い服を見下ろす。




俺は身長も高いし、肉も結構ついている。

それでも、走るのは速いし泳ぐのだって速い。




お腹が空いて仕方ないんだ。

常にお腹が空いている。




“いっぱい食え。

食った分だけデカくなる。”




そんなことを言ってくれるのは、じいちゃんだけだった。

お母さんは食べ過ぎだと怒ったし、お父さんは食べ過ぎだと心配していた。




俺は、じいちゃんが好きだった・・・。




俺は、じいちゃんが大好きだったんだ・・・。




廊下を歩いていて、涙が流れた。

病院に着いてから1度も流れなかった涙が、流れた・・・。




じいちゃんは、みんなに嫌われていたかもしれない。

俺の大好きなじいちゃんは、みんなに嫌われていたかもしれない・・・。




俺の大好きじいちゃんが・・・




じいちゃんが大好きだと言っていたばあちゃんは・・・




ばあちゃんは、




ばあちゃんは、




じいちゃんのこと・・・




嫌いだったのかもしれない・・・。




そう、思ってしまった時・・・




「一成、おじいちゃんと遊んでくれてたんだって?」




ばあちゃんが笑いながら、俺に近付いてきた。

お盆にお酒やコップをのせていて、これから畳の部屋にまた向かうところだと思う。





「じいちゃんに、俺が遊んでもらってた。」




「そうなの?

おじいちゃんは、“一成に遊んで貰ってる”って喜んでたよ?」




「そうじゃないよ・・・。」





そう答えたら、ばあちゃんが笑った。





「一成はおじいちゃんにソックリだね?」




「それ、じいちゃんにも言われた。

じいちゃんにソックリなら、俺もじいちゃんみたいにみんなから悪口言われるのかな。」




「お酒飲まない時は良い人だったから、その分勿体無いって意味でしょ。

・・・そんなこと気にして、本当におじいちゃんソックリ。」




ばあちゃんが笑いながら俺を見下ろす、




「それにしても、本当に大きいね?」




「さっきオジサンにも言われた。

でも、これでも俺は走れるし泳げる、速く。」




「大吉さんから聞いてる。

しっかり食べなさい。身体が欲してるの。

身体が大きくなろうとしてるから、しっかり食べなさい。」




そんな・・・じいちゃんみたいなことを言ってくれた。




「大吉さん、また泳げたって喜んでた。

海でだけど、また泳げたって。

弱い人だから、1人だと泳げなかったの。

付き合ってくれてありがとう、一成。」




「じいちゃん、凄い速かった。」




「そうなの・・・。

おばあちゃんは見たことがないから。」




「人間じゃないみたいだった。」




「じゃあ・・・本気で泳いだんだ。

死ぬ気で、泳いだんだろうね。

泳ぎたいって、いつも言っていたから。」




「いつも?」




「お酒を飲むと、いつも言ってた。

泳ぎたいって、泳ぎたいって言いながら・・・泳いでた。」





ばあちゃんの言葉に、固まる・・・。





「暴れてるように見えたかもしれないけど、大吉さんは泳いでたつもりだったの。

私に・・・見せたかったんだって、格好良い姿。」




「そうだったんだ・・・。」




「“そしたら、俺のことまた好きになってくれるのに”って、いつも言ってた。」





意味が分からず、ばあちゃんを見る。





「何でか知らないけど、大吉さん・・・。

お酒で暴れるようになってから、私が大吉さんのこと好きじゃなくなったと思ってたみたいだね。」





そう言って笑いながら、俺を見下ろした。





「一成って、顔も大吉さんにソックリだよね。

6歳も下で格好良かったから、私の方がいつも他の女の子から酷いこと言われてたのに。

あんまり“好き”とか言わなかったからかな、不安にさせてたみたいだね。」




「最後も・・・言ってなかったよ?」




「そうだった、忘れてた。

まあ、すぐに追い付くから。

その時に、お酒飲みながら伝えるよ。」





そう言って笑うばあちゃんは、“強い”と思った・・・。





病室で見た時からずっと思っていたけど、ばあちゃんはやっぱり、強かった・・・。






肝っ玉とか、そういうのはよく分からないけど・・・






心が強い人だとは、分かった。

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