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畳の部屋から出て、俺はお母さんに着せられた黒い服を見下ろす。
俺は身長も高いし、肉も結構ついている。
それでも、走るのは速いし泳ぐのだって速い。
お腹が空いて仕方ないんだ。
常にお腹が空いている。
“いっぱい食え。
食った分だけデカくなる。”
そんなことを言ってくれるのは、じいちゃんだけだった。
お母さんは食べ過ぎだと怒ったし、お父さんは食べ過ぎだと心配していた。
俺は、じいちゃんが好きだった・・・。
俺は、じいちゃんが大好きだったんだ・・・。
廊下を歩いていて、涙が流れた。
病院に着いてから1度も流れなかった涙が、流れた・・・。
じいちゃんは、みんなに嫌われていたかもしれない。
俺の大好きなじいちゃんは、みんなに嫌われていたかもしれない・・・。
俺の大好きじいちゃんが・・・
じいちゃんが大好きだと言っていたばあちゃんは・・・
ばあちゃんは、
ばあちゃんは、
じいちゃんのこと・・・
嫌いだったのかもしれない・・・。
そう、思ってしまった時・・・
「一成、おじいちゃんと遊んでくれてたんだって?」
ばあちゃんが笑いながら、俺に近付いてきた。
お盆にお酒やコップをのせていて、これから畳の部屋にまた向かうところだと思う。
「じいちゃんに、俺が遊んでもらってた。」
「そうなの?
おじいちゃんは、“一成に遊んで貰ってる”って喜んでたよ?」
「そうじゃないよ・・・。」
そう答えたら、ばあちゃんが笑った。
「一成はおじいちゃんにソックリだね?」
「それ、じいちゃんにも言われた。
じいちゃんにソックリなら、俺もじいちゃんみたいにみんなから悪口言われるのかな。」
「お酒飲まない時は良い人だったから、その分勿体無いって意味でしょ。
・・・そんなこと気にして、本当におじいちゃんソックリ。」
ばあちゃんが笑いながら俺を見下ろす、
「それにしても、本当に大きいね?」
「さっきオジサンにも言われた。
でも、これでも俺は走れるし泳げる、速く。」
「大吉さんから聞いてる。
しっかり食べなさい。身体が欲してるの。
身体が大きくなろうとしてるから、しっかり食べなさい。」
そんな・・・じいちゃんみたいなことを言ってくれた。
「大吉さん、また泳げたって喜んでた。
海でだけど、また泳げたって。
弱い人だから、1人だと泳げなかったの。
付き合ってくれてありがとう、一成。」
「じいちゃん、凄い速かった。」
「そうなの・・・。
おばあちゃんは見たことがないから。」
「人間じゃないみたいだった。」
「じゃあ・・・本気で泳いだんだ。
死ぬ気で、泳いだんだろうね。
泳ぎたいって、いつも言っていたから。」
「いつも?」
「お酒を飲むと、いつも言ってた。
泳ぎたいって、泳ぎたいって言いながら・・・泳いでた。」
ばあちゃんの言葉に、固まる・・・。
「暴れてるように見えたかもしれないけど、大吉さんは泳いでたつもりだったの。
私に・・・見せたかったんだって、格好良い姿。」
「そうだったんだ・・・。」
「“そしたら、俺のことまた好きになってくれるのに”って、いつも言ってた。」
意味が分からず、ばあちゃんを見る。
「何でか知らないけど、大吉さん・・・。
お酒で暴れるようになってから、私が大吉さんのこと好きじゃなくなったと思ってたみたいだね。」
そう言って笑いながら、俺を見下ろした。
「一成って、顔も大吉さんにソックリだよね。
6歳も下で格好良かったから、私の方がいつも他の女の子から酷いこと言われてたのに。
あんまり“好き”とか言わなかったからかな、不安にさせてたみたいだね。」
「最後も・・・言ってなかったよ?」
「そうだった、忘れてた。
まあ、すぐに追い付くから。
その時に、お酒飲みながら伝えるよ。」
そう言って笑うばあちゃんは、“強い”と思った・・・。
病室で見た時からずっと思っていたけど、ばあちゃんはやっぱり、強かった・・・。
肝っ玉とか、そういうのはよく分からないけど・・・
心が強い人だとは、分かった。




