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昨日よりも速く、離れ小島までついた。
そして、休憩をすることもなく、また砂浜を目指す。
全身に海の流れを感じ、全身で海の流れを掴み取り、両手で流木の動きも・・・。
またすぐに砂浜まで戻ってきて、流木を抱え素っ裸のままじいちゃんの所に戻ってきた。
「昨日より速いでしょ!?」
「早かったなぁ、一成。
でも、俺の若い頃はもっと速かった。」
「明日はもっと速くなるよ。」
「明日は、流木なんて掴まらないで泳げ。
その身体だけで泳いでみろ、一成。」
じいちゃんがそう言って、ランニングの白い肌着を脱いだ。
じいちゃんは外でもランニングの白い肌着だけ着て、そこに腹巻きをしている。
しかも、ズボンも履かずトランクスで出掛けている。
その肌着も腹巻きも、トランクスも全て脱ぎ捨てた。
「来い!一成!泳ぎ方を教えてやる!」
いつもよりハッキリと大きな声で、じいちゃんが俺を呼んだ。
「俺は水泳選手だったからな。
タダで教えてやるの、ありがたいと思え!」
*
夕暮れの中、また原付の前に立ち、じいちゃんの運転で家まで帰る。
「腹減ったかぁ、一成。」
「お腹空いて死にそう。」
「いっぱい食え、食った分だけデカくなる。
一成のお母さんはデカいからなぁ。
良い遺伝子の女を見付けたよ、俺の息子は。」
「お父さんも大きいじゃん。」
「こればっかりは、どっちに似るか分からねーからなぁ。」
そう言ってから、じいちゃんがしばらく黙った。
俺は気にせずに、また身体全身で風を掴んだいた。
その時、じいちゃんが小さな声で呟いた。
「お母さんに、会いたいなぁ。」
「じいちゃんの、お母さん?」
「“俺のお母さん”。
一成からしてみたら、おばあちゃんだなぁ。」
「ばあちゃんか。
じいちゃん、ばあちゃんのこと大好きだもね。
毎日電話してるし。」
「大好きだなぁ。会いたいなぁ。」
「お母さんが赤ちゃん産んで、しばらくしたらじいちゃん帰れるでしょ?
あと少しじゃん。」
「本当は毎日会いたいからなぁ。
俺は“お母さん”がいないと、生きていけないんだよ。」
そんな大袈裟なことを言うじいちゃんに、笑ってしまった。
そしたらじいちゃんが、言った・・・。
「一成も、“俺のお母さん”みたいな女と結婚しろぉ。」
「ばあちゃんか、優しいもんね。」
「優しいだけじゃない。
“俺のお母さん”は肝っ玉の据わった女だからなぁ。
一成は俺にソックリだから、“俺のお母さん”みたいな女が良いぞぉ。」
ばあちゃんは、俺にはただ優しいばあちゃんで・・・。
たまにしか会えないけど、その時は優しいとしか思ったことがなかった。
どう肝っ玉が据わっているのか分からず、聞こうとした時・・・
また、じいちゃんが言った・・・。
「追い付けるようで追い付けない、そんな女がいいぞ、一成。」
そんな難しいことを言ってくる。
「一成も弱っちいからなぁ。
女に尻叩かれるだけじゃ動けねぇから、好きな女が常に前にいてくれたら、死ぬ気で追い付こうとするだろぉ。」
「俺、弱くないから!
そんなことしなくても、俺は強いし速い!!」
「それは見物だなぁ!
先に天国で酒飲みながら、見下ろしてるからなぁ!」
じいちゃんが大声で笑い、その笑い声が暗くなりそうな空に昇っていった・・・。




