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小学1年生 6月
「父さん!また一成のことを原付の前に立たせて運転したよね!?」
「なぁんで知ってるんだよ?」
夜にお父さんが帰って来てから、またじいちゃんがお父さんに怒られている。
「近所の人達がみんな目撃してる!
危ないから止めてくれよ!
お母さんも!!妊娠してて大変だけど、一成に何かあったら大変だから父さんのこと止めてくれって!!」
「こんな田舎道、原付でノロノロ運転するくらい大丈夫よ。」
少し大きくなったお腹でテキパキと動きながら、お母さんがお父さんにそう言って丼をドンッと俺の目の前に置いた。
「俺の息子なのに、そんなになっちまってなぁ。
そろそろ胃に穴空くぞ~?」
「お義父さん、お酒それで終わりにしないとビンタしますよ?
あと、私妊婦なんでタバコは外で。
私はお義母さんみたいに優しくないので、本当にビンタしますからね?」
「はい・・・。一成、行くかぁ!」
丼に白米と肉が大量にあったのを一瞬で食べた俺は・・・それでも足りず。
お母さんに今日も怒られながら、炊飯器の釜を持ち、しゃもじを入れたままじいちゃんについていった。
庭にある大きな岩に座りながら、俺は釜に残っているご飯をしゃもじで食べていく。
その隣で、じいちゃんが震える手でタバコを吸っている。
じいちゃんは、“あるちゅう”というやつで、しかも頭も病気か何かをやっているらしく、手が常に震えている。
喋る時も呂律が回っていなくて、震える声で小さく喋るから、何を言っているのかあんまり分からない。
でも、俺はじいちゃんが大好きだった。
お母さんが妊娠をしてから、数ヶ月前からじいちゃんが家に来た。
しゃもじでご飯を食べながら、大きな2階建ての家を見る。
この家は、大工のじいちゃんが建てた家。
お父さんとお母さんは都会出身だけど、お母さんの親・・・俺は会ったことのないじいちゃんとばあちゃんが、結婚を反対したらしい。
理由は、じいちゃんとばあちゃんが“土地も家も持ってない家庭”という理由だったらしい。
それで、じいちゃんが知り合いからこの広い土地を安く買って、そこに大きな家を建ててくれたらしい。
「俺の息子なのに、一成のお父さんはなぁんであんなクソ真面目な男になったんだろうなぁ。
こんなクソ田舎から3時間も掛けて都会の会社になぁ。
だから公務員は融通が効かないんだよ。」
震える手でタバコを吸っている、横に座るじいちゃんを見る。
じいちゃんのすぐ後ろには山があって、俺の家は山のすぐ麓にある。
生まれた時からこの山が俺の遊び場で、俺の家の庭はどこまでも広がっていた。
でも、俺はこの山だけじゃ満足出来なかった。
全然、満足出来なかった。
「じいちゃん、明日も学校終わったら海に連れて行ってよ!」
「お父さんには秘密だぞぉ。
近所のお喋りババアども、余計なこと言いやがって。なぁ?」
じいちゃんがタバコを3本吸い終わり、俺も釜のご飯を食べ終わったので2人で立ち上がった。
「一成は俺にソックリだからなぁ。
俺がギリギリまで何日も寝ないで名前考えたから、それでそんな風になっちまったんだろうなぁ。」
「俺、自分の名前好きだよ!」
「良い名前だろぉ、俺がつけた名前だからなぁ。」
空っぽになった釜を持ち、それでもお腹が減ったので・・・家に入ってから冷蔵庫を今日も漁る。
俺はいつもお腹が空いていた。
食べても食べても足りなくて、常にお腹が空いていた。
「一成、風呂行くかぁ。」
じいちゃんが素っ裸でリビングに現れ、お母さんはもう慣れたのか何も言わなくなった。
お父さんだけがまだ怒っていたけど、俺は大きく頷きじいちゃんの後についていった。




