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「瑠美たん、お疲れ!」
「お疲れ様です・・・。」
中田部長が甘い顔で、また私に笑いかける・・・。
今はその顔を見たらいけない気がしたので、急いで顔を逸らした。
なのに・・・
電車の窓ガラスに映る中田部長も、やっぱり甘い顔で・・・その顔をもっと甘くして私に笑いかけている。
「瑠美たん、電車この線なんだ?」
「普段は違いますけど、こっちで用事があったので。」
「酒・・・飲んだ?顔少し赤いけど。」
「はい、少しだけ。」
「飲み会・・・?」
「そんな感じです。」
中田部長が黙り・・・私のジャケットからしっかりした指を離し、つり革に掴まった。
それから無言で、電車に2人で揺られ・・・
揺られ・・・
不思議に思い、中田部長を見上げる。
中田部長は無表情で窓ガラスを眺めているだけで、気付いていないのか・・・
念の為、声を掛ける・・・。
「今の駅・・・中田部長の家の最寄り駅ですよね?」
「うん・・・。」
分かっているようなので、これから何か用事があるのかもしれない、金曜日の夜だし。
「私は、ここで乗り換えなので・・・お疲れ様でした。」
中田部長に小さくお辞儀をして、電車を降りて・・・
降りて・・・
歩いて・・・
歩いて・・・
立ち止まった・・・。
少し、立ち止まったままで・・・いた。
そして、笑ってしまった。
「中田部長、ついてきてますか?」
「うん・・・。」
「こっちに用事があるのではなくて?」
「瑠美たんは、このまま帰るの?」
「そうですけど・・・。」
「じゃあ、瑠美たんの家に行くのが俺の用事。」
そんなことを言われ、戸惑ってしまう。
「瑠美たんの家、行きたい。」
中田部長が、なんだか悲しそうな顔をしているようにも見えるし・・・もっと戸惑う。
もっと、戸惑う・・・。
どうしよう・・・。
こういうのは、私は本当に分からない・・・。
もう、26歳になるのに・・・。
私は、26歳になるのに・・・。
あと2ヶ月弱で、私は26歳になる・・・。
「瑠美たん・・・?」
中田部長が驚いた顔をしている。
それで、私も自分でやっと気付いた。
私は、泣いてしまっていた・・・。
慌てて、涙を拭う。
「ごめんなさい・・・っお酒、飲んで・・・少し酔っぱらってるみたいです。」
そう言った私に、中田部長は少し怖い顔になり・・・
「最寄り駅、どこ?」
と、聞かれ答えると・・・
「あ・・・っ」
しっかりした大きな手で、私の手を握り・・・強い力で引っ張り歩き始めた。
*
電車を乗り換えた後も、中田部長に手を握られたままで・・・。
こっちの電車は結構混んでいて、大きな中田部長の大きくて厚い胸に・・・私の顔も少しついてしまっていて・・・。
こういうことになるのは、初めてで・・・
こんな風に、されるのは、初めてで・・・
私のことが好きとか、本当に好きとか、そういうのは違うとは思うけど・・・
でも、こんな風になると・・・
女として、やっぱり嬉しくて・・・。
女として、やっぱり、嬉しい・・・。
どうしよう・・・
どうしよう・・・
私は、嬉しい・・・。