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その言葉に、少しだけ悩み・・・
「おじいちゃんですよね?」
と、答えると・・・
副社長が凄い驚いた顔をしている。
「知ってたのか?」
「“土台”という表現なのでよく分からないようにも思いますが、一成はおじいちゃん子なので。
それかなと思いました。」
「中田とは、中田が小学校1年生からの付き合いだと聞いているが・・・。
調べた限り、お互いの実家も隣同士で、同じ水泳スクールで一時期選手コースだったな。」
「はい、私が中学1年生の時に出会いました。
なので・・・一成のことなら結構何でも知っています。」
副社長が何かを考えながら、また私を見た。
「中田の話は・・・漠然としすぎていて、汲み取れていないことも多い。
中田は、いつから“伊藤”さんのことが好きだった?」
「その“好き”とは、どの“好き”でしょうか?」
「・・・的確な質問だな。
俺も、そこだけが分からなかった。
“ずっと好きだった”とは、言っていたが・・・。」
「その言葉に嘘はないと思います。
一成は昔から、私のことが“好き”だったと思います。
でも、恋愛としての“好き”は・・・ないかもしれません。」
副社長が不思議そうな顔で私を見ている。
それに笑いながら、私は答えた。
「恋愛としての“好き”は、今もないと私は思っています。
それでも・・・一成は私を求めてくれているので、私も承諾をしました。」
「恋愛としての“好き”にも、俺は見えたがな・・・。」
「一成も、よく分かっていないのかもしれませんね。
その“愛”が、なんの“愛”なのか・・・。」
副社長が少し視線を下に移す。
テーブルに置かれた私の資料を眺めているように見える・・・。
「“伊藤”さんの土台は何だ?
何で・・・そんなに強い?」
今度は私の“土台”も聞かれ、それにも少し悩む・・・。
でも、少しだけ・・・。
お腹に手を当て、少しだけ呼吸を整える。
そして、副社長を真っ直ぐと見た・・・
「“母”は、強いから・・・。」
満足そうに笑った副社長に改めてお祝いを言って貰い、副社長室を出てから法務部の部屋にも行った。
部長からすぐに法務部の部屋の外に連れ出され、周りに誰もいないことを確認するような仕草をしたかと思うと・・・
「今、SNSで話題になってるぞ?
中田一成が女の子と婦人科にいて、女の子が妊娠って・・・」
「はい。今さっき、副社長からも聞きました・・・。
ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません。」
「副社長とさっきSNSの内容を確認していた時は、副社長は笑っていたが・・・大丈夫だったか?」
「その話は最後にサラッと言われただけで、特には・・・。」
「そうか・・・。
あの内容なら・・・中田一成のイメージも凄い上がるし、写真付きで“KONDO”のウェア着てたしな。」
その言葉には、私は驚いて・・・
「写真ですか・・・?」
「何人かと写真撮ってたみたいだけど、知らなかったか?」
そう言いながら、部長がスマホを操作し・・・画面を見せてくれた。
そこには、婦人科の待合室で、一成が若い女の子と写真に写っていて・・・。
その女の子が書いたSNSの内容は・・・
《婦人科に中田一成いた!
処女だった彼女が妊娠3ヶ月!
診察室だけじゃなく女子トイレの前までベッタリ!
中田一成、この彼女がいないと生きていけないし、泳げなくなるらしい(笑)》
待合室での会話が、載せられていて・・・。
苦笑いをしながら少し頭を抱えた。
「他の人もこんな内容だったぞ?
診察室から先生達の笑い声が聞こえて良い人そうだったとか、待合室で彼女をまだ必死に口説いていたとか、これで結婚してもらえるって喜んでたとか。
あと、処女の彼女も若くて可愛かったとか・・・」
「あの・・・分かりました、もう結構ですから。」
部長が珍しく、私にもここまで面白そうな顔で笑っていて・・・
貴重な顔でもあるけれど、もう止めておいた。
その後、「体調と相談しながらで大丈夫だから、無理しないように」と言って貰い、部長とは別れた。
それから、人事部の部屋にも行き入籍の報告と、名字変更の申請などもその場で提出。
その後は人事部と総務部が連携して処理を進めてくれるとのことだった。
「さっき、中田部長からは“そろそろ引っ越す予定”と聞いているから、引っ越したら住所変更の申請もな。
一応、2人分申請するように。」
人事部長から最後にそう言われ・・・
すっかり忘れていた、“新居”のこと。
「中田部長、“そろそろ引っ越す”と言っていましたか?」
「・・・そう言ってたな。
そろそろ物件の引渡しをされて、年内にはって。」
「そうですか・・・。」
色々なことが急展開で・・・戸惑う。
不思議そうな顔をしている人事部長に挨拶をして、祝福してくれている人事部のみんなにもお礼を伝え、人事部の部屋を出た。
そして、廊下を歩いていると・・・
向こうから、秘書課の若い女の子が歩いてきた。
これには、また苦笑い。
だって、私を攻撃する気満々だから。
それが歩いているだけで分かってしまう。
「お疲れ様。」
苦笑いをしながら、近くまで来た時に私から言った。
それに返事をすることなく、第一声が・・・
「上手くやったね、オバサン。」




