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「瑠美、随分遅かったわね?

どうだった?」




実家に帰ると、お母さんが少し心配そうに玄関まで迎えに来てくれた。

そんなお母さんに、私は伝える。




「妊娠してた・・・。」




「そうでしょうね、そんな症状だったもん。

おめでとう、良かったじゃない。

いつ入籍するの?」




お母さんからの返事に驚きながら、少し震える口を無理矢理開いた・・・。




「さっき、婚姻届出してきた。」




「一成君付き合ってからすぐに準備してたからね?」




「そうなの・・・?」




「付き合ったって言ってた翌週には仕事帰りに来て、証人欄の記入お願いしてきたのよ。」




「そうだったんだ・・・。」




「あんなに愛されてて良かったじゃない。」




「どんな愛なんだろう、あれは・・・。」





いつかと同じ言葉を、また小さく呟いた。





「一成君は?」




「副社長に報告と、その後プールに戻るって。」




お母さんに答えた時、スマホが鳴った。

一成かと思ったら、法務部長の会社スマホ・・・。







「ご気分悪くなりましたら、おっしゃってくださいね。」




法務部長からの電話が来てすぐ、我が家の目の前に高級車がとまった・・・。

副社長の車に私が1人で乗っていて・・・運転手さんに話し掛けて貰った。




これから本社に行くことになったけど、どうなるのか・・・

一体、どうなるのか・・・




私の人生は・・・




どうなるのか・・・。




それに、もう私の人生だけじゃなくて・・・。




お腹に手を当てる。

この子の、人生にも影響されてしまうから。

一成から“俺の奥さん”と“俺のお母さん”と言われ、それを分かったうえで結婚するならと・・・そう思って承諾をした。




てっきり、無意識に“お母さん”と思っているのかと思っていた。

でも、一成は私のことを“お母さん”であると自分でもしっかり確認出来ていたようで・・・。




お腹に手を当てながらも、まだ悩む。

まだ、戸惑う・・・。




一成は、私に対して本当に“お母さん”を求めていた・・・。

もしかしたら、今後も他の女の子を選ばないかもしれない。




でも、でも・・・




この子の“お父さん”にはなれるのかな・・・。




私の“息子”にもなってしまった一成が、この子の“お父さん”になれるのかな・・・。




不安は尽きない。

ずっと、不安は尽きない。

私は変だからかもしれない・・・。




他の女の人は、妊娠して入籍も出来たら・・・もっと幸せを感じるのかな。




私は、変なことをしているような気がしてしまう。

私に、この子を授かることが許可されるような・・・そんな権利があったのか、不安になる。




震える手で、スマホを握り締める。




「一成・・・」




窓からの景色で、もうすぐ本社だと分かった。

一成は、もうプールに戻ったかもしれない。

続いていく一成の人生に・・・

私とこの子は・・・一成と一緒にいいのだろうか・・・。




不安は尽きない・・・。




不安は尽きない・・・。




一成、“お母さん”とこんなことしたらダメだよ・・・。




そして、“お母さん”である私がこんなことしたら、もっとダメなんだよ・・・。




どうしよう・・・。




どうしよう・・・。









そんな不安も忘れるくらい・・・緊張で胸が張り裂けそうで・・・。




だって、副社長が目の前にいる。




「そんなに緊張する必要はない。

お祝いと、少し質問するだけだからな。」




副社長室のソファーに座る私の目の前に、副社長が座った。




「それで、まずは・・・おめでとう。」




「ありがとうございます・・・。」




「あまり、嬉しくない?」




「そう見えますか・・・?」




「見えるな。」





副社長が、少し怖い顔で私の顔を見てきて・・・何かを伺っているようだった。

そんな副社長を見返していると、副社長が驚いた顔をした。





「驚いたな、今の何ともないのか?」




「今の、ですか・・・?」





副社長が面白そうに笑いながら、目の前のテーブルに資料を置いた。

そこには・・・私の、“伊藤”だった私の名前がのっていて・・・





「悪いが、“伊藤”さんのことを調べさせた。

中田にはうちの看板を背負わせているから、中田のイメージが“KONDO”の企業イメージにも繋がるからな。」




「それは、そうですね。」




「調べさせたが・・・特に、これといって。

水泳は一時期頑張っていたようだが、うちの会社ならもっと凄かった選手は多くいる。

家庭も一般家庭のようだし。

何が・・・“伊藤”さんをそんなに強くしたのか、俺には想像もつかない。」




「強くですか・・・?

私、強いですか・・・?」




「強いな、相当強い。

俺が“気”を出しても普通にされたのは、ある意味“伊藤”さんが始めてだ。

“伊藤”さんの所の法務部長も、夏生も向かってはきたが、踏ん張って向かってきたからな。」




そんなよく分からないことを言って、副社長が何かを思い出したように笑った。




「法務部長の奥さんには「変な顔しないで」と言われたが、あれは普通でない反応だったからな・・・」




「あの方なら、そんなことを言いそうですね。」




法務部長の奥さんのことを思い浮かべ、自然と笑顔になってしまった。

それは、副社長も同じようで・・・2人で和やかな雰囲気になった。




「中田からも、入社時に話は聞いている。

あいつの“土台”は分かった。」




「“土台”ですか?」




「中田一成の1番下。

その“土台”が何より大切だと、俺は思っている。

ちなみに、恥ずかしいが俺は奥さん。

勝手にバラすが法務部長も奥さん。」




副社長が私を真面目な顔をして見ながら、口を開いた。




「だが、中田一成の“土台”は“伊藤”さんではなかった。」

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