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さっきまでは待合室で散々話していたのに、今は2人で立ち・・・お互い放心状態で。
そしたら、待合室の椅子が1つ空き・・・
1席元々空いていたので、一成に手を引かれそこに2人で座った。
私は、戸惑っていた。
だって、ピルを飲んでいたし・・・。
でも、先生が言うには、そういうこともあるとのことで・・・。
心拍も確認出来て、赤ちゃんは元気とのこと・・・。
赤ちゃんは、元気とのこと・・・。
私は、お腹・・・というか、下腹部に手を当てる。
赤ちゃんが、いる。
私のお腹の中に、赤ちゃんがいる。
一成と私の、赤ちゃんがいる・・・。
でも、戸惑っていた・・・。
だって、一成は・・・いつか、私を追い抜いていくから・・・。
もう、2人だけの問題でもなくなってしまったから・・・。
戸惑いながら、隣に座る一成を見ると・・・
一成も何やら真剣に考えていて。
まだ、一度も喋っていないし、笑ってもいなくて・・・。
その反応にも、戸惑う・・・。
どうしようかと思っていたら、一成がゆっくりと口を開いた。
何を言うのかと思ったら・・・
「瑠美って・・・処女だったよね?」
と・・・。
「なに?突然・・・。」
「いや、だって・・・妊娠3ヶ月って。
俺・・・2ヶ月前からの男じゃない?」
「確かに・・・。
そこ、先生に確認しなかった。
ビックリしすぎて、確認するのも思いつかなった。」
「でも、あれは処女だったよね・・・?」
「そうだよ。疑ってるの・・・?」
「違う、そうじゃなくてさ・・・」
一成からそんな風に疑われているのが分かり、ショックを受けていると・・・
「あの~・・・」
と、私の隣に座っている女の人・・・鞄にマタニティマークをつけている女の人が話し掛けてきた。
不思議に思い、その人の方を見ると・・・
「ごめんなさい、会話が聞こえてしまって・・・。
妊娠の周期なんですが、最後の生理開始日から数え始めるので・・・そういう風になるんだと思いますよ?」
と・・・。
そうなんだと、思った瞬間・・・
「・・・っマジか!!!!
焦った!!俺の瑠美への思いが強すぎて、それだけで妊娠したのかと思った!!!」
「・・・なにそれ?」
「だって、瑠美処女だったのに、妊娠3ヶ月とか・・・そうとしか思えないって!!!
瑠美処女だったじゃん!!!」
「大きな声で“処女”だったこと言わないでよ。」
「いや、だって処女だったし・・・」
そう言って、一成が言葉を切り・・・
「この追い上げは凄過ぎるな、瑠美!!!
これで文句ないでしょ!!
これで俺と結婚してくれるよね!?」
そんなことを婦人科の待合室で大声で言って・・・
「マジで良かった!!!
俺、瑠美と今回結婚出来なかったら・・・また泳げなくなってた!!!
・・・あ、教えていただきありがとうございます!!!」
と、一成が私の隣の席の女の人に右手を伸ばし・・・自然に握手をしていて。
そしたら・・・急に周りの人達も一成に集まってきて、祝福の言葉もあったけど・・・一成との握手会みたいになっていた。
一成が嬉しそうにみんなに握手をしていくのを、私は複雑な気持ちで眺めていた。
これで、いいのか・・・。
本当に結婚して、いいのか・・・。
悩んでしまう。
悩んでしまう。
お腹に手を当てながら、考える・・・。
もう、一成と私、2人だけの問題ではなくなってしまったから・・・。
*
「準備・・・良すぎない?」
こんなに悩んでいるのに、病院の近く・・・お蕎麦屋さんのテーブルの前には婚姻届が。
それも、証人の欄にはお互いの親の名前が書かれている。
それに・・・
「2人の認印まで、どうしたの?」
「いつでも書けるように準備してた!
事前に準備しておくの、やっぱり大切だね!!」
「それは、そうだけど。」
「役所もすぐ近くだし、このまま2人で出して来よう!!
瑠美の誕生日だし、木曜日だし、今日しかない!!!」
一成がそう言って、婚姻届にボールペンで記入を始め・・・あっという間に認印も押している。
そして、凄い嬉しそうな顔で、私にボールペンを渡し・・・婚姻届を私の前に置いた。
その紙を見下ろし・・・
まだ、私は悩んでいる。
だって・・・
だって・・・
一成は・・・
一成は・・・
「俺は、瑠美のことが大好きだよ。
それじゃあ、ダメ・・・?
これからでいいから。
これから、俺もっと頑張るから。
瑠美に“大人の男”として好きになって貰えるように、もっと頑張るから。」
一成がそう言って、真面目な顔で私を見る。
「酒飲んで、暴れたりしないから。」
「お酒・・・?」
一成が突然、お酒の話を始めた。
うちのお父さんもお酒を飲んで暴れないし、一成のお父さんだってそんなことしていないはず。
確か、お酒を一口も飲まないくらいだったし・・・。
それに・・・
「一成、お酒飲んだの?」
「飲んでない。
死んでから飲む予定だから、この世では飲まない。」
「うん、知ってる。
何回か聞いたことあるから、アレルギーになる前から。」
一成は真面目な顔のまま、頷いた。
そして、笑った・・・
そして、笑いながら、言った・・・
「俺の“奥さん”になって、俺の“お母さん”になってよ、瑠美。」
そんな、どう受け止めていいのか分からないような言葉を、サラッと言った。




