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一成が、初めて見るような顔で・・・営業スマイルのような顔で私を見下ろす。
「瑠美、この人は?」
「・・・ラーメンの、男の子かな。」
「・・・そういう面白いやつ、今じゃないから。」
営業スマイルだった一成が、いつもの笑顔に戻った。
「中田一成じゃん、瑠美さんと知り合いなんだ?」
ラーメンの男の子が少し興奮しながら、一成に話し掛けた。
そしたら、一成が・・・
「はい、お付き合いしてるので。」
と、サラッと言って。
驚き、一成を見上げると・・・笑ったまま私を見下ろしていた。
「俺、副社長に呼ばれてるんだよね。
じゃあ、また・・・帰ってから!
顔色悪いから、帰ったら寝てな?」
そう言って、ラーメンの男の子に小さくお辞儀をして、すぐそこの階段を上がっていった。
そんな一成を、私は見ていた・・・。
一成は、スーツではなかったから。
なんでか“KONDO”のウェアを上下着てきて、勢いよく階段を登っていった・・・。
「瑠美さんの彼氏、中田一成なの!?」
ラーメンの男の子が興奮したように、私に言う。
「そうだね・・・。
“今は”お付き合いしてる。」
「“今は”って、そんな感じ?
凄い愛されてる感じだったけど。」
「どうだろう・・・。
どんな“愛”なのかな、あれは・・・どんな“愛”になるのかな・・・。」
小さな声で呟いたからか、ラーメンの男の子には聞こえなかったみたい。
何故か尊敬するような眼差しで、私を見ていた。
法務部の部屋に戻り、今日も仕事をこなしていく。
でも、眠くて眠くて仕方がなかった。
何度も寝てしまいそうになりながら、ミスしてしまいそうな不安だけがあって・・・。
そんな中でも、何度も確認をしながら仕事を進めていた。
*
定時になり、今日は残業もせず帰宅しようと、デスクを片付けていた。
「伊藤、1つだけいいか?」
電話をしていた部長が、受話器を置いた瞬間に声を掛けてきた。
それに返事をし、メモとペンを持って部長のデスクの前へ。
「中田一成の雇用契約書、持ってきて貰えるか?覚書作成するから。」
そう、言いながら・・・法務部の資料室の鍵を渡してきた。
それに返事をしてから、鍵を受け取り資料室に向かった。
資料室の中、すぐに一成の雇用契約書は見付かった。
社員の雇用契約書は私が作成をして保管しているし・・・一成のだしすぐに見付かった。
一成の雇用契約書を久しぶりに見る。
これを作成した時は、何度か部長に確認をして貰った。
他の社員の雇用契約書を作成する雛型とは、結構違う内容だったから。
一成は、“KONDO”の社員。
所属はサポート支援部。
でも、サポート支援センターを運営しているのは、“KONDO”が新しく立ち上げた法人。
“一般社団法人KONDOアスリートサポート支援”
ここが運営をしていて、この一般社団法人の理事も従業員もいる。
そこに、サポート支援部の社員が仕事をしに行っている形になっている。
さらに、一成は・・・
入社時の雇用契約書では、サポート支援センターで部員の一員として・・・故障したアスリートとしてサポートも受けるという内容だった。
それと、9月1日付でサポート支援部の部長に就任した時も、今回みたいに部長が「覚書を作成する」と言って部長案件で覚書を作していた。
部長案件となった覚書は部長が管理しているので、私は見られないけれど・・・
また一成が、遠くへ行くのは分かった。
一成は、いつもすぐ私に追い付いてしまうから。
そして、追い抜いてしまう。
遠くへ、遠くへ、行ってしまう・・・。
もしも、来月に私の生理が来たとして、結婚出来たとしても・・・
一成はすぐに追い抜いてしまう。
そして・・・他の女の子を選ぶ。
私は“お母さん”なのだと、気付いてしまうから。
結婚して一成が落ち着いたら、私に求めていた愛は、“お母さん”からの愛だったと、気付いてしまうから。




