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一成のその言葉に、私はまた、泣いた・・・。

泣きながら、頷いた。




私は、悩んでいた・・・。




一成が急に“瑠美たん”と私のことを呼んで、急に距離を縮めてきたことを。

その距離は、今までみたいな距離ではなかったから。




お隣の“一成君”は、あんな距離の取り方をしたことがなかったから。

なんなら、“早く彼氏作りなよ”と・・・“一成君”が高校生の時はよく言っていた。

そして、“一成君”には彼女がいた。




それに、私のことを“お母さん”と言っていた。

私は高校生の一成君に、“お母さん”と言われていた。




“一成君”が高校を卒業して、“KONDO”に入社をしてからも、それは変わらなかった。

入社から半年が経って私が家を出るまでも、“一成君”は私を“お母さん”と言っていた。




私が家を出てからは、仕事でしか会わなくなって・・・

仕事の話以外はしたことがなかった。




そんな“一成君”が・・・

“中田部長”でもある“一成君”が・・・




急に、あんな感じになって・・・




私は悩んだし、戸惑ったし・・・




どうしたらいいのか、分からなかった・・・。




どうしたらいいのか分からなかったけど・・・




私は、“嬉しい”とも思ってしまった。




私は、“嬉しい”とも思っていた。




私は・・・




私は・・・
















「結婚したい・・・。

一成が私で大丈夫なら、結婚したい・・・。

それで、一成が落ち着いて・・・。

それで、その後・・・その後・・・私を追い抜いていくとしても、私は一成と結婚したいと・・・そう思った。」




そう、伝えると・・・

一成は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑って頷いた。




「2人で頑張ろう、瑠美。」




「うん、頑張る・・・。

一成も頑張ってね、本気でだよ?

死ぬ気でだよ?」




「ここまで来たら、逆に死ぬこと怖くなくなってきた。

幸せ過ぎて、今死んでもいいくらい。」




「私1人じゃ結婚出来ないから・・・。」




「分かってる、瑠美を1人でレーンに残さない。」




「そう言うけど、すぐに追い付いて・・・いつも追い抜かれてたけど。」




「でも、また何度も瑠美の所に追い付いたよ?

追い抜いたけど、何度もグルグルしてたじゃん。」




「それは・・・ちょっと嫌味。

どうせ私はそんなに速くないもん。」





少し怒りながら一成を見上げると、一成は面白そうに笑っていて・・・。





そして、真面目な顔になり・・・





私を見下ろした。






「行ってきます、瑠美・・・。」






そう言って、ゆっくりとプールに歩いて行ったので・・・一成の大きな背中を少しだけ押した。






「行ってらっしゃい、一成・・・。」











一成が、ゆっくりとプールの中に入っていく・・・。

その姿を見ながら、また涙が止まらなかった。

でも何か起きたらいけないので、涙を何度も拭き一成の様子を見ていた。




一成が出場出来るような大会では、一成の身長でも足がつかないような深いプールで泳ぐ。

でも、今日は区民プールなので・・・

一成の身体は沢山見えていて・・・

これはこれで、湿疹が分かりやすいと安心もした。




プールにお腹まで入っている一成が、自分の身体を何度が見下ろし・・・プールサイドに立ったままの私を見て、笑った。




それに頷くと、一成はゆっくりと歩き始めた。




それを確認してから、私もプールへ。




私は、1つのレーンの中でターンをして、50メートルを泳げるレーンの所へ。




25メートルの方には数人泳いでいるけど、こっちのレーンは今日も人が少ない。

むしろ、夏場は水泳を習っている子ども達がよく来ているから、夏の方が賑わっている。




そんなレーンに、今日も私は入った。




歩いている一成の姿を少し確認しながら、ゴーグルを目におろした。

少しだけ、自然に息を吸い込み・・・背中にゴールの壁を感じながら・・・その場に、潜った。





この区民プールが、私は好きだった。

他にも近くに区民プールがあって、そっちの方が綺麗で人気があるみたい。





でも、私はここが好きで・・・。

大きな窓が一面にあるから、そこから太陽の光が差し込む。

そうすると、プールの中の水がキラキラと輝く。

プールの水だけじゃなく、プールの底にも・・・光がユラユラと動いていく。





気持ちの良い水が身体の表面を流れていく中、この水中の景色を見ていると・・・





私には、綺麗な思い出に感じる。

辛かった練習も、結果が出なかった時の悲しみも、選手コースを抜けた時の喪失感も。





私には、全てが綺麗な思い出になっている。





そんなことを思いながら、水中から1度顔を少しだけ上げ・・・





今度は思いっきり、空気を吸い込んだ・・・。





そして、ゴールでもある壁を、蹴った。





水の中で静かに・・・

流れていく水を全身で感じながら、けのびをしていた両手で思いっきり水を掻き・・・





勢いが乗ったまま、水面に上がる直前、





両手で水を胸の真ん中に集めるイメージで動かし、息継ぎをした。





そして、両腕を水の前に進めるタイミングで、足の裏で水を押す・・・。





バタ足でもなくドルフィンキックでもなく、私は足の裏で水を押す。





私は、ブレスト(平泳ぎ)の選手だったから・・・。

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