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「・・・っ瑠美!!」
家の扉を開け、一成が“ただいま”も言わず私の名前を呼んだ・・・というか、叫んだ。
「お帰り、一成。
ご飯ちょっと待ってね、私も今日は少し残業してて・・・。
今日はラーメンね?味噌ラーメン!!
生麺と市販の味噌ラーメンの味噌と、野菜炒めとメンマと味付け卵!!」
社食で話した男の子がずっとラーメンを食べないから、そのラーメンが気になって仕方なかった。
なので、今日はラーメンにすることに。
麺も味噌も、メンマと味付け卵も市販の物。
「野菜炒め今終わったから、食べる直前に麺茹でちゃうね。」
「ラーメンか!!!」
一成が嬉しそうにキッチンの上に置かれたラーメンの麺を眺めていて・・・
「・・・って、そうじゃなくて!
ヒヤリングの時、俺いなかったら待っててって言ったのに!!」
「“それは、どうかな。”って言ったけど。」
「そうだけど・・・。」
そう言って、一成が悲しそうな顔で私を見下ろす。
それに笑いながら、見上げる。
「デザートに、杏仁豆腐買ってきたから。」
「・・・よっしゃ!!
ラーメンの後は、杏仁豆腐!!」
「好きだもんね、2番目に・・・。」
*
「今度、ラーメン屋さんのラーメンも食べに行こうか?」
「行く!明日土曜日だし、明日行く!!」
「2日連続は、ちょっと・・・」
ラーメンを一瞬で食べ終わり、杏仁豆腐を嬉しそうに食べる一成を見て・・・
あのプリンは食べたのかな・・・・と、考えてしまった。
そんな自分に小さく笑いながら、まだ残っているラーメンを食べていく。
今日も、私は食べられる。
ちゃんと、身体が大人になろうとしている。
一成を見ながら、聞いた。
「明日、水着買いに行きたいの。」
「水着・・・?」
「私、可愛い水着が着たい。
水泳の水着だけで、可愛い水着を着たことがないから。」
一成が少し安心したような顔をして、私を見た。
「でも、可愛い水着着て・・・行く場所ある?」
「水着を着て入れる温泉、日曜日に行かない?
男女で入れるんだって。」
スマホの画面を一成に見せると、一成が私のスマホを受け取り真剣に見てると思ったら・・・
「こんな夢みたいな場所、存在してんのか・・・!!」
*
一成と手を繋ぎ着いた場所。
調べていた、1年中水着を買うことの出来るお店。
広い店舗には、色とりどり、色んなデザインの水着が売っている。
「可愛い・・・。
けど、私に似合う水着あるかな?」
「それより、よく考えたら俺以外にも見られると思うと・・・心配になってきた。」
そんなことを言いながら、私の手を強く握ってくる。
それに笑いながら、私の水着を選ぶことを始めた・・・
始めた・・・
始めた・・・
けど・・・
「これだと瑠美の胸見えるから。」
「これだと瑠美の背中見えるから。」
「これだと瑠美の足見えるから。」
手に取る水着、手に取る水着、こんなことを言われ認めてもらえない。
「そんなこと言ってたら、可愛い水着永遠に着られないけど。」
「分かってる・・・けど、瑠美の身体見られるの、しんどい。」
「じゃあ、競泳用の水着だったらいい?」
一成が、静止した。
そんな一成を無視して、可愛いビキニを1着手に取る。
「やっぱり・・・こっちにしようかな!」
自分の身体にビキニを合わせて、一成に見せてみる。
一成は苦しそうな顔でそれを見ていて、少ししてから私の顔を見た。
「競泳用の水着だったら、いい。」
*
「分かった。」
「でも、それも買う。」
「これも?」
「今日、まだ痛い・・・?」
その質問の意味が分かり、少し悩み・・・
「1回くらいだったら、大丈夫かも。」
「1回!?無理だよ・・・」
一成が残念そうにして・・・私が手に持っていたビキニを取り上げ、戻すのかと思ったらそうではなくて。
お会計の所に持って行き、一成が買ってくれた・・・。
お礼を伝えると、一成は嬉しそうに笑っていた。
「俺、高卒なのにうちの会社に入れて・・・マジで良かった。」
「新卒入社で高卒で働いているの、一成だけだもんね?
うちの会社に内々定貰ったって聞いた時は驚いたよ。」
「努力に勝る才能はないから。」
一成が、そんな懐かしい・・・言葉を。
私と一成が選手コースで泳いでいた、スイミングスクールの言葉だった。
それに頷きながら、握っていた一成の手を強く握り締める。
元々調べていた、あの水着のお店から近い店舗・・・うちの会社“KONDO”のスポーツ用品店が見えてきたから。
私だけじゃなく、一成も・・・“KONDO”の水着で泳いでいた。
他の多くの選手もそうだから特別というわけではないけど。
でも、一成が着る“KONDO”の水着姿は・・・誰よりも格好良かった。
誰よりも、誰よりも、格好良かった・・・。




