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「少しは、大人っぽい見た目になったかな?」
「大人っぽいはよく分からないけど、可愛すぎて・・・え、それで会社行くの?」
「成功したらね?
許可を貰って、化粧の仕方を動画で撮らせて貰ったの。
明日はいつもより早起きして、化粧してみる。」
なんとも言えないような顔の一成に振り向き、笑い掛けた。
「病院の後、お蕎麦食べてきちゃった!」
「マジか!!!美味しかった!?」
「感動するくらい美味しかった!」
「蕎麦は・・・もう少し後にしようかな。
でも、瑠美の誕生日までに絶対食べる!!」
甘く整った顔をハツラツとさせ笑う一成・・・
そんな一成に、私は両手を一成の肩にのせ・・・
背伸びというか、少しジャンプをするくらいの勢いで、唇を軽く重ねた。
驚いている一成に、笑い掛ける。
「食べてから結構経ってるけど、アレルギーチェック出来ないかな?」
そう言ってみると、一成が嬉しそうに笑い・・・
両手で私を強く抱き締め顔を近付けてくれたので、私も受け入れる・・・。
*
翌日、金曜日。
「一成、サポート支援センターの最寄り駅、次だからね?」
満員電車の中・・・
満員なのを理由にして、一緒に暮らし初めてからの一成は、私を抱き締めながら電車に揺られる。
「いつも瑠美のこと心配だけど、今日は心配過ぎて・・・。
俺も本社行こうかな。」
「今日は新しい入部希望者の方も来るんでしょ?」
「うん・・・。」
「入部契約書作成の為のヒヤリングに、私も後で行くから。」
「俺いなかったら、俺戻ってくるまで待ってて?」
「それは、どうだろう。
昨日お休みも貰ったから、本社での仕事もあるから。」
そこまで心配になる要因が分からないけど、とにかく不安そうな顔で私を見下ろしている。
そんな一成に笑い掛けた時、サポート支援センターの最寄り駅に到着した。
ドアの前に立つ人達がゾロゾロと出ていくので、一成に手を繋がれ私も一先ず降りる。
電車に乗り込む列の最後尾に一成と並び、一成を見上げる。
今日はなかなか手を放してくれず・・・。
それに笑いながら、一成に言う。
「行ってらっしゃい。」
そう言うと、一成の瞳が毎回少し揺れる・・・。
私の顔を見詰め、ゆっくり頷いた。
手をソッと離した一成・・・
背中をゆっくりと向けたので、その背中を少しだけ押す・・・。
「行ってらっしゃい、一成。」
「行ってきます、瑠美。」
*
水曜日も社内の人からジロジロと見られた。
それは、恐らく一成が私と付き合っていることを言ったからだと思っているけど・・・
金曜日の今日の見られ方は、苦笑いを通り越していて・・・。
ジロジロというか、マジマジと見られる感じで。
そこまで見られると、少し笑えてしまって・・・。
化粧が成功したので、“伊藤が化粧してる”“髪型も違う”と思われているのかも。
少し笑った顔のまま、法務部の扉をゆっくりと開いた。
顔を下げ仕事をしていた法務部長が、少ししてから顔を上げ・・・
「入る前は、ノックして貰えますか?」
と、言ってきて・・・。
他部署の人はそうしているけれど、法務部のメンバーはノックの必要がない。
でも・・・昨日お休み中にそういうことになったらしい。
「おはようございます。
申し訳ありませんでした。
次からはノックしますね。」
そう言ってから、鞄を自分のデスクの上に置き、座った。
その時、既に出勤している数人の人達が私を見ているのに気付き、思い出した。
「水曜日は早退、木曜日はお休みをいただきありがとうございました。」
笑顔で伝えると、みんなが驚いた顔をして・・・
「伊藤・・・?」
と、法務部長が声を掛けてきたので、部長を振り向く。
部長がまた驚いた顔をしていて、ここ数日で部長が驚く顔をよく見ている気がする。
それに少し笑いながら、返事をしてメモとペンを持ち部長のデスクの前に立った。
メモとペンを持ち、部長からの話を待っているけれど、なかなか始まらなくて。
そしたら、部長の顔が笑った。
大笑いするのは奥さんの前でだけだけど、ここまで笑っている顔も普段はない。
不思議に思っていると、部長が笑ったまま頷いた。
「すげーな、女って。
悪かったな、伊藤ならノックは必要ない。」
「分かりました。」
念の為、そうメモを取った。
「メモに書いとけ、有休ちゃんと取るって!」
「はい。」
部長が笑ったままなので、私も笑いながら頷きメモを取った。
確かに、有給休暇を取ると・・・1日を有意義に過ごせたから。




