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一成は驚いた後、困ったように笑った。
それからゆっくりとリビングに入ってきて、ローテーブルに並んだカツカレーを見た。
「美味しそう・・・」
「食べようよ。」
「俺、まだ食べられない物沢山あって・・・」
「知ってる、今日お母さんから聞いてきたから。」
一成が珍しく苦笑いをして、私を見下ろす。
「新しい食材、何も食べられてなくて・・・。」
「うん。だから、食べよう。」
一成を見上げ、笑う。
「一緒に食べよう、一成。
私も食べるから、一緒に。
私も食べるから・・・カツカレーも、牛乳も。」
「瑠美も・・・?」
そう小さく呟いた後、一成はまたローテーブルを見た。
そこには、カツカレーと牛乳が並んでいる。
2人分、並んでいる。
「瑠美、カツカレー食べられないよね?
いつもカレー少し食べてるだけだったし。」
「一成、私・・・一成に話してないことがあるの。
一先ず、私の話を聞いて欲しい。
手、洗ってきて?」
洗面台までついていくと、案の定・・・一成が固まっている。
無添加の固形石鹸がないから。
「捨てたの。
無添加の固形石鹸も、シャンプーもトリートメントも。」
「俺・・・ダメだった?
男として、見られなかった・・・?
それで、今日わざと・・・カツカレー?
ここから、追い出すために・・・。」
「一成・・・」
一成が泣きながら、私を見た。
「まだ、1ヶ月半・・・ある。
それまで頑張るから・・・っ」
「うん、あと1ヶ月半。
念の為付き合うのに、付き合ってくれるんでしょ?」
「うん・・・。」
「申込みと承諾の意思表示が合致していれば、契約は成立してるから。
口約束をした場合でも、意思表示の合致があれば契約は有効に成立するの。」
「そう、なんだ・・・。」
一成の涙を、手で拭う。
「私の手も、泡ポンプのハンドソープで洗ってる。
何かあったら、すぐに救急車を呼ぶ。」
スマホを見せ一成に笑い掛けると、深呼吸を何回かしてから・・・ゆっくりと、少し震える手で・・・手を洗っていた。
泡ポンプのハンドソープで・・・手を、洗っていた。
*
カツカレーと牛乳が並べてあるローテーブルを前に、一成が無表情で座っている。
それを確認してから、私は洗面台に戻った。
扉のないレイアウトなので・・・
少しの脱衣スペースで部屋着を脱ぎ、下着も脱いだ・・・。
それから、手に持った物を見て・・・少し悩んだ。
「一成!中学の時の私と、高校生の時の私、どっちの方が好きだった?」
脱衣スペースから少し大きな声で、聞いてみた。
「どっちも・・・。」
そんな、返事が返って来て・・・。
それに笑いながら、仕方ないので自分で決めてから・・・着た。
着た・・・。
久しぶりに、着た・・・。
いつぶりか分からないくらい、久しぶりに着た・・・。
洗面台の鏡で自分の姿を確認してから、自分では苦笑いをした。
そして、ゆっくりと・・・
ゆっくりと・・・
ゆっくりと・・・
一成のいる、部屋へ・・・。
一成がチラッと私を見て・・・
見て・・・
驚き、目を見開いた・・・。
それは、驚くと思う。
だって、私は今水着だから。
私は今、水着を着ている。
それも最近主流の競泳用の水着では、ない。
昔の水着を着ている。
これは・・・
これは・・・
これ、は・・・
「瑠美が・・・高校の水泳部で着てた、水着だね。」




